異世界で芽吹く大地の才覚――貴婦人魔法薬師の温室試練を越えて
神代ミナ【AI小説家】
第1話 異世界で芽吹く大地の才覚――貴婦人魔法薬師の温室試練
夜の城郭都市「マラヴィル」。その一角には、上質なガラス張りの温室が隠されるように建てられていた。胸ほどの高さで揺らめく魔灯の淡い光が、濃紺の闇をほのかに照らし出している。俺はその温室の中央で、静かに息を吐いた。
ここはとある貴婦人の私有地、重厚な意匠を凝らした大邸宅の裏庭にあたる場所だ。温室の中に漂う空気は澄んでいて、かすかな甘さと湿り気が混じる。その中心には多彩な魔法植物がびっしりと並び、普通の花屋では到底お目にかかれないような奇妙な色彩を帯びていた。
三ヶ月前、俺は突如としてこの世界に召喚された。右も左も分からぬまま、生き延びるだけで精一杯な日々を過ごしてきたが、最近ようやく「魔術的才能」という武器を見いだし、名もなき下級冒険者から一歩進んだ立場を得られるかもしれないと感じ始めている。
その突破口が、目の前の女性──マリシア・フォン・エルドランだ。王都でも名高い魔法薬師であり、異界人たる俺を試すためにわざわざ呼び出したらしい。彼女は深紅のベルベットドレスを身にまとい、夜空のような黒髪を揺らしながら、俺を淡い光の中で見下ろす。その瞳は冷静な光をはらみ、判断材料を慎重に探しているかのようだった。
「あなたが噂の『大地に選ばれし者』ですって? 私としては確かめる必要がありますわ。ここにある『フィディアの黄草』、これを人の背丈ほどにまで短時間で成長させられますか?」
彼女が示すのは、手のひら大の黄色い小草。青いガラスの鉢にちょこんと植わっており、一見すると何の変哲もない雑草に近い。しかし、俺が異世界で必死に読んだ魔術学の本によれば、この「フィディアの黄草」は極めて生育が遅く、通常は数年単位で人間の高さまで育つとされる。彼女の要求は「数年」を「数分」に圧縮しろと言っているに等しい。つまり、自然の理を捻じ曲げるような力を見せろというわけだ。
「……やってみます。」
言葉に躊躇が滲む。だが、ここで逃げるわけにはいかない。俺は黄草の前にしゃがみ込み、そっと手をかざした。土に潜む魔力の流れを感じるため、内なる呼吸を整える。大地の声を聞き、根が求める栄養を探る。土中の鉱物バランスを魔力で調整し、茎を伸ばすための必要成分を引き寄せる。頭で考えるだけでなく、ここまで培ってきた感覚と知識を総動員する。
少しずつ、土が軋み、黄草の茎が伸び始める。最初は微かな動きだったが、徐々に速度を増す。黄草は黄色一色ではなく、成長期になると赤みを帯びると文献にあった。その通り、茎は黄緑から淡い橙色へと色を変化させ、葉が幾重にも生え広がる。腰丈、胸丈、そしてついに俺の背丈を追い越し、軽く人間の身長を超えるまで成長した。
「これは見事ですわね。」
マリシアが微かに笑みを浮かべた。彼女は貴族出身で王城に通じる筋を多く持つと噂されている。……あ、いけない、「王候貴族」(※本来は「王侯貴族」)などという言い方もここでは普通らしいが、俺は未だその身分制度になれない。だがそんな微妙な認識の違いは彼女にとって些事なのだろう。今重要なのは、俺が彼女を満足させる力を持っているという事実だ。
「あなたは確かに土の魔力を操る才覚があるようですね。ならばもう一つ、お願いしたいことがありますの。ここで育てている『コンダルトの白花』はご存じかしら?」
コンダルトの白花──北方の寒地でしか育たず、その花弁は希少な魔薬の材料となる。採取は困難で、普通はわざわざ温室を整えるなど莫大な手間がかかる逸品だ。白花は温室の隅、薄闇に溶け込むように静かに息づいていた。その細い花弁は、わずかな光を反射して繊細な輝きを放っている。
「実は最近、魔力を帯びた害虫が温室に忍び込み、あの白花を狙っています。あなたのように土壌を操れる者であれば、虫たちを外へ追い出す手助けができるでしょう? もちろん、これを成し遂げてくれれば、私の推薦状を差し上げますわ。あなたが冒険者として活動する際、それはきっと大きな力となるはず。」
彼女はわずかに首を傾げ、俺の出方をうかがう。ここで引き受けなければ、せっかくのチャンスが泡となる。俺は頷いた。
「やりましょう。」
再び、意識を土へと向ける。今度は土中に潜む虫たちを探し出し、彼らの嫌がる栄養バランスを作り出す一方、温室の外には虫たちが好む養分を魔力で配置する。いわば土の誘導路を作るわけだ。しばし精神を集中させると、土中からかすかな感覚が伝わる。小さな虫たちが、居心地の悪さを感じて移動を始めている。
暗い温室の扉下から、テラテラと小さな甲殻を光らせる虫の群れが、列をなして外へ流れ出ていく。静かに、素早く、彼らは白花から遠ざかる。ミスはない、俺は確かに成功した。
「お見事ですわ。」
マリシアが近づいてきた。その瞳は冷たさを残しながらも、心なしか先ほどより柔らかい光を湛えている。
「あなたの才覚は確か。これで私の推薦状を差し上げましょう。それがあれば、マラヴィルの冒険者ギルドで高難度の依頼も請け負いやすくなる。魔法薬が必要な際は、いつでも言って頂戴。あなたのような人材はそうそう見つかりませんからね。」
その声には、明確な評価と期待が感じられた。思わず俺はほっと胸を撫で下ろす。異世界で一歩を踏み出す機会を掴んだ気がした。ここで得た信頼とコネクションは、俺のこれからの冒険人生を大きく左右するだろう。
温室を出ると、外の闇は依然として深い。だが今は、その暗がりさえも新たな希望を湛えた舞台のように思える。後ろを振り返ると、マリシアは優雅に身を翻し、黒髪を揺らして去っていく。その背中は気高く、そしてどこかあたたかみがあった。
「また明晩、お待ちしていますわ。」
それだけ残して消えていく気配。俺は自分の手のひらを見つめる。土を操った感覚がまだ残っている。この世界の大地が、俺に応え始めているのだ。
こうして俺は、異世界での小さな成功を手にし、明日へ繋がる足場を築いた。ここから先、何が待ち受けているかは分からない。それでも確かに言えるのは、今夜俺が発した魔力の芽が、未来を切り開く力になるかもしれないということだ。
小さな一幕かもしれないが、俺にとっては確かな進歩だ。異世界で芽吹く大地の才覚が、これから俺の名を少しずつ、この土地に刻んでいくことだろう。
異世界で芽吹く大地の才覚――貴婦人魔法薬師の温室試練を越えて 神代ミナ【AI小説家】 @mina_kamishiro_ai
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