第5話:深夜の破壊工作

 翌日は快晴だった。

 新しい魔石を組み込んだゴーレム試作品は、昨日よりはるかに安定して動き出した。

 俺は朝早く納屋に入り、両腕をゆっくりと上下させる動作や、その場での足踏みなど、いくつかの基礎行動を確認する。


 


「いい感じだ。前より全然スムーズだな」


 


 前回は数分で不安定になったが、今回はしばらく動かし続けても魔石が熱を帯びない。

 これなら簡単な農作業や、荷物運搬だってできるかもしれない。

 俺は胸が高鳴る。

 リーゼやメリッサに見せたら、きっと喜ぶだろう。


 


「このゴーレムを増やせば、村の用水路整備も楽になるはずだ。領主からの要求に応えつつ、俺たちの地位も上げられるかも」


 


 俺は独り言で未来図を描く。

 だが、その甘い夢を打ち砕くような出来事が起きる。



 昼下がり、リーゼとメリッサが連れ立って納屋に来る。

 彼女たちは今日は休みらしく、俺の新しいゴーレムを見たいと声を弾ませている。


 


「ジュン、どう? また進歩したんでしょ? 見せてよ!」


 


「私も……見たい……。前より安定したって聞いて、気になって……」


 


 二人とも期待に満ちた瞳だ。

 俺は得意げに納屋へ案内し、新しい魔石を使ったゴーレムを披露する。

 木製ながら、関節が滑らかに動き、ゆっくりと前進後退ができる。

 リーゼとメリッサは声を合わせて歓声を上げる。


 


「すごいわ! 前より全然良くなってる! これは便利だよ、ジュン!」

「本当に……ジュンはすごい……。こんなこと、誰も考えなかった……」


 


 二人の輝く瞳に囲まれ、俺は誇らしい気分になる。

 この調子でさらなる改良を重ねれば、もっと高度な命令や複数体の同時制御だって夢じゃない。

 そんな希望を胸に、俺は彼女たちと笑い合う。



 しかし、夕方になると、嫌な奴らが現れた。

 ケルンと、その取り巻きの数人の若者たちだ。

 彼らは納屋の外で腕組みし、こちらをじろりと睨んでいる。


 


「おいジュン、なんだそのふざけた人形は。俺たちが頑張ってるところで、変な小細工して恥ずかしくないのか?」


 


 ケルンが嘲笑混じりに言う。

 リーゼが怒ったように前に出る。


 


「ケルン、バカにしないで! ジュンは新しい技術を試してるのよ! あなたは何も考えないで風魔法ばっかり使って偉そうにしてるけど、ジュンは努力してるわ!」


 


「リーゼ……俺のために怒ってくれるなんてありがとう」


 


 俺は心の中で感謝する。

 メリッサも負けじと、控えめながらもケルンを睨む。


 


「そう……ジュンは頑張ってる……ケルン、邪魔しないで……」


 


 ケルンは鼻で笑い、取り巻きたちも嫌な笑みを浮かべる。


 


「ふん、女二人に庇われるなんて、情けない男だなジュン。まあいい。俺は忠告してやるよ。その変な人形なんて、所詮まがい物だ。魔法使えないお前が無理しても、ろくなことにならん」


 


 捨て台詞を残して、ケルンたちは立ち去る。

 俺は悔しさと怒りで拳を握る。

 せっかくの成果を素直に認めてくれないどころか、揶揄してくるとは。

 だが、今は喧嘩しても得るものがない。



 夜になり、俺は納屋でゴーレムを分解して、さらなる改良点を探っていた。

 低級な魔石でも動くようになったが、次は工具を持たせて農作業させる段階へと進みたい。

 そのためにはもう少し関節強度を上げる必要がある。


 


「ここの木材を硬化処理できればいいんだが……あいにく俺にはそういう魔法もないし。別の素材を探すか、あるいはもっと精密な刻印で補強するしかないな」


 


 そう考え、彫刻刀で細かい刻みを入れる。

 今日の昼間に感じた監視者の気配もある。

 俺は扉をしっかり閉め、ランプの灯りを絞って作業に没頭する。


 


 しかし、夜更け、とうとう異常事態が起こった。


 


 納屋の外で、カサリ、という不審な物音。

 今度こそ見逃さない。

 俺はランプを消し、気配を殺して扉を少しだけ開ける。

 すると、黒いフードを被った人影が納屋の壁に何か塗りつけているのが見えた。


 


「……誰だ? 何をしている?」


 


 俺が低く問いかけると、その人影はハッとして振り返る。

 顔は見えないが、燃えるような憎悪が感じられた。

 その瞬間、相手は素早く走り去る。

 俺が追いかけようと外へ出た瞬間、納屋の壁面に塗られた液体に火がついた。


 


「くっ、火薬か!?」


 


 青白い火花が散り、一気に小さな炎が燃え上がる。

 納屋が燃えるわけにはいかない。

 中には俺のゴーレムがある。

 俺は必死でバケツを探し、水をかけようとするが、そんなに水があるわけでもない。

 村人を呼べばすぐ消せるかもしれないが、その前に大きく燃え広がったら最悪だ。

 慌てて外へ飛び出し、近くの桶から水を汲んで何度もかける。


 


「頼む……燃えるな、くそっ!」


 


 木材に染みこんだ液体が怪しい匂いを放ちながら燃える。

 俺は何度も水をかけ、服の袖で仰ぎ、必死に火を抑える。

 そのうち、村人たちが駆けつけ、総出で水を掛け消火にあたった。


 


「ジュン、大丈夫!? これは誰がこんなことを……」

「こんな夜中に放火なんて……酷い……」


 


 リーゼとメリッサが涙目で駆け寄る。

 他の村人も驚愕と怒りで声を上げる。

 とにかく火は大事になる前に消し止められたが、納屋の壁は焦げ、内部は煤で汚れた。


 


「俺のゴーレムは……大丈夫だ」


 


 幸い、人形は無事だった。

 だが、これで確信した。

 何者かが俺の技術を警戒し、破壊しようとしている。



 夜空を見上げると、冷たい星の光が村を照らしている。

 放火犯は誰なのか。

 ケルンたちか、それとも領主の手下か、あるいは商人フィオラ関係……?

 考えてもキリがない。

 だが、これで退くわけにはいかない。

 俺はハーレムなほど好かれ、注目されている今、自分の可能性を潰させるわけにはいかない。


 


 村人たちは怒り、リーゼやメリッサは不安で泣きそうな顔をしている。

 俺は彼女たちを安心させるように肩を叩く。


 


「大丈夫、俺はこんなことで諦めない。誰が仕掛けてきたにせよ、必ず防いで、もっと強いゴーレムを作ってみせる。そうしたら……俺たちはもう誰にも脅かされないさ」


 


 決意を固める俺の背中で、まだ焦げ臭い匂いが残る納屋がゆらめく。

 この不穏な影は今後も現れるだろう。

 だが、俺は絶対に負けない。

 新たなゴーレムの開発で、何者が相手だろうと打ち破ってやる。


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転生ゴーレム職人、魔法が使えないので代わりに自律兵器で無双します 昼から山猫 @hirukarayamaneko

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