第3話 何か忘れてるような

 唐突に置き去りにされた俺は気を取り直して教室を出ようとする。何の前触れもなくどこかへ行くのは中学の時からあったけどまさか高校でも変わらないとは……。もしかして海斗って彼女とかいたりすんのか?もしそうなら割と納得いくんだけどなぁ……でも彼女いるなら悪魔と契約したいとか言い出さないか。


「白月君!」


「ん?どうしたの早乙女さん?」


 丁度教室を出たその時、早乙女さんが後ろから俺を呼び止める。


「その…もしよかったら途中まで一緒に帰りません…か?」


「うん、もちろんいいよ」


 「何故に敬語?」と思ったがそんなことはおくびにも出さず、二つ返事で了承する。


「やった……じゃなくてありがとう白月君!」


 一緒に帰るだけで感謝してくるとか……中学の時から思ってたけど早乙女さん良い人過ぎないか?顔良くて性格も良いとか……神様もキャラクリ上手すぎだろ。いや俺にはそんないいステータスが与えられてない所を考えると下手なのか……?どうしよう、自分で考えて自分で傷ついてるとか俺って自傷癖あったのかもしれない。もうまぢむり、リスケ…じゃなくてリスカしよ……。


 危うくメンヘラキャリアウーマンを誕生させるところだった。ところでメンヘラキャリアウーマンって何?






 人通りの少ない道を雑談を交えながらゆっくりと歩く。早い時間帯に学校が終わると誰もいない道を歩けてちょっとした優越感に浸れて気分が良いのはきっと俺だけじゃないはず。


「今更なんだけど今日は海斗君と一緒じゃないんだね」


「海斗は悪魔と契約しに行くんだーって言ってどこかに行ったね」


「そ、そうなんだ……」


 これには清楚さ溢れる早乙女さんも苦笑い。まぁ自分の気になってる人が「悪魔と契約してイチャイチャするぞ!」とか意気込んでたら流石に嫌だろうな。しょうがない、ここは俺が海斗に何気なくアドバイスしておきますか。恋を応援するのもまた親友の役目というものなのだ。


「白月君はその……悪魔と契約したいなぁとか思ってるの?」


「え、俺?」


「ほ、ほら!この学校って悪魔と共に学ぼうって感じだから他の人はどうなのかな~って」


「なるほどね。俺はそこまで契約したいとは思ってないかな。この学校を選んだのも家から一番近かったからってだけだし」


 ごめん海斗。こういう時「俺も悪魔と契約したいと思ってる」って言った方が海斗のイメージ下げなかったかもしれない。でもこれ気付いたの契約するつもりないって言ったあとなんだよね。はっはっはっ、まじでごめんね。


「そ、そうなんだ……えへへ」


「そういう早乙女さんは?悪魔と契約したいなぁとか思ってるの?」


「私も白月君と一緒だよ。何が何でも契約したい!って感じではないかな」


「そうなんだ」


 まぁ早乙女さんは海斗を追ってこの学校を選んだんだろうし当然と言えば当然か。なのに当の本人と言ったら……。いい加減早乙女さんの気持ちに気付いてやれよ……はぁ。


「あ、そうだ!白月君は生徒会に入る?」


「んー……まだ考え中だけど入ろうかなぁとは思ってる」


「……そっか」


「早乙女さんは?」


「私も入ろうかなって思ってるよ。だから今年も一緒に頑張ろうね、白月君」


「そうだね」


 とても嬉しそうな笑顔を見せる早乙女さんを前にして俺は「まだ入るって完全に決めたわけじゃないんですけどね」と言えるはずも無くただただ早乙女さんの言葉に肯定の意を示す事しか出来なかった。海斗さん?本来ならこれあなたの役目なんですけど?





「それじゃあ白月君、また明日!」


「また明日早乙女さん」


 俺は早乙女さんを見送る。好きな人の友人にここまで優しくしてくれるとかもう慈悲の塊である。慈悲の塊と清楚の塊、それを合体させて生まれたのが早乙女香澄という少女なのだ。あまりのスペック差に涙を禁じ得ない。俺のスペック……低すぎ!?


「……なんか忘れてるような気がするんだけど……気のせいか?」


 早乙女さんと別れ、家に向かって足を動かしている最中何かを忘れているような感覚に陥る。難しい数学の問題がもう少しで解けそうなはずなのに答えが出てこない。そんなモヤモヤが頭の中をぐるぐると駆けまわる。使う公式は分かってるのに答えが出てこない不思議、皆さんも体験したことはあるのではないだろうか。俺はしょっちゅうある。


「うーん……考えても思いつかない」


 ぐぅ~


 変に頭を働かせたからか、それとも単純に時間が経ったからか腹の虫が盛大に音を鳴らす。お腹の音が鳴った原因は十中八九後者でしょう。だってそんなに頭回してないからね!


「そういえば今日の夜ご飯の材料買わないとなぁ……ん?あ、そうじゃん!!」


 あっ……思い……だした……!!


 壮大なBGMと共に流れ出した今朝の記憶。そう、それはご飯を食べ終わった後に目にしたチラシの内容。


「今日特売日だったの完全に忘れてたあああああ!」


 123のステップで華麗に回れ右。そして俺はスーパーマーケットに向かって全力でダッシュした。

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