【16】ライトニング領でパーティ(4)

勇者どもをからかった後、俺は自分の部屋に戻って、何事もなかったかのように振る舞った。


この家の人間にぞんざいに扱われようが、一応俺はこの家の次男だ。

最低限の衣食住は保証されているし、家を出る準備が整うまでは、この家を利用してやることにした。


しばらく部屋で大人しくしていると、両親が部屋に入ってきた。

「フレイ、お待たせ〜!」

「もうお客さんは帰ったぞ!」


両親は白々しく、満面の笑みで擦り寄り、抱きついてきた。


「あっ、そういうのはもう、結構です。」


寄り添ってきた手を突き放すと、両親は驚いて顔を硬直させた。


「え?」

「フ、フレイ??」

「今まで、僕は『兄さんの予備』だから、最低限の義理を果たしてくれたんですよね?」

「予備って?」

「何の話?」


「本当にこの家に必要な子どもは、兄さんだけですからね。この家に必要のない次男の僕にまで、大切にするフリをしなくてもいいですよ。」

「え、何で?!何で、そんな風に思うの?」

「誰にそんな変なこと、吹き込まれた?」


「強いて言えば、今日来ていた『気難しいお客さん』ですかね。」

「気難しいお客さん?」

その客に心当たりがないからか、両親は首を傾げる。

やっぱり『気難しい客』というのは嘘だったのか。

気づいていたが、両親の態度に改めて怒りが込み上げてくる。


「伝説の勇者ご一行の皆さんとのパーティは楽しかったですか?一日中家にいた僕には参加させないで、寮に住んでいる兄さんは、わざわざ呼び寄せて参加させるんですから、さぞ重要なパーティだったんでしょうね。まぁ、僕は次男ですから。そんな重要なパーティには参加させる価値なんて、ないのですよね。わかってますよ。」


すると母親はなぜか、わざとらしいくらい大げさに泣き始めた。


「そんな悲しいこと思っていたの!?ごめんね!フレイ!」

「すまない。そんなつもりじゃなかったんだ。」

「では、どんなつもりだったんですか?」

「それは、その.....うまく言えないけど、『今日のパーティにフレイは参加させちゃダメ』って、直感が働いて....」

見え透いた嘘は、聞いていて胸糞悪い。


「嘘なら、もっと上手についてください。」

「嘘じゃないの、本当なの!」

「本当だからこそ、厄介なんだよなぁ....。フレイも、パーティ参加できなくて寂しかったよな。次はちゃんと呼ぶから、許してくれ。」

「結構ですよ。僕はどうせ次男ですから。」


「大切な息子に、長男も次男もないわ!アニスもフレイも、大好きな息子に違わないんだから!だからフレイ、そんな悲しい思いをしなくていいんだからね?」


「.....というか、なぜそんなに泣いているのですか?」

「だって。勘違いでも、フレイが『愛されていないんだ』って、寂しい思いをしていたのか思うと、悲しくて、悲しくて....。」

.....相変わらず、変な女だ。


すると突然、扉の開く音と同時に兄も現れた。

「フレイ久しぶり〜....って、何?!みんな、どうしたの?」


「フレイが.....フレイがぁ....!」

「フレイが、どうしたの?」

「今日のパーティ、フレイを参加させなかったら、フレイが『僕は次男だから蔑ろにされてるんだ』って勘違いしちゃってな。で、この有様だ。」


すると兄は、お腹を抱えて、ゲラゲラと大きな声で笑い始めた。


「お前っ、それで、あんなっ....!ヤベェ、ウケる!」

「アニス、どうした?」

「いやー。だってさ?その程度のことで『次男だから蔑ろにされてる』って、飛躍しすぎだろ。それで拗ねるとか、お前って結構可愛いヤツだなぁ。」


あぁ?!

喧嘩売ってんのか、コイツ?


「だってフレイ、落ち着いてよく考えてみろ。仮にお前が大事じゃなかったとして、そんな奴をエセヴィラン公爵に挨拶させたり、レックス殿下の誕生日パーティに参加させたりすると思うか?本当に大事じゃなかったら、今日のパーティより、むしろそっちを参加させないハズだろ?」

確かに。

コイツの意見には一理ある。


「でも、だったらなぜ、嘘をついてまで今日のパーティに参加させなかったのですか?」

「それって、母さんの特殊魔法が関係してるんじゃね?」

「特殊魔法?」

そういえば昼間も、そんな話してたな。


「えっと、特殊魔法っていうのは、『その人が最も使いやすい魔法』のことなんだ。一人一人、属性ごとに生み出せる魔力量が違うから、その違いによって使いやすい魔法が変わってくるんだよ。で、特殊魔法の場合、魔力をコントロールしなくても使えるから、魔力コントロールが下手なヤツでもバンバン使えるわけ。だからたまに、無意識のうちに特殊魔法を使っちゃうヤツもいたりするわけだ。何となくわかったか?」

「はい。それは、知ってました。」


「お前....。そういうところは可愛くないな。まあいいや。それで、俺の特殊魔法は『魔力分析』って言って、相手の能力を見ることができる魔法なんだよ。まぁ、俺はソレを色々改良して、ステータスにしてるけど。そのステータスを見れば、相手の魔力量や魔力コントロール、特殊魔法なんかも分かるんだ。」

へぇ。便利な魔法だな。


「例えば、父さんの特殊魔法は『記憶探知』だな。相手の記憶を覗ける魔法だから、内緒で宿題サボってもすぐバレるから気をつけろよ?で、フレイの特殊魔法は『死者蘇生』だ。事故でうっかり死んだら、生き返らせてくれよな。」

蘇生魔法って、俺の特殊魔法だったのか。

てっきり十八番の爆発魔法が特殊魔法だと思っていた。


「それで、特殊魔法が今日の話と関係あるのですか?」

「それを今から説明するところだ。母さんの特殊魔法って、『超直感』で、ありとあらゆる事が直感でわかる魔法なんだよ。だから母さんは、無意識のうちに超直感を使って『今日のパーティにフレイは参加させてはいけない』って勘づいたんじゃないか?」

「私の勘って、魔法だったんだ....」

さっきの見苦しい嘘も、嘘じゃなかった、のか?


「何で母さんの勘がそう思ったのかはわからないけど、フレイは心当たりあるか?」

「心当たり?....あっ!」

もしかして。

厄災の魔王オレと勇者サマを会わせちゃいけないって勘づいたから、パーティに参加させなかったのか?


「だとしたら、全部.....僕の勘違い?」

「だから、そう言っているでしょ?」

「そうそう。ただの早とちり。」

「何はともあれ。誤解が解けてよかった、よかった。」


そうか。

ただの勘違い、だったのか。

心の中のドロドロとした感情が、パッと一瞬でどこかへ消えるのを感じた。

そして、なぜか代わりに安堵感が、胸の中に広がるのを感じた。


「......よかった。」

無意識のうちに、そんな言葉が口からポロッと出てきた。


「あれ?フレイ、笑ってる?」

「え?」

母さんに指摘されて、自分が笑っていたことに気づいた。

確かに、これは滑稽だ。

勝手に勘違いして、勝手に怒って、兄さんに正論で論破されて。

こんな間抜けな自分が、バカバカしくて笑えてくる。


「ははは!ホント、僕はバカだ!」

「ふふふっ」

「ははっ」

「はははは!!」


するとなぜか、父さん達も一緒に笑い出した。

バカにされたはずなのに、不思議と、その時間が嫌いじゃなかった。

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