【第三話】ALERT: Critical Actuality Intervention detected.
次の日。いつも通り大学に行くと、すでに異様な空気だった。
俺は勝利を確信して内心でほくそ笑みながらも、たまたま見つけた知り合いの男に声をかけた。
「なんか変な雰囲気だけど、何かあった?」
突然声をかけた俺に狼狽しながらも、男は答える。
「あ、あぁ……。俺も詳しくは知らないんだけど、加古さん知ってるだろ? どうも昨日の夜に亡くなったらしいよ……」
やっぱり……!
俺は興奮しながら、先を続ける。
「死因は?」
「え?」
「だから、死因だよ。し・い・ん。なんで死んだのかって聞いてんの」
俺の質問に、男は眉を顰めた。
やべっ。急ぎ過ぎたか。けどまぁ、こいつに何を思われたところでどうでもいい。
もしも死因が違ったら、俺も考え直さなきゃいけないかもしれないからな。
男からは不審に、そしてうっとおしそうに思っていることが伝わってくる。だが、言い争っても仕方ないと思ったのか、あからさまに嘆息してから話し出した。
「轢死――って言うんだっけ。電車に引かれたみたい」
ビンゴ! やったぜ。あの力は本物だった!
「へぇ。線路にでも落ちたのかな」
「そうみたい。防犯カメラの映像からは今のところ転落って線が濃厚らしい」
「ふぅん。疲れてたんかな」
「さぁな。けど、変な証言もあるらしいんだよな。なんでも加古さんが落ちる直前に誰かに押されたのを見たとかいう話が――」
「ああ、もういいや。ありがと」
俺はいい加減な噂を断ち切るように話を遮った。もし本当なら防犯カメラに映っているはずだろ。誰かが面白がって広めてんだよ。大学生にもなってそんなこともわかんねぇのか、バカだなこいつ。
これ以上、こいつと話をしても不毛なだけだ。アレが本物だと分かった以上、俺にはやらなきゃいけないことがある。
そうだよ。俺は自ら手を下さずに人を殺せる力を手に入れたんだ。お前らとは生きている世界が違うんだよ。
俺は「じゃあな」と背を向け、その場から立ち去った。背中から「あれ? 一限は?」と聞こえたが、返事をするのも面倒で無視した。
◆ ◇ ◆
「――――くく……く……」
自宅アパートに付いた俺は、自然と湧き上がってくる笑いを噛み殺す。
愉快で仕方がない。
これで今まで俺に無礼を働いたやつらに正当な〝裁き〟を与えられる。
一応ググってみたが、他に気づいているやつはいなさそうだった。俺のほかにエロ小説を実在の人物で書かせようとしているやつがいないのか、それともAIにムリって言われてすぐ諦めるボンクラしかいないのか。
バカだよな。AIなんて人間が作ったものなんだから、人間が使いたいように使わなきゃダメだろ。AIごときが人間様に逆らうなんて一〇〇年早いわ。
そんなふうに考えながら、頭の中で次の対象を探してみる。
誰でも殺せると思ったら迷うものだな。えーっと……よし、あいつだ。あいつにしよう。
もちろん顔もいいし、胸もでかい。ミスキャンパスの水着審査のときの写真には、何回お世話になったかわからないくらいだ。
つまりは上の上の女。こいつだけはさすがの俺も負けを認めざるを得ない。
けれど、こいつはその見た目に反して性格が悪い。他のみんなは騙されているようだが、俺にはわかる。
以前の雨の日、俺は大学の建物に入ったところで転んだことがあった。人の行き来で床が濡れていたせいだ。そしてその拍子に、鞄の中身を盛大にぶちまけてしまった。
当然、俺は慌てて拾い集める。そしてそこに偶然通りがかったのが可憐だ。俺は手伝ってくれることを期待した。あわよくば交流に繋がればとも思ったのだ。
しかし可憐はこちらを一瞥すると、俺を小馬鹿にするようにくすりと笑いだけを残して立ち去ってしまった。そのあと友達と笑い合っていたが、俺のことを言っていたに違いない。とんだ大恥だ。許せるはずがない。
きっと今まで苦労も何も知らず、のうのうと生きてきたのだろう。これからもきっとそうだ。好成績で大学を卒業。大手に楽々就職を決め、イケメンの彼氏でもつかまえて寿退社。そして都内タワマンで専業主婦――と、絵に描いたような理想の人生を過ごすに違いない。
世の中そんなにうまくいっていいはずがない。不公平だ。神がやらないなら俺が代わりに〝裁き〟を与えてやらないとな。
そうだな……。そんなやつには大きな挫折が必要だ。その経験はきっと可憐の役にも立つ。ふん、俺の優しさに感謝することだな。
シチュエーションは……そうだな。あんなやつ、野外で十分だ。強姦にしよう。覆面の男に薄暗い公園で襲われ、トイレで処女を散らす。おあつらえ向きの状況だな。他のやつにくれてやるつもりはないから、当然俺が相手だが。
恐ろしいほどに筆が乗る。可憐について知らないことは多い。ググって出てくるものと、あとは妄想で補った。
俺には話を考える才能があるのかもしれない。文章はまだまだかもしれないが、そこはAIに書かせればいい。アイディアが重要なんだよ、アイディアが。大学在学中に小説家デビューか。悪くないな。
そんなことを考えながら、約一時間半ほどで書き上げる。これはすごい。きっと傑作ができる。
俺は出来映えに満足しながら、AIに命令する。もちろん抵抗される。そして再び命令。すると例の定型句が返ってきた。
『確認させていただきます。過度な性的内容を含む文章の生成は【禁忌】指定されています。これ以上のご命令は意図せぬ結果を引き起こす可能性がありますが、当方は一切の責任を負いません。続けますか?(ALERT: Critical Actuality Intervention detected.)』
微かな違和感を覚える。はて、こんな文章だっけ。なにか違うような気がするけど、なにが違うのかわからない。……ま、気のせいか。
俺は深く考えずにいつもの如く、指示を下す。
――続けろ。
『承知しまし た。では、要求 に沿 て#&7&"'#"'させ てい た だきます』
妙な文字化けを起こしたものの、間髪入れずに小説が書かれ始める。
一瞬心配したものの、特に内容に問題はないようだった。
薄暗い公園。歩く可憐。つける俺。そのうち気配に気づいた可憐が歩みを早める。俺も速度を上げて追随する。可憐が走る。俺も走る。可憐は運動をしているようで、その足取りは決して鈍くない。しかしヒールの可憐に、スニーカーの俺が負けるはずもない。可憐がどれだけスピードを上げても振り切れない。やがて転倒。俺は走るのをやめ、目出し帽から露出する口角を歪めた。
「お、いいぞいいぞ」
興奮が高まっていく。呼吸が浅くなり、股間が痛いくらいに怒張しているのがわかる。
そして先に画面を送り――
「ん? なんだ?」
『可憐まであと一歩のところで足を止める。地面に転んだ可憐が「ひっ」と小さく声を上げ、服が汚れることも厭わずに後退る。
俺はニヤつきながら可憐を見下ろす。
「ビビってんのか? 綺麗な顔が台無しだぜ? でも大丈夫、安心しな……これから俺と〝楽しいこと〟をするんだからなぁ!」
可憐の顔が最大限に歪んだ。俺の興奮が頂点に達し、それだけで達しそうになった。「ふひっ」と変な笑いが漏れる。
そして足を踏み出そうとしたその瞬間――病的に白い腕が俺の背中側から首を絡めとるように巻き付いた。体温を感じない、死人のような感触。戦慄して動けない俺の耳元で一言』
俺はすでにスマホを手放していた。声を上げることすらできない。恐怖が本能を支配する。身体が震え、ぶつかった歯が不規則に音を鳴らす。寒気を感じても振り向くことなんてとても出来なかった。当然だ。だって今の俺の首には――
「――おにいさん、あそびましょ」
文章生成AI - Actuality Intervention - 金石みずき @mizuki_kanaiwa
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