真価

釣ール

学ばない人間とほろばない生き物

 人生は続いていく。

 何をしても指をさされ、馬鹿にされ続ける。


 俺は何のために受験をしているんだろう。

 どこかで聞いた誰かのまねをしてすぐになくなる幸せのために。


 誰かをにくみ、

 誰かと笑い、

 誰かと涙し、

 誰かをゆるす。


 退屈だとか助けてほしいとも言えない現実が待ち受けていて、誰しもが底に落ちる未来を前提ぜんていとしながら何もかもが管理されていて外に出れば目立つことさえしないように気をつけて運にまかせて死んでいく。


 へいぼんな男子中学生でもなんとなく想像がつく世界。


 ある日、俺の目の前で死んだ大きなカエルがいた。

 もちろん誰も気にしない。

 俺はちがったが。


 くわしいことは分からなかった。

 でもひんしの状態なら持ち運んでもいいかもしれない。


 どいつもこいつも自分たちの都合で誰かを決めすぎている。

 誰も悪くないなんてきれいごとは言わない。


 お前たちがいつまでたっても余裕がないだけだ。


 クーラーボックスの中でわずかながらいかくする時のなき声が聞こえた。


 受験はもう終わっている。

 たいして良くも悪くもない高校だ。

 未来はどうせ俺もふくめて先ほそるだけ。


 を成功させよう。

 自分でも気味が悪い趣味だってのはわかってる。


 それなのに気分がいいんだ。

 どうせかぎられた人間しか好きを仕事に活かせない。


「もう何をやってもお先真っ暗だ。だから君を少しだけ天敵てんてき遺伝子いでんしをわける」


 人間……ましてや俺の情報じゃむくわれないか。

 人間が今もくりかえしているあやまちをおかさせないように改良しないと。


 特に何か目的はない。

 ひかれた大きなカエルをよみがらせたかった。


 それだけだった。




──減った食欲しょくよくと増えた闘争心とうそうしん




 人間になって何年か経った。

 もう忘れたよ細かいことは。


 元がウシガエルだったことをギリ覚えている状態で過ごしているのだから。


 今日も人間達に貸しをつくるために色々とやってみるか。

 といってもか弱い人間サイズのウシガエルが出来る行動は莫大ばくだいな欲望消費だけだが。


 あえて人気のない場所を探し、歩いているとどうやらトラブルがはじまっていた。


 気の弱そうな男子中学生が気性きしょうあらい男子中学生に胸ぐらをつかまれていた。


「うっ。いたい」


「お前みたいなやつが気に食わない。少しくらいなぐらせろ!」


 そこで俺がわりこんでトラブルを解決するのさ。


 なぐろうとした男子中学生のうでをつかみ、俺が彼の腹をなぐって気絶きぜつさせる。


「見ているだけの君も手伝ってもらうよ」


 俺はヒーローじゃないからさ。



*



 隠れ家にもどって俺は人間の情報を手に入れるため、人助けを理由にトラブルメイカーをさらっている。


 今回は気性きしょうあらい男子中学生を拷問ごうもんしていた。


 遺伝子情報は手に入れたのでつるしているだけで、特に暴力ぼうりょくは使っていない。

 俺は人間じゃないから冷酷れいこくになれなくてね。


 そばでふるえている気の弱い男子中学生はくりかえされる俺のひとりごとを聞いていた。



「人間のAVは規制されているらしいからなかなか性の勉強ができねえ。だから俺は仲間たちの産卵さんらんシーンをみて興奮こうふんしているのさ。元の情報が受験を終えたばかりの男子中学生だったからな」


 やっべえ。

 もういいや。

 情報は手に入れたし変なこと言っちまったし。


 気絶している拷問ごうもんした男子中学生をふるえてる男子中学生に手渡し、隠れ家の記憶を消した。


 しばらくして二人が仲良さそうに肩をかかえて帰る姿を見て人間の複雑さに嫌気いやけがさした。



*



 モーッ、モーッ。


 俺が人間だったら仲間ウシガエルたちもこんな近くで鳴いたりしない。


 逆に言えば俺だからって安心しすぎだお前ら。

 こっちが人間の遺伝子情報をコピーして失った食欲の変わりに増えた性欲を満たすために何回お前たちの繁殖はんしょくを楽しんでると思っているんだ。


 そこである一匹のメスがこちらをながめていた。

 俺は手を差しのべる。


「俺を選ぶなんてあんたただものじゃねえな」


 んできた彼女をつかみ、俺たちは少し場所を変えた。


「俺の子どもを残しても今までみたいにそのまま仲間が産まれるだけ。俺みたいな人間に近いやつは産まれないから安心してほしい。さあ、後は他のオスに見つかってもいいようにここから自分で泳いで逃げろ。人間の法にも引っかからねえぞ」


 ちょっとはスリルを楽しめた俺たち。

 外来種がいらいしゅだかなんだか知らねえが俺たちも生きているんだ。

 お前ら人間の見世物みせものじゃねえぞ。


 少しだけ中指なかゆびを空に立てて今日一日気分がたかまっていた。


 無事に逃げてくれよ。



━━それから



 男子高校生もなんか物足りない。

他のブランドっていうか属性ぞくせいがほしいなあ。

 平凡へいぼんで金にならない研究趣味をもつ男子中学生もただの男子高校生か。


 結局いつも通り大学受験をがんばってなんとかつまらない人生を生きていくのかもな。

 友達の前では笑っているけど心は泣いている俺は。


 一人で帰り、街を歩いているとああいたよ。

 人間に化けているあいつが。


「おい。まだ生きていたのかよ飼い主!」


「こっちのセリフだ。助けられたおんを忘れておきながら飼い主じゃないとあれほど話したのに。助けた相手にそこまで言うってことはさぞ辛い人生をあのあと送ったのか?」


 ふ、ふはははは。


 あれから好きに生きてやるとウシガエルが言ったから上手く手続きしたのに。

 久しぶりに会うとまるで古い友達とあったような感覚になる。


 俺たちはこぶしをあわせた。



「「せめてこのディストピアを生きぬこうぜ! おたがいにな!」」



【了】

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真価 釣ール @pixixy1O

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