エピローグ
新大阪から戻る新幹線の中、阿部は荷物を抱きかかえたまま熟睡していた。慣れない仕事で疲れがまだ取れていない様子だ。松原は社用パソコンを抱えたまま寝るのはよくない、と思いつつも、今回の件はイレギュラーだったなと思い、手元のアイパッドで動画を見て時間を潰すことにした。
きっといいヘルプデスクになれるよ。俺が保証する。気持ちよさそうに寝ている阿部を横目に、松原は心の中でそう誓った。
一週間後、町田が窓口対応をしていると、キリリとお団子頭に結い上げた堅苦しいスーツ姿の女性が立っていた。
「おや
社長秘書である田辺は、今回はそうではないと告げたうえで話した。
「ヘルプデスクの阿部さんと、情報システムの松原さんに社長がお呼びなのですが」
「おーい、阿部、松原。田辺さんからお呼び出しだぞ」
二人は大声に気づいて、ヘルプデスク窓口へと向かった。今日はジーパンなんだけどな、松原が困っている様子だ。
「突然呼び出してしまって申し訳ありません。社長が直々にお呼びです」
そう言った田辺は、二人を社長室へと案内した。
田辺が離席すると、社長は手前にあるソファセットへ腰掛けるよう促した。人事面談以来の革張りの黒いソファは冷たくて心地いい。社長との
「今回の騒動を解決した褒美に社長賞を贈ろうと思ってな。金一封と出張の代替休暇として一日、付与しようと思う」
社長賞だって? 普段なら新商品の売り上げが良かった時でないと出ないモノだ。ヘルプデスクや情報システムには関係ないものだと思っていた。しかも休暇付きで。
「休暇の申請方法は、取りたい日に特別休暇として申請してくれ。あとで小田原や労務に話をつけておく」
「ありがとうございます」
二人はその場で立ち上がって、社長に最敬礼をした。
ほっとした表情で二人は社長室を抜けると、松原が話を切り出した。
「阿部さんは特別休暇で何する予定?」
「
松原さんは、と訊ねたところで意外な答えが返ってきた。
「俺は金曜か月曜にとって、連休中にツーリングかな。東北か東海あたりをグルっと回って、温泉に入れたら幸せかな」
「松原さんって、意外にアクティブなんですね」
「阿部さんもそうじゃない?」
二人は笑いあって、それぞれのデスクへ戻った。
了
参考文献は紹介文に記載
すずちゃんのヘルプデスク事件簿 短編1 よつば @428_books
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