俺、自ら卒業させる

涼風岬

第1話

 女子高生が前を歩く生徒の手を掴み路地裏に連れ込む。名前は須藤すとう加菜かな


「いい加減、私と付き合いなさい! 久壁ひさかべ


「ごめん、須藤さん」


「諦めなさいよ」


「いや〜」


「私は大真面目なのよ」


「検討します」


「見当違いになんないでよ」


 彼女は去っていく。今の光景、性別が逆なら通報されてるだろう。


 月に一回、必ず彼女は襲撃する。去年の12月からだ。日時の指定はないので、彼は友人とは下校しなくなった。


 彼には好かれる理由が皆目分からない。聞いてない事に気付く。





 翌月、また唐突にやって来た。


「もう付き合んなさいよっ」


「ごめん」


「……そっ。じゃあね」


 あっさり、彼女は背を向ける。彼は拍子抜けすると同時に調子が狂う。


「あのっ!」


「何よ!」


 彼女が振り返り凄む。思わず後退りしそうになる。


「何で僕のことが好きなんですか?」


「知ってるくせに」


「えっ……知らないですが」


「照れくさいのね?」


「いやぁ」


「ヒントは私が廊下でコケた、あれよっ」


 彼女は顔を赤らめる。すぐに彼は思い出す。


「ああっ!」


「コケてスカートがめくれて痛くて立ち上がれない私にブレザー掛けてくれたじゃん」


 赤面した彼女は走り去って行く。彼にとっては恥を搔かせない為の配慮だった。





 その後も彼女の告白は続いた。彼は断り続けた。





 年も明け二月。高校生活も残すとこ僅かだ。ここ最近、彼には申し訳なさと共に別の感情が芽生えてる。まだ定かではない。


 彼女が男子と楽しそうに会話してる。何だか胸がモヤモヤし始めた。





 卒業式当日、式を終え彼女は彼を捜すが見当たらない。走って校門を出て左右を確認する。すると彼が立ってる。


「俺から卒業させる、須藤」


「やっぱ逃げ切る気だったんだ。俺? その上、初めての呼び捨て? 最後だから随分と強気なのね」


「あぁっ、そうだ!」


「……分かったわ。最後に言わせてよ、私の想い」


「駄目だ!」


「えっ……いくら何でも酷すぎる」


「告白から卒業だ! 須藤!」


「あっ……そう。分かった。一方通行だけど楽しかった。じゃあ」


 彼女は項垂うなだれ彼に背を向けようとする。


「好きだ! 加菜」


「えっ……」


「付き合ってくれ! 加菜」


「…………あっ、はい」


「卒業おめでとう」


 彼は背中に隠し持ってた花束を手渡す。彼女は受け取ると彼の胸にもたれ掛かる。彼女のつぶらな瞳に溢れてた涙がこぼれ落ちる。


「長かったよっ、真守まもる


「待たせすぎてゴメン、加菜。これから宜しく」


「うんっ!」


 その瞬間、突風が吹き荒ぶ。桜の花びらが二人に舞い降りる。

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俺、自ら卒業させる 涼風岬 @suzukazeseifu

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