第4話 見てはいけない者
「いやぁ……気付けて良かったわぁ」
両手に大量の戦利品を抱え、安堵のため息を漏らしながらゆっくりと帰路に就く。天啓の様に頭に振って来た今日は特売日であるという情報、これはもう神に愛されていると言っても過言ではないだろう。スーパーマーケットの神様マジであざます。助かりました。
真新しい制服、背中にはシンプルなデザインのカバン、そして両手には食品やその他諸々が大量に詰められた袋。華の高校生にしてはあまりにも家庭的すぎる姿にすれ違ったおじちゃん、二度見する。ふはは、小学生の時からこんなことしてるからね、もうこの視線にも慣れたもんよ。
それにしてもお腹が空いた。特売日だからと言って袋の容量が許す限りの食品を買った結果お弁当を買うのを忘れてしまいました。
現在時刻は既に13時を回っており、お腹の虫は大合唱を通り過ぎてただのどれだけ大きな声を出せるか大会を開催している。俺だってお腹空いたって叫びたいよ。叫んでも良いですか?あ、不審者と思われるのでやっぱやめときますね。
胃袋君、家に帰ったら簡単な奴すぐ作るからもうちょっとだけ待っててね。
「ん……ん!?」
空腹感が俺の足を忙しなく動かしている最中、通りかかった公園にてあまりにも不思議な光景を目撃してしまい、俺の身体と思考に急ブレーキがかかる。
滑り台、ブランコ、砂場、公園の3種の神器と言ってもいい遊具がある何の変哲もない小さな公園。しかし、目を凝らしてよく見てみよう。先ほど挙げた3種の神器が囲むコーエントライアングルのちょうど真ん中付近に翼の生えた誰かが倒れているではありませんか。
「ママー、あれ何ー?」
「あれは私達が見てはいけない者よ」
「えーそーなのー?」
お母様、あなたいつから某魔法学園の校長先生になったの?あれは私達には救えぬ者ってか?非常に正しい判断だと思います。
「……まぁ多分新手の日向ぼっこだろ」
地面とキスをしながら背中に太陽を感じる、これが新時代の日向ぼっこです。何とこれ文字通り体全身で自然を感じることが出来るんですよ()。
俺は先ほどの見てはいけない者を見て見ぬふりし、自分の家に向かって足を動かす。
「……はぁ」
予定だったのだがどういう訳か俺の足は公園、正確には新手の日向ぼっこをしている悪魔の方へと足を動かした。放っておくのが一番楽なのは分かってるんだけどね。無視するのは無視するでなんかもやもやするんですよ。我ながら難儀な性格ですこと……。
「う……うぅ……」
自分の声の何倍も高い声で小さな唸り声をあげているのは白髪の少女。腰辺りまで延びた髪は何日もお風呂に入っていないのかぼさぼさで、背中から生えた漆黒の翼も土で汚れてしまっている。
……ジャージ姿の悪魔とか初めて見たかも。
この割とボロボロな悪魔、なんと上下黒のジャージに身を包んでいるのです。「いやどこから持ってきたその服」とか「こんな昼間から公園で何してんの?」と色々ツッコミたい部分はあったがひとまずそれらの気持ちをグッとこらえる。
「あのー……大丈夫ですか?」
俺の声に反応して白髪の悪魔の手がピクリと動く。唸り声を上げてる時点で分かってはいたけどちゃんと生きてはいるな。
「こんなとこで何して──────って動ききもっ!!」
一体昼間からこの公園で何をしているのかと声を掛けようとしたその瞬間、白髪の悪魔は地面を這いつくばったままかさかさと動き始め俺の方に近づいてきたのである。その動きは某黒く稲光る名前を出してはいけないあれを連想させ、全身の鳥肌を立たせて来る。
ガシッ!!
「っ!?」
ゾンビのような動きで俺の足首をがしりと掴んできた悪魔に俺は声にならない悲鳴を上げる。めちゃくちゃ怖いんですけど!ここから入れる保険が欲しいんですけど!!
しかし動きを封じられてしまった!
ドクンドクンと早鐘を打つ心臓と、じわじわと滲んでくる脂汗に耐えながら俺は悪魔の一挙手一投足に注意を向ける。
「……み……」
「……み?」
「水を……恵んでください……」
「……はい???」
「んくっ...んくっ...ぷはぁ!コーラうまぁ〜!まさかこんなにも美味しいなんて思わなかったぁ...んくっ...んくっ...ぷはぁ、きくぅ〜!」
ごくごくと音を立てながらコーラをがぶ飲みする悪魔に俺は戸惑いの籠った視線を向ける。仕事帰りにビールを飲むおっさんかお前は。
不審者...もとい不審悪魔に声を掛けた俺は水分を恵んでくれと求められた。
声の掠れ具合的に何時間も水を飲んでいないことが分かったため、俺は先ほどスーパーで買ったコーラを手渡した。
その結果この悪魔の中身がおっさんであることが判明。「きくぅ〜!」じゃないんだわ。
「んくっ...んくっ...ぷはぁ!美味しかった〜」
地面とキスをしていたからか少し汚れはあるものの、そんな事が気にならなくなるくらいに白髪の悪魔は幸せそうな表情を浮かべる。
中身と行動はアレだけどすごい可愛いなこの子...…中身と行動はアレだけど。
「じゃあ自分はこれで。あ、ペットボトル自分が捨てときますよ」
彼女はおそらくこの世界に来て間も無いと言う予想は当たっているだろう。そこら辺にポイ捨てされるくらいなら自分が捨てとこう。環境保護、大事。
「あ、待って!!」
「はい?」
「その〜...…実はお腹も空いてて...えへへ」
悪魔は頬をぽりぽりと掻き、恥ずかしさを滲ませながら食べ物も寄越せと言ってくる。可愛いから許されてるけど大分卑しいね君。やっぱ可愛いって正義なんやなぁ。
「あー...…申し訳ないけど今すぐ食べれる物は持ってないんですよ」
「大丈夫です!野菜でもなんでも丸齧りするので!!」
どこが大丈夫なのか100文字程度で説明してほしい。やだよ、可愛い女の子が公園のど真ん中で野菜丸齧りしてるの。そこら辺のサバイバーよりも野生的すぎるでしょ。
「いや、それは流石に...」
「じゃあ野菜じゃなくても大丈夫です!何かの残りでもなんでも良いので何か恵んでください!!お願いします!この通りです!!」
白髪の悪魔はプライドというものが存在していないのか、その場で土下座の姿勢を取り、地面に頭をぐりぐりと擦り付け始める。
「ママーアレ何ー?」
「こら、見ちゃいけません!」
その言葉を生で聞くことになる...…というか言われることになるとは...。違うんです奥さん、これ俺悪く無いんすよ。
「どうかお願いします!どうかお慈悲を...…」
「分かった!分かりましたからそれを今すぐやめてください!!」
何?何なの?もしかして新手の嫌がらせだったりする?物乞いのフリして俺に迷惑かけようとしてるよねこれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます