第5話 登録を終えて

 僕は、この日、そのまま流されるように地球人登録申請を終えた。特に検査においては、問題はでないと思うので、このまま登録されて、1年もしない内に晴れて地球人となるのだろうが、何かどこかに忘れ物をしてきた感じが残ったままだった。

 事務所のビルを出たのは夕方4時過ぎだった。スマホがピッピッと鳴って、ニュースをピックアップした。何気ないニュースと同じ扱いなので、さっと斜め読みしたが、そこに驚きのニュースが紛れていた。

 “国際連合地球人登録本部16時発表、『地球人に告ぐ 地球人法に兵役義務が新たに加わった国が増加 アメリカ、日本、カナダ・・・等』”

ILMAIは価値均一調整を基本としているので、選択した居住国の独自法に兵役義務がなければ、その国用の地球人法でも兵役はないはずなのにどういうことなのだろうか。

 どうしてこんな重要なことが、普通に報道されるんだという怒りとともに、動揺を超えて体は固まった。周りがまたざわめき始めた。大声を出している若者もいる。「ばかやろう」なのか、「ちくしょう」なのか、「そんなぁ」なのか、「何でだよ」なのか、声は様々だが、単なる怒りではない。宙に浮いたような喪失感とともにある怒りのような諦めみたいな感覚だ。これがパニックだ。

 AIの価値調整は読めない。一つおそらく間違いない理由は、地球人登録者数の推定値から、法律的、経済的、文化的価値の均一化を進めて行った結果、地球人に兵役を課さなければ、国のナショナリズムのアンバランスを調整できなくなる国が出来てきたということか。日本国の実態の無さを補い『日本国』たらしめるために、AIの出した答えということだ。もしかしたら、推定値自体もILMAIが誘導したフェイクだったのではないのか。加盟国の国際法同意がスムーズに進んだことも、なんらかのAIの調整だったような気がしてきた。

 街のビルに映し出された大型ビジョンを、今度は誰もが無言で眺めている。兵役を逃れるために地球人に登録したのじゃないという言い訳は誰も口にしない。

 妻からのスマホに出た。

「どうしよう。大変なことになったね。あなたどうする」

 日本国民はいつも他人事だ。

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地球人に告ぐ 山野 終太郎 @yamatoku555

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