女子高生のC級アクション 2

 少年は音と揺れで目を覚ます。

 何が起きたのか理解するまで数瞬要したが、家に借金取りが押し入って、売られそうになったのを逃げてトラックに隠れていたのを思い出した。

 そしてそのまま眠ってしまい。トラックが動き出したのか。

 状況を整理して少し身を起こす。

 あのまま周囲をうろつくのは危険だからこれでいいのかもしれない。しかしどうやって降りよう。

 どこに行くのかも分からないのだ。途中か行き先で見つかったら警察に突き出されるのだろうか。

 そもそも無事に出られたとして、その後どうすればいいのか。

 山の中だったらどうしよう、などとろくでも無い考えばかりよぎったが、今悩んでも仕方がないことなのでもう少し休むことにした。

 どのくらい経ったか分からないが、警告音と共にゆっくりと動くのを感じる。

 おそらくバックしている。目的地に到着したのだろうか。

 さすがに男達は追ってきてないだろうから、出られるならここで出よう、と幌をめくって外を窺う。

 明るい。

 どこかは分からないが、サービスエリアではない。ということは目的地だろう。

 今出なくては荷物の積み下ろしが始まり見つかってしまう。

 運転席側は人の声がするが、荷台付近には人は居ない。

 少年は幌の隙間から液体のように這い出る。

 スカートが完全にめくれ上がって慌てて抑えるが、そもそも誰も見てないから外に出たのだ。

 そのまま気持ちを落ち着かせるようにホコリを払い、自分が今どこにいるのか分かる物を探し始めた。

 着いたのはスーパーかモールのような巨大店舗で、少なくとも山奥の山荘とかではない。

 道路も整備されているので少し歩けば街に行けそうだった。といっても少年の足ではかなり時間がかかったが。

 携帯などは始めから持たされていないので調べることはできない。

 しばらく宛てもなく歩くと民家が並び始めた。

 取り敢えず自販機でジュースを買う。昨日家に帰ってからそのままなので何も食べていない。喉も乾いていた。

 キャップを開け、中の液体を喉に流し込むと、水分と糖分が体に染み渡る。

 なんだか少し元気が出た。

 財布にいくばくかのお金はあるが、ホテルに泊まれるようなものではない。まともな食事も取れないだろう。

 明日まで生きていられるのか……。

 警察に駆け込めばまず家に戻される。そうなればお終いだ。両親は始めから少年を売る気で既に味方ではないのだ。

 標識や看板から地名を得るが聞いたこともない。そもそも何県なのか。

 通行人に「ここはどこでしょう」と聞いたら、やはり警察か救急車を呼ばれそうだ。

 足が痛みを訴え始める頃、駅名などからどうやら関東方面にいるらしいことは分かった。

 都心からは離れているが、ここならば数少ない友達を頼ることができるかもしれない。

 安いネットカフェを探し、席を取る。

 いつものチャットを開き、見ていてくれることを願ってプライベートメッセージを送る。

 するとすぐに返信が来た。まあ大抵はそうなのだが。

 オープンチャットでないことを疑問に思ったようなので、事情があって近くにいるが家に帰れない、会えないかと伝える。


キョロ『いいぞ。会おう会おう』


 住んでる場所を正確には知らなかったが、それなりに距離はあるようだ。


キョロ『案ずるな。俺様が行くからそこを動くな』


 テンションを計りかねるが来てくれると言うなら待つしかない。場所を伝え、待ち合わせる場所を決める。

 かなり時間はかかるというので、待ち合わせ場所で待つことにする。ネットカフェは有料なのだ。

 人があまり居ない上に、ベンチがある場所で助かった。

 硬い板の上に腰掛け、これからどうしようか考えるが、正直空腹で何も考えられない。

 考えるというのも脳の活動で、考えるのにもエネルギーが要るんだなと実感する。

 省電力モードに入ったようにぼーっとしていると、目の前にタクシーが停まり、後部座席から人が降りてきた。

 人、というよりメイド。

「キ、キョロちゃん!?」

「や。会うのはハジメマシテだな」

 そ、そうだねと若干顔を引きつらせて答える。この子は普段からメイド服を着てるのか。

 と、いうより一番驚いているのは……。

「ち、ちっさ……」

「よく言われる」

「で、でっか……」

「それもよく言われる」

 それほど高身長でもない少年の顎が、頭の上に乗りそうなくらいだ。その下にマスクメロンを吊り下げているのか? というほどの巨乳。

 写真では分からなかった。

「とにかく乗るがいい」

 手招きされ、キョロが乗ってきたタクシーにそのまま乗り込んだ。

「ていうかタクシーで来たの?  かなりお金かかったんじゃ……」

「なに、少年がわざわざ俺様に会いに来てくれたのだ。このくらい」

 いやそのために来たのではないが……。

 泊めてほしい、というのにも「もちろんだ」と二つ返事。

 恐縮するも感謝する。異性はもちろん同性の友達もいない少年にとっては唯一頼み事ができる同性。

 それが実際に会ったことのない相手というのは皮肉なものだが、今はそれだけでもありがたかった。

 かなり長い時間タクシーに揺られていたが、ほとんど会話もなく時間が進む。

 料金メーターがヤバくなってきたと思う頃にタクシーは路肩に停車した。

「乗った所に戻ったんだから料金は0円でいいか?」

「そんなワケないだろ!!」

 運転手のちょっとマジな返答に「冗談だ」とお金を払い、タクシーを降りる。

「あ、ありがとう」

 呆気に取られながらも礼を言う少年に、

「なーに。これから返してもらうんだから」

 としれっと言う。

 ちょっと意味深だとも思ったが、お腹も減っていたので大人しくキョロの後をついて行った。

 ついて行った先はごく普通のアパート。ハイツというのがピッタリだ。

 その一階のドアを開け、中へと通された。

「遠慮なくくつろげ」

 礼を言いつつ中を見渡すが、物がぎっしりと詰め込まれて座る隙も無いくらいだ。

 壁の棚にはフィギュアやら何かのトロフィーやら、よく分からない物が並んでいる。

 それに薄暗い。明かりをつけていないのではなく、内装から察するに普段からこのくらいの室内照明らしい。

 ピンク色で、まるでいかがわしいお店の個室。

 完全な一人部屋。

 そんなプライベート空間に押し掛けて悪い事したかな、と思うもキョロは構わず冷蔵庫から何やら取り出す。

「何か飲む?」

 と出された物は全てアルコールだ。

 未成年だと伝えると「じゃジュースで」と葡萄ジュースを注いでくれた。カクテル用らしい。

 何か食べさせてほしかったのだが、いきなりそんなことを言い出すのも図々しいかと思っていると、キョロは手にハサミを持って振り向く。

「さっそく、お礼をしてほしいのだが」

 何のことかと首をひねったが、キョロは美容師の資格を取るための勉強もしているのだと言う。

 写真を送ってもらって以来、カットしてみたいと思っていたらしい。

 少年の適度に伸びたぼさぼさ髪はカット精神をくすぐるのだと。

「ああ、そういうことなら」

 むしろ歓迎。

 それに親の借金取りに追われている身。変装にもなるかもしれない……と、どんな髪型でも受け入れることにした。

「別人にしてやんよ」

 ニタリと笑うキョロに若干寒気は感じたが、変な形にしないとは約束してくれた。

 ジョキリジョキリというハサミの音を聞きながら落ちていく髪を眺める。

 後ろで動いている手つきは思ったより本物を感じさせた。すごく丁寧で、角度を変えては形を確認し、まるで彫刻でも掘るように形を整えていく。

 しばし大人しくされるがままになっていると、

「よし、できた」

 と鏡を見せてくれた。

「わぁ」

 と思わず感嘆の声を上げる。

 ショートだが、ちゃんとした形になっている。それに確かに別人。

 これなら追ってきた男達に見つけられても、あの家から逃げ出した人間と同じとは分からないだろう。

「シャワーも浴びるといい。細かい毛を落とさないと」

 確かにそうだ。お腹も減っているが、昨日から風呂にも入っていないのだ。

 一応女の子の部屋にお邪魔しているのに、身綺麗にしてないというのも失礼だろう。

 貴重品はちゃんと持っておかないとダメだよ、という言葉にちゃんとしているというか、一応レッキとした大人なんだな、と感心と安心の念を抱いた。

 なので素直に頂くことにしてユニットバスに入る。

「着替えはここに置いとくから」

 何から何まで申し訳ない、と礼を言って服を脱ぎ、お湯を浴びた。少し生き返ったような気分になる、と同時に現実感が襲ってきて涙が溢れてきた。

 いくらなんでも、ずっとここでお世話になるわけにはいかない。

 泣き顔のまま出るわけには行かない、と顔を洗って体を拭いた。

 用意されていた着替えはYシャツのように見えた。

 てっきりキョロの寝巻きの予備で、ヘソが出るのを覚悟していたのだが、サイズがピッタリだ。

 まあ突然来訪したのだからロクな用意がないのは当然だろう。

 たまたま少年のサイズに合いそうな物がこれだっただけなのかもしれない。

 男物っぽいトランクスにズボン。Yシャツに腕を通す。ブラは無い。

「もしかして彼氏のかな?」

 それにしては小柄だが。

 財布などをポケットから移していると、改めてほとんど何も持たずに出てきたんだなと思う。

 もっとも部屋にもほとんど私物と言えるものは無いが。

 シャワーありがとう、とユニットバスを出ると、キョロは明るい笑顔を向ける。

「いいよ。すごくいい」

「え。そうかな?」

 柄にもなく照れてしまう。容姿を褒められるなどどれくらいぶりだろう。

 キョロがポンポンと隣のクッションを叩き、大人しくそこに座る。

「でもちょっと着方が違うな。このボタンは外す」

 と胸元のボタンに手をかけ、一つ、また一つと外していく。

「え、ええー?」

 ギョッとしつつもされるがままにしていたら半分くらい外された。

「うん。このくらいがいい」

「いやー、これはちょっと」

 お世辞にもはみ出るとは言えないが、それでも恥ずかしさはある。

「ささ。楽にして。俺様に全てを委ねるのだ」

 そっと頬に手を当てられ、ぞぞぞっと背筋に悪寒が走る。

 何かおかしい。何か違う。

 狼狽する少年に構わず、シャツの残りのボタンも全て外していく。

「ちょ、ちょ、ちょっと。キョロちゃん?」

 顔を近づけてくるキョロに合わせて後ずさっていくが、すぐに背が棚で止まった。

「ダメダメ。ちゃんとお礼してもらわないと」

 キョロは腹部を撫でるように手を動かし、目前に顔を迫らせる。

 お礼ってこっち!?

 もがくように手を棚に這わせていると、直ぐ目の前にまで迫ったキョロの口が開いて、舌が艶かしく伸びてきた。

 ガンッ!

 という激しい音と共にキョロの小さな身体が転がる。

 少年が自身の手を見ると、棚に並べてあったトロフィーのような物を掴んでいた。

 無意識にこれで殴ったらしい。

 漫画のようにひっくり返って目を回しているキョロを他所に、トロフィーを放り投げて部屋を飛び出した。



 しばらく走り、シャツの前をはだけさせたままだと気づいて慌ててボタンを留める。

 頭は混乱から戻らなかったが、何だったのかを思い返す。

 アレは一体何だったのか?

『少年は俺様のもんだぞ』

 よくキョロが言っていたが、てっきりあれはキモオジのセクハラ発言から守ってくれていると思っていたのだが、まさか本気だったとは……。

 レズビアンだという話は聞いたことはない。どちらかと言うとボーイズラブ系だったと思う。

 それを思い出し、改めて自分の格好を見て更に悪寒を走らせる。

 これはたまたまじゃない。

 いつか少年に着せるために前々から用意していたのだ。

 息を整えると、「ぐう」と腹部から鳴る。

 少年は目眩を感じた。途方に暮れているのではない。純粋に空腹による目眩だ。

 どうしよう? どうすればいい?

 神待ち掲示板にでも書き込むか、という考えが真剣に脳裏を過ぎる。

 持ち金はネットカフェに三十分居られる程度。

 パンなどを買えばそれで終わり。どちらにするのが最善か。

 もうすっかり日が暮れている。

 食べ物を買っても明日になれば同じ状態になり、そしてもうお金は無い。

 なら、やはりここは……、とネットカフェに向かった。

 あまり時間を掛けていられない。

 もちろんこんな事はしたくないが背に腹は代えられないとは正にこのこと。

 席に座り、ブラウザを開いた所で、脳裏を別の言葉が過ぎった。

『神待ち掲示板なんか使うなよ』

 いつ、誰に言われたんだっけ?

 そうだ。チャットのキモオジだ……と思い出し、少し冷静さを取り戻した。

 どうかしていた。空腹で判断力が鈍っていたとは言え、そんなことを考えるなんて。

 しかしカフェには入ってしまったからもう残金は無い。

 そう言えばあのキモオジもキョロと住んでいる所は近いと言っていたように思う。

 要はどちらも関東圏。すぐ来られる場所なのかまでは分からないのだが、それは聞いてみるしかない。

 キョロと同じようにプライベートチャットで呼び出すと、こちらもすぐに返信があった。

 キョロといい、何をやっているんだ? この大人達は……、と思いつつアポイントメントを持ちかける。


OG『いいぞ。会おう会おう』


 同じフレーズに若干先程のトラウマが蘇ったが、始めから危険性が分かっていれば対処もできるというものだ。


OG『でも、なんでキョロメじゃないんだ?』


 当然の疑問だろう。

 適当にちょっと都合つかなくて……と誤魔化し、場所を伝える。

 何の約束もしない。まずメシ。話はそれからだ、というのを絶対条件としたが受け入れてくれた。

 とにかく一食、食べてしまえば何とかなる。

 強引でも何でも食べたら帰る。無理に襲ってくるようなら股間を蹴り上げて逃走しよう。

 神待ちなど、ロクでも無いことをするよりはるかにマシなはずだ。

 いや、食い逃げは十分ロクでも無いが。

 ここはチャット仲間、友達として後で返すことはできる。

 またはこれまでのセクハラの対価だ、と無理やり自分を納得させてネットカフェを出た。

 もう外部と連絡する手段はない。持ち金もない。

 キモオジに会えなければ、どこの誰とも知らない相手と関係を持つか、警察に補導されて家に連れ戻されて、臓器か体か両方かを売らされるのだろう。

 選択肢は無い。

 ネットで調べた地図を記憶から手繰り寄せて、待ち合わせ場所へ向かう。

 この地域は全く知らないが、ランドマークとして待ち合わせによく使われている場所だからすぐ分かると言っていた。

 その通りに待ち合わせ場所はすぐに分かる。遅い時間だと言うのに人もそれなりにいる。

 少し時間があるので、まばらに立つ人に紛れて同じように立っていた。

 お互い容姿は知らないが、OGは「すぐ分かると思う」とさっさと切り上げてしまった。

 てっきりあまり人がいないのかと思ったのだが、若い女の子も結構いるので心配になってくる。

 少し経ち、そろそろ現れてもおかしくない時間になったので、街灯にもたれながら周りに視線を泳がせる。

 視界の隅から二十代くらいのチャラチャラしたという形容がピッタリな男が、だらしない歩みで近づいてきた。

 だが少年の所に辿り着くこともなく、途中に立つ若い女の子のもとへ行き、言葉を交わすと連れ立って去っていった。

 まあ、あれがOGのはずはない、と分かっていても注意を向けてしまう。

 今度は反対側から、三十代くらいの中肉中背、見るからに普通の男が歩いてくる。

 そちらにも注意を向けたが、途中の若い女の子に声を掛ける。

 だがこちらは女の子が首を振り、男は離れるとまた別の女の子に声を掛ける。これも断られたようでまたふらふらとうろつき始めた。

 ただのナンパ男だったようだ。

 しばらく待つと黒い車がやってきて停まり、助手席の窓を開ける。

 運転席に乗っているのは、頭の薄くなったかなりふくよかな体をしたメガネの男。

 チャットで話している時にOGは四十より上だと聞いたことがあるが、想像のイメージにかなり近い。

 男がこちらに向かって手を振ってきたので、少年の体は硬直した。

 あれか? やはりあれなのか?

 ごくりと唾を飲み込み、ギギッと錆びたロボットのように手を上げようとした所を、後ろから若い女性が手を振りながら車に向かっていった。

 ふうーっと息を吐く。

 気がつくと心臓がかなりの鼓動を刻んでいた。

 また人が近づく気配に視線を向けると、やってきたのは背の高い男性。

 高そうなスーツを着ているが白髪で、かなりお年を召している。五十代か、それに満たないくらいだが、ゆったりと歩く姿は貫禄がある。

 いかにも足長おじさんという風貌だ。

 心臓が高鳴り、気分が紅葉するのを感じたが、少年の方に来るでもなく、別の若い女性を連れ立っていった。

 少年は胸を抑えて息をつく。

 なんだろう? 今、あんな男性ならいいかも、とか思ったのだろうか?

 いやまさかね……と思っていると、また男の気配。

 ぼさぼさの髪によれよれの服。無精髭を生やした、いかにも年中ネットやったまま四十代になりましたという雰囲気の男だ。

 少年の思考は真っ白になった。

 ただただ近づいてくるその男を何も考えずに見る。

 男は少年と目を合わせる。

 少年は思考を停止させて近づいてくる男を見ていたが、男は少年を見つめたまま前を通り過ぎ、不審がっている様子を残したまま通り過ぎていった。

 ただの通行人だったようだ。

 少年は我に返る。

 通行人を変な目で見ていたらそりゃ不審がられる。何をやっているんだろうと反省しつつ、来る人来る人をそれとなく観察した。

 似たようなオッサンが来るたびに体を強張らせ、そして脱力を繰り返すとだんだん気を張っているのが馬鹿らしくなってくる。

 もう誰でもいいや、どんな風貌でもいいや、と半ば投げやりに街灯にもたれていたが、段々と周囲に人が居なくなってきた。

 そろそろお腹も限界だ。

 キモオジが最後の女の子を連れて行くと、周囲には誰も居なくなった。

 もう今日は来ないんじゃないか。

 考えてみればネットでいきなり女の子から夜の呼び出し。そもそも本気にする方がどうかしている。

 担がれているんだと適当に合わせていただけではないだろうか。

 思わず泣きそうになりながらも周囲を見回す。

 よく見るとまだ人がいた。女性ではなく男だが。

 思い出した。ナンパ男だ。まだいたのか、と横目で一瞥する。

 男は少し苛立ったような様子を見せていたが、やがて少年の存在に気がついたように視線を向けてきた。

 何? もうこの際誰でもいいってこと?

 自慢じゃないが、生まれてこの方ナンパなどされたことは無いし、同級生がナンパされる中自分だけはスルーされてきたのだ。

 少年をナンパしようなんて物好きな男はいない。

 でもそれはこっちも同じ。されたくもない。むしろ来るな。

 でも今は事情が違う。

 キモオジでなくとも、何か食べさせてくれるならこの際誰でもいい。

 そのまま横目で見ていると、男は少年を値踏みするように見据え、近づいてきた。

 え? まさか本当に来る気? とやや尻込みする。

 男が目の前までやって来ると、少年は身を固くして狼狽する。

 ナンパという感じではない。明らかに因縁をつけに来る様子にオロオロしていると、男の口からは、

「少年?」

 という言葉が出た。

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クライム・ジェンダー 九里方 兼人 @crikat-kengine

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