嫌いな冬の朝

宮梶霧

冬は嫌いだ


 冬は嫌いだ。

 雪は積もるし、太陽の昇っている時間が少なくてセロトニンの分泌が減ってしまい気分も落ち込んでしまう。

 最近知ったのだけど、冬季うつってものがあるらしい。北国にいるほどなりやすく、ちょうど私も北国の人だ。

 

 元々朝起きるのが苦手だというのに、寒くていつも以上にお布団と仲良ししてしまう。

 お母さんに布団を奪われてやっと身体を起こすけど、室温で身体は急激に冷えるし、歯はガタガタと揺れだす。

 急いで温かいリビングへ飛び込むのが、ここ最近の日課となり始めている。

 

 夏はこんなことがなかったのに、冬は起きることすら一苦労だ。

 朝食を食べてるお父さんに挨拶を交わし、お父さんの淹れてくれたコーヒーを飲んで目を覚ます。

 寒さも相まってか、毎日身体がだるい。夏風邪をひいたような感覚で頭がぼーっとする。

 猫背の私は、さらに立っている時の姿勢が前のめりになってしまい、悪い姿勢が更に悪化する。

 そもそも立っていること自体きつい。ずっと寝転がって冬眠していたい。

 

 無理やりカフェインで身体を起こすためにコーヒーを飲む。

 口の中に広がる苦味が徐々に体を起こしてくれる感覚はするのだけど、これはプラシーボ効果なのだろうか。

 カフェインが効果を発揮するのは、体内に入って20分と聞いたことがあるしきっとプラシーボ効果なのだろう。

 

 朝食を食べ終わってスマホのニュースを見ているお父さんは、雪かきをするために外に出る。

 ほんの十数年前、私が押さなかった時は新聞を読んでいたお父さんもとうとう新聞を卒業し、スマホでニュースを読むようになったのだから時代の進歩はすごいと思う。

 アナログからデジタルへの移行はきっと、大変だったと私は思う。その時代のことは知らないけど、今でもガラケーを使っている人がいるのだから抵抗があった人もいるだろう。

 私は生まれたころからデジタルの人間だったから、その感覚はわからないけど慣れてしまったものから、新しいものを覚えるのは非常に難しい事なんだと思う。

 

 朝食を食べ終わった私も、雪かきを手伝うために防寒着を着て外に出る。

 冬という季節の外は、相変わらず銀色の世界で鬱陶しいとすら思ってしまう。

 小さい頃は雪を見るたびに、心を躍らせていた。犬だったらきっと尻尾をふってはしゃいでいただろう。

 けど年々歳を重ねるにつれ、段々鬱陶しくなってきた。雪かきをしても、学校にいる間にまた積もり、学校から帰ったらまた雪かきをしなければならない。

 夜も同じだ。日が落ちている間に、深夜に雪が積もり今日みたいに朝雪かきしないといけない。

 

 ボランティアで雪かきをするというよりは、自分たちが後々困るからみんな雪かきをしているのではないかと思ってしまう。

 雪かきをしないと車一台すら出せないのだから。メディアはこれを地域社会の助け合いみたいに美化して報道するから私はあまり好きではない。

 雪かきを手伝おうとするたびお父さんは「俺がやるから手伝わなくていいよ」っていうけど、これを一人でやるのは正直無理だと思う。

 私とお母さんが入ってやっと、とんとんという感じだと思う。それぐらい雪は積もっている。

 

 雪はそんなに甘く見てはいけない。個々は軽くて冷たいだけだけど、塵も積もればなんとやらみたいな感じで積もってしまうと固くて重いものになる。

 雪かきしている時も結構力仕事だし、意外と汗をかくからそれが冷えて風邪をひくことだってある。今だってマラソンを走った時みたいに呼吸が乱れている。

 こういう肉体労働をしても報われないのに、しないと取り返しのつかないことになるのが雪なのだから気温が低くなるこの冬という季節は嫌いだ。

 

 朝のルーティンに組み込まれた雪かきが終わり、学校へ行く準備をする。

 身体を動かしたおかげなのか、朝の気だるさはいつの間にか消えている。

 なんなら目も冴えた気がするけど、学校に行ったら疲労でまた眠くなりそうだ。

 

 お父さんは今日も立派にスーツを着て、職場へ行こうとしてる。

 ビジネスバッグの中にお母さんの作った弁当を入れて「いってきます!」の声と共に会社へ向かう。

 典型的な社会人なんだけど、やっぱりそういう姿を見ることができるのは貴重なのではないかと思ったりはする。

 当たり前のことが急に消え去ることだってある。だからこういう降り積もる日常が大事なのではないだろうか。

 私はまだ経験したことないけど、時間が経てばきっと痛感するだろう。幸せな日常だからこそ大切にしたい。

 

 冬に憂いながら、私も学校へ向かう。

 手袋しててもかじかむ手と赤くなりつーんとなる鼻を抑えながら、地域の人が雪かきしてくれた歩道を歩く。

 冬が嫌いだけど、春の訪れを待ちながら私は、終わりがなさそうである日常をまた一人歩き始めた。

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嫌いな冬の朝 宮梶霧 @kirito100717

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