第2話 入学式

「おはよ悠誠ゆうせい、今年も一年よろしく~」


「おはよう海斗かいと。まさか4年連続一緒のクラスになるとは思わなかったわ」


「ほら、俺達って運命の赤い紐で結ばれてるからさ」


「糸より切りづらいのやめろ」


「え、切るつもりなの?普通に泣くが?」


 高校初日とは思えない程仲良く(?)会話のデッドボ…じゃなくてキャッチボールを繰り広げる。俺のボールを受け取ったヒョロガリ茶髪男子の名前は天野海斗あまのかいと。中学校からずっと同じクラスでその過程の中で親友と呼べる程に仲良くなった男だ。


 こいつを一言で表すのに最適な言葉はオタクである。海斗の影響で俺はアニメ漫画をよく見るようになったし、ゲームもするようになった。


 こう聞くともしかして海斗君はコミュ力の無い陰キャか?と思われるかもしれないが、意外とコミュ力はある方なのだ。普通の人を装った隠れオタクと言えば良いのだろうか?仲良い人の前だとオタクであることを隠さないが初対面だと普通の人を演じている役者さんなのだ。


白月しらつき君おはよう、これから1年よろしくね」


早乙女さおとめさんおはよう、今年もよろしく」


 鈴を転がしたような綺麗な声で俺に挨拶をしてくれた美少女は早乙女香澄さおとめかすみ。彼女も俺と同じ中学校出身の人だ。彼女とは2年間同じクラスで、生徒会として共にお仕事をしたため仲が良い。(※個人的見解です。)


 ボブカットされた水色の髪の毛に整った顔立ち、そして清楚という文字が服を着て歩いていると言わんばかりの立ち振る舞い。生徒会という繋がりがあるからこうして普通に喋れているが、俺みたいなフツメンが自然と会話をして良い人物ではないのだ。


 自分で言ってて悲しくならないのかって?普通に鼻水と涙が止まらないくらいに悲しいですけど?でも悲しいけどこれ現実なのよね……。


「早乙女さんついでに俺もよろしく~」


「海斗君もよろしくね」


 ……見ましたか?海斗は「海斗君」呼びなのに俺は「白月君」だよ?余計傷ついたわ。心に5のダメージ(倍率補正100倍)を喰らいました。もう俺の心はボドボドだ!!





 場所は変わり体育館、入学式とは名ばかりの第n回目の校長先生ラジオが始まった。


「皆さん、生魔学園へのご入学誠におめでとうございます。皆様の──────」


 私立生魔学園。ここは悪魔と人間が共に学び成長するという理念を元に作られた新しめの学校だ。そんな理念を掲げているだけあって、上級生や先生の多くが悪魔と契約しているのが見て分かる。校長先生の長ったらしい話を聞くのが退屈なのはどうやら悪魔も一緒らしい。


「生徒指導部の山木です。今日は新入生に向けて悪魔との契約について少しお話をしたいなと思います」


 校長先生のありがたいお話()を聞いた後、生徒指導部から新入生に向けて割とありがたいお話が伝えられる。


「皆さんも知ってるかと思いますが、高校生から悪魔と契約を結ぶことが出来ます。ここで皆さんに知っておいて欲しいのが悪魔との契約には責任が生じるという事です。軽い気持ちで悪魔と契約を結ぶと人間、悪魔双方にとって不利益が生じてしまいます」


 ほんの少し1年生の空気が変わったような気がした。おそらく早く悪魔と契約を結びたいと思っている人が大勢いるため、山木先生の言葉はかなり耳の痛い内容だろう。


「種族は違えど尊重しなければならない存在です。契約を結ぶことにとやかく言うことは無いですが、それなりの責任と覚悟を持って契約をするようにしましょう。私も悪魔と契約をして毎日に彩りが加わったのでね、そこは自分とそして何より相手とよく相談して契約を結びましょう。男子諸君、サキュバスは……いいぞ!」


「おぉ……」


 「おぉ……」じゃないが?生徒指導部の先生が青少年に対してサキュバスは良いぞとか言うなよ。あなた指導する立場ですよね?風紀を守る側が積極的に乱してるんじゃないよ。






 入学式が終わった後は教室に戻り先生からの連絡事項を聞いたり、簡単な自己紹介などを行い解散となった。え?自己紹介はどうだったのかって?ははは、割愛してる時点で面白みのある自己紹介が出来てるわけないじゃないですかー。そのくらい分かってもらわないとこっちのメンタルが大変なことになるから気を付けてくださいねー。


「海斗ー」


「悠誠、お前は次に一緒に帰ろうぜ、と言う」


「一緒にに帰ろうぜ……はっ!?」


「乗ってくれてありがとうございます」


「どういたしまして。てことで帰るか」


 いつもの様なくだらないやり取り。新生活が始まっても変わらないものがあるとほんの少しホッとするよね。


「悠誠……今日は一緒には帰れない」


「あ、なんか用事でもあるの?」


「はぁ……これだから悠誠は……」


「しばくぞ」


「いきなり暴力に訴えかけるのは良くないと思います!」


「いきなり人の顔見てため息吐くのも良くないと思いますが?」


 用事があるのか否か質問した結果帰ってきたのは呆れたような表情と大きなため息。俺の対応に間違いは無いと思うんですが。


「お前はさっきの校長先生と山木先生の言葉を聞いたか?」


「校長先生のは聞いてないな」


「俺も~」


 「俺も~」じゃないんだよ。ギャルかお前は。


「で?山木先生の言葉がどうしたんだよ」


「俺達は高校生になったよな?」


「うん」


「高校生と言えば悪魔と契約を結べるようになるよな?」


「うん」


「つまりは……そういう事だ!」


「……はあ」


「くそでかため息やめろぉ!」


 俺は真剣な表情で内容のほとんど詰まっていない話をした海斗に大きなため息を吐く。言いたいことは伝わったがそんな下心丸出しの事を真剣に言われてもなんて反応したらいいか困る。


「悠誠、お前は何のためにこの学校に入学したんだ?」

 

「「家から近かったから」」


「だろうな。だが俺は違う」


「しれっと心読まないで?」


「へへ」


「きも」


「ひど」


 同じタイミングで同じ言葉を発した海斗に軽いツッコミと暴言を返す。心読むのは100歩譲って良いとして気持ち悪い笑みを浮かべるのはやめて欲しい。


「お前は家から近かったからという安直な理由でこの学校に通い始めたのかもしれない。しかし、俺はお前と違って崇高な理由を持ってこの学校を選んだのだ」


「ほう……ではその崇高な理由とやらをお聞かせ願おうか」


「ふっふっふ……それはなぁ」


 海斗はうざめな声を作り、もったいぶった態度を取る。そしてゆっくりと息を吸い言葉を放つ。


「可愛い悪魔とイチャイチャしたいからだ!!」


「それじゃあ頑張ってくださいね。さよならー」


「まぁまぁまぁまぁ落ち着き給えよワトソン君」


「俺はいつからお前の助手になったんだ」


「今この瞬間からかな?」


「辞職します」


「仕事時間10秒も満たないのは流石に草」


 俺の初仕事である海斗の助手、僅か10秒足らずで終わる。10秒しか働いてないから給料発生しないじゃん……もうちょっとだけ海斗の助手として働いておくんだった。いや、やっぱいいや。


「お。てことで俺は契約してくれる可愛い悪魔を探しに行ってくるから。じゃまた明日~」


「あ、ちょ……えぇ?」


 慌てた様子で教室を出て行った友人に俺は困惑の声を抑えることが出来ない。そ、そんなに悪魔とイチャイチャしたかったのか……?

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