俺の契約した悪魔がだらしなさすぎる件

ちは

第1話 悪魔とは

 悪魔。地域や考え方によって違いはあるが、人に災いをもたらす悪いものだと考えられている存在。例えば純粋無垢な人間を誑かして道を踏み外すように仕向けてきたり。はたまた人が扱いきれない力を言葉巧みに押し付け、魂を手に入れようとしてきたり。


 多くの物語において悪魔は文字通り悪い存在として登場する。……まぁ悪魔っていうこの漢字が全てを物語ってる感はあるんだけどこの話は一旦置いておこう。


 悪魔は人間を誑かし、悪い方向へ導く存在だと多くの人が考えているのは事実だ。おそらく街角アンケートで「悪魔についてどう思いますか?」と聞いたら100人中90人くらいは悪い存在だと答えるだろう。※秋葉原などオタクが集まりそうな場所は対象外とする。


 さて、堅苦しい前置きはこの辺りにしておいて一度外の様子を見てみましょう。


 燦燦と輝く太陽、その太陽の周りでふわふわと楽しそうに踊っている白い雲、そして出会いと別れの象徴である桜が温かいそよ風に吹かれ、鮮やかな花びらを散らしている綺麗で儚い光景。そしてヤギのような角と蝙蝠のような羽の生えた少女が堂々と空を飛ぶ姿。


 ……おかわり、じゃなくておわかりいただけただろうか?


 それではもう一度先ほどの文章をご飯……ご覧いただこう。


 燦燦と輝く太陽、その太陽の周りでふわふわと楽しそうに踊っている白い雲、そして出会いと別れの象徴である桜が温かいそよ風に吹かれ、綺麗な花びらを散らしている綺麗で儚い光景。そして「ヤギのような角と蝙蝠のような羽の生えた少女が堂々と空を飛ぶ姿」。


 そう、実は──────


 今日は高校の入学式なのです。


 ……はい、すみませんなんでもないです。普通に悪魔が自然と空を飛んでいるよーっていう事を伝えたかったです。


 事の発端は約10年前、何気ない日常が過ぎていくかと思われたある日の事である。どういう訳か日本に悪魔が住まう魔界との門が建てられた……というか生えてきたのです。


 ここで「?????」となった皆さん、安心してくださいあなたは正常です。ちなみに起こった出来事はとても異常です。


 今までこんなことが無かったためもちろん国民全員大慌て。一体何が起こったのか、一体あれは何なのか、いきなり小学生がおじさんを眠らせて事件を解決する某有名アニメのCMに入る時の扉が生えてきたら

そりゃみんなびっくりするでしょ。ギーバタンちゃうねんって感じ。


「皆さんご機嫌よう、私は……私たちは悪魔です」


 テレビを通じて伝えられた異界の門の正体。本物の角と本物の翼、特殊なメイクや小道具無し天然の悪魔が淡々と事情を説明した。


 内容を簡単に伝えると「私たちは悪魔です。危害を加えないので僕と契約して日本国籍をちょうだいよ!」というもの。


 どうやら悪魔たちは日本を侵略しに来たのではなく、日本を観光あるいは定住しに来たのだ。国のお偉いさんが……というか国民の大半が「はい?」と聞き返したくなるようなことが起き、日本は過去一平和な混沌に包まれたのでした。


 国のお偉いさん方は彼女たちの扱いに大変頭を悩ませました。そりゃあ架空の存在かと思われていた悪の象徴がいきなり日本にやって来て「観光させて!後ついでに定住させて!」と言って来たら普通拒否反応を起こすだろう。


 最初は国民のほとんども肯定的な意見を示さず、悪魔たちに対して物語の登場人物同様畏怖の念を抱いていた。

 

 だがしかし、ここで状況は一転する!代表者として交渉に乗り出ていた悪魔の放った一言が悪魔たちを日本に駆り立てた……じゃなくて彼女の放った言葉が日本人たちの心を開いたのである。


「魔界では日本のアニメや漫画が流行っています。多くの悪魔が日本に行きたい、日本なら自分たちの存在を受け入れてくれそうと興奮し、その結果私がこうしてお願いをしに来ることになったのです。……かくいう私もアニメや漫画が好きですし、それに日本のご飯が食べたいなという感情が少なからずあります」


 ニホンダイスキ!アニメマンガダイスキ!ニッポンショクダイスキ!


 この「三大好き」を言われた日本人はあまりにもちょろい。日本が好きな外国人を日本人はほぼ無条件で好きになってしまうように、彼女の言葉を聞いた日本人たちは悪魔たちを受け入れろと逆にお偉いさん方を圧迫する始末。「何だこの国は……何だこいつらは……」と言われてもおかしくない手のひら返しである。恐れよ、これが変態という名の紳士が集う国JAPANである。


 とまぁ法整備やら悪魔たちの情報整備やら色々と難しいことを乗り越えた結果、なんと悪魔たちが日本で普通に生活するようになったのでした。


 一応決まったルールを簡単に説明すると「悪魔としての力を使って暴れないでね!空飛んでも良いけど作ったルール守ってね!契約する時は高校生以上の人としてね!後契約は国に申請してそれが許可されてからにしてね!」というものである。


 悪魔と言えば契約。魔法少女になることは難しいが、それでも多少恩恵を受けれる契約を結ぶことが出来る。例えば「毎晩良い夢を見させてあげるから定期的に生気を分けてね」のようなものだ。


 寿命と引き換えに巨万の富を得る、自分の身体の一部を差し出して知恵を得る。なんて大掛かりかつ世の理を捻じ曲げかねない契約をするのは法律で禁止になっている。そのためこの契約は大体「私を家に置いてください!」の時に使われる。日本に来たての悪魔が家やお金を持っていないからね。


 「同情するなら金をくれ!」ではなく「同情するなら私と契約して私をあなたの家に置いてください!」というより強欲なお願いをしてきているのである。流石は悪魔。


 そんなこんな、なんやかんやあって現在の日本は人間と悪魔が共存する神様もびっくりな環境が出来上がったのでした。


「忘れ物はないかな……。まぁ今日は入学式だけだし特に必要なものはないんだけど」


 身支度を整えた俺は最終チェックのため自分のカバンの中を軽く眺める。


「にゃあ~」


「それじゃあ行ってくるねコムギ」


「グルルルル」


 喉を鳴らしながら茶白の毛を俺の手のひらに擦り付ける愛しのぬっこに俺は表情を緩める。唯一俺のことを送り迎えしてくれるうちのアイドルに俺は心の中でサイリウムをぶんぶんと振り回す。今日家に帰ったらおやつを貢がせていただいてもよろしいか?


「よし、行ってきます」


 誰もいない家に向かって俺は行ってきますの挨拶を残し、新しい校舎へと向かう。


 俺の家族構成は父母俺妹の4人家族だった。しかし丁度10年前くらいの時に両親が離婚し、父と二人で暮らすようになった。ここまではあるあるなのだが、父はバリバリのキャリアマン、仕事が忙しすぎてほとんど家に帰ってこないのである。今は仕事で海外に居ます。まさか「すみません入学式には行けません、父は今海外に居ます」状態になるとは……。


「……まぁ父さんが家に居ないのは昔からだし、今更何とも思わないけどね」


 周りに誰もいないのを良い事に俺はぽつりと独り言を漏らす。なにせうちにはコムギという超スーパーキューティー可愛いすこすこぬっこがいますからね。彼女と2人の時間を過ごせるのならOKです!







「私と契約してください!(私を養ってください!)」


 どうせ高校生活も静かで平穏な生活を送ることが出来る。そう思っていた時期もありました。まさか高校初日で俺の静かな生活が音を立てて崩れ去ると朝の時点の俺は知る由もないのであった。

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