第5話 ベル
「おお...これが日本のお家!」
社会的迷惑を被ったあの後、俺はこの白髪の悪魔を自分の家へと招くことにした。中途半端なおせっかいをするくらいなら最後までちゃんとしたおせっかいを焼く方がいいなと思うのは俺だけでしょうか?あ、俺だけですかすみませんでした。
「えーと...…今更だけど名前は?」
玄関で目を輝かせながら立ち尽くす悪魔に俺は名前を聞く。
「あ、ごめん。自己紹介がまだだったね。私はベル、一応七大悪魔の怠惰の座に居座ってます」
悲報、七大悪魔の1人めちゃくちゃボロボロ。
なんでそんな偉い雰囲気がぷんぷんする悪魔の1人が公園で物乞いしてるのか、甚だ疑問である。
「俺は白月悠誠。早速なんだけどベルさん」
「ベルでいいよ。あと敬語もいらないからね」
「じゃあ俺も悠誠って呼んでくれ。じゃあベル、まずは風呂に入ってもらう」
「え、そこまでしてもらっても良いの?」
「その状態で放置するのもアレだしな。それに────」
「にゃあ〜」
ベルと話をしているとゆったりとした足取りでコムギがこちらへやってくる。そして「あれ?もう帰ってきたの?さっきまで寝てたんだけど〜」と言わんばかりにグググと体を伸ばす。
「ただいまコムギ。よく眠れた?」
「な〜お」
コムギは俺の声に反応して返事をしてくれる。可愛すぎる..….流石はマイスイートエンジェルキャット。
「とまぁ家にはコムギがいるから汚いままご飯は食べさせられないんだよ」
「そういうことね。じゃあお言葉に甘えてお風呂頂こうかな。あっ、シャワーの使い方とかその他諸々は予習済みです」
「りょーかい。今すぐ沸かすから少しだけ待っててくれ」
「はーい」
「わぁ!これ◯研ゼミで見たやつだ!」
悪魔◯研ゼミ知っとるんかい。
着替えとタオルを持ってきた俺は浴室から聞こえてくる興奮の混じった声に心の中でツッコミを入れる。日本についてある程度詳しいのは予想つくけどまさかここまで詳しいとは思わなかった。
「タオルと着替え置いとくぞー」
「ありがと〜」
女物の洋服を一着も持っていないため彼女に着させる服は最近買った高校指定のジャージである。fromジャージtoジャージ。よく遊びに来る妹の洋服もあるにはあるのだが……勝手に人様に貸すわけにはいかないからね、仕方ないね。
「さてと……ぱぱっと料理しますかぁ」
俺は洗面所を後にしキッチンへと向かう。ベルが空腹なのは分かるが俺も空腹なのだ。彼女には申し訳ないが簡単な料理で我慢してもらおう。
「お風呂ありがとうゆうせ〜……ってすごい良い匂いするんですけどぉ!」
「あいよ……って何そのドライヤー」
お風呂から上がったベルがリビングの扉を開ける。先ほどまでの小汚さは見る影もなくなったおかげで彼女の白髪がとても綺麗に見える。というかこうして見ると大分顔面偏差値高いなこいつ……。
しかし一体どういうわけか彼女の髪は水分を多く含んでいて、彼女の手にはそれを乾かすための道具ががっしりと握られているのだ。
「え、この道具って髪を乾かしてもらう道具じゃないの?私アニメで女の子が男の子に髪を乾かしてもらうのよく見てたんだけど」
知識の偏りすげぇなおい。なんで◯研ゼミのネタは知ってんのにドライヤーについてはそんなに知らないんだよ。普通逆だろ逆。
「髪乾かす道具ってのは合ってるんだけど、基本的にはそれ自分でやるもんだからな」
「そうなんだ……他人に髪を乾かしてもらえる画期的なアイテムだと思ったのに」
あなたの考えてる物とはちょっと違いますけど十分画期的なアイテムだからねそれ?
「……はぁ。ベル、そこのソファ座って。髪乾かすから」
「え、いいの?」
「今回だけだ。チュートリアルだとでも思ってくれ。コムギ、ちょっとうるさくなるけどごめんな」
「にゃ〜」
ぽすんとソファに座り込んだベルの髪を俺は丁寧に乾かしていく。よく妹に髪を乾かしてくれと頼まれているのがこういう時に役立つとは……。
「きもち〜やっぱりドライヤーって他の人に髪を乾かしてもらうための道具だよ」
「美容院以外だと基本親密な関係のある人同士でやるようなやつだからな。髪は自分で乾かすもんなんだよ」
「そっかぁ……毎日これだったらちょー楽なのにな〜。それにしても悠誠は髪乾かすのが上手だね〜」
「妹によく頼まれるからな」
足をパタつかせながら称賛の言葉を口にしたベル。今思ったけど誰かの髪を乾かすのが上手くても得する事なくない?いやまぁ彼女がいれば話は別なんだろうけど俺彼女とか今まで出来た事ないからさ。あと自分で言っててなんだとは思うけど普通に心に傷を負いました。
「妹さんは今遊びに行ってるのー?」
「分かんない。普段は別居してるからな」
「え、もしかして倦怠期だったりする…?」
「付き合って大分経ったカップルかよ。それと普通に親が離婚しただけだから」
「え、なんかごめん」
「離婚したの10年も前だから。変に気を使わせちゃって悪いな」
気まずさを感じさせてしまったことに申し訳ないと思った俺は謝罪の言葉を述べる。初対面でこんな気まずさ感じるのやだよね。だって俺もやだもん。
「いや、今のは私が─────」
「よしっ!終わり!冷めないうちにご飯にするか」
ベルの髪が乾いたのを確認した俺は素早い動きでドライヤーを片付けキッチンへと戻る。もう既に料理は終えており、あとは配膳さえしてしまえばいつでも食べれる状態。俺ももう既にお腹ペコペコを超えてお腹ボコボコ状態なのだ。ちなみに全く関係ないですが中学2年生まで腹パンはそう言う名前のパンがあるのかと思ってました。本当に関係ないですね。
「簡単な奴で申し訳ないけど我慢してくれよな」
男の作るご飯と言えば何か。唐揚げ?ノンノン。生姜焼き?ノンノン。カップラーメン?正解、だけど客人に出すような物じゃないだろ。簡単な奴すぎるわ、美味いけども。
男の作る飯、それは──────炒飯だろうが!!!
「炒飯だ!!美味しそ~!!」
ご飯、玉子、ネギ、ハム。これらの材料と調味料をフライパンにぶち込めば完成する魔法の料理、それこそが炒飯なのである。簡単に作れる、故に奥が深いという男心と胃袋をくすぐる料理、それこそが炒飯なのである。さぁ皆もご一緒に炒飯は神!!(洗脳済み)
「もう食べていい!?」
「どうぞ」
「やったぁ!いただきまーす!」
悪魔もいただきます言うのね。いやこれも日本に来る前に予習して来たのか……すごいな悪魔。
「はむっ……美味しっ!丁度いい濃さの味付けにパラパラとしたご飯……家庭で美味しいものを作るのは難しいとされている炒飯がここまで美味しく作られている……これは料理人の腕がいい証拠……うまぁ」
グルメ漫画の世界からやって来たんですかと聞きたくなるほどの饒舌っぷりを発揮したベル。どうやら口に合ったらしい。良かった良かった。
「うまっ、うまっ、うま~!」
「……そりゃよかった」
それはそれとして口に物を入れながら喋るのはちょっとやめて欲しいかもです。
俺の契約した悪魔がだらしなさすぎる件 ちは @otyaoishi5959
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。俺の契約した悪魔がだらしなさすぎる件の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます