第1話

10話:チョコレートコスモスに君想ふ


『少し言い辛いけど、別れよう』

今日、彼からそんなメッセージが届いた。

まだお昼過ぎの12時半。

明るい時間に似つかない「別れよう」の文字に、思わず見ていたスマホの電源を落とす。

ワカレル?別れる?別れる…

私と貴方が?

誕生日まで数日、昨日会って普通に話したばっかりだったから、とても動揺していた。

声に出なかったのが不思議なくらい。

なんで急に…

私は今までに何かしただろうか。

喧嘩だってしてないし、ラブラブほどではなくても、上手くいっていたはずだ。

心の中では苦しんできたことも多かったけど、顔には出していないはず…

そうやって自分に嘘をついてまでこの恋を続けていたのに。

かれこれ一時間そんなことを考えていたが、返信しなくては、ともう一度画面を開く。

「………。」

何回見ても、信じられない。

土曜日の昼。

きっと誤爆RINEじゃないか、と期待も込めて待ってみたけど、そんな様子はない。

「……さすがにこれは冗談じゃないか」

こんな文、付き合ってもないのに送るわけがない。

今一度現実だと受け入れた私は、ゆっくりと言葉を打った。

『唐突笑』

『正直な理由、聞いてもいい?』

数分待って、連絡がきた。

『正直に話す義務があるね』

こんな時でも冷静か。

そんな彼が好きだったけど、今は同時に腹正しかった。

そんな私を他所に、彼はどんどん言葉を打っていく。

私のことをストーカーしている(めちゃくちゃ好きな人)がいて、自分は周りの人に「守ってあげて」と言われていたこと。

そんな時に、私から告白があったこと。

…守れると思って、付き合ったこと。

それでも、心苦しいし長く付き合うのも悪いと思っていたこと。

だから、今日で区切りをつけようと判断したこと。

本当に、素直に話してくれた。

てっきり彼のことだから、「好きじゃなくなった」とか「長く付き合うつもりはなかった」とか、そんなテンプレートなことを述べると思ってたのに。

その言葉を見て……

「……やっぱり、好きじゃなかったんじゃない」

彼の理由には、「好きだから付き合った」と言う記述は一切なかった。

ただ、頼まれたから、優しさと責任感で付き合ってくれていただけだったのだ。

腑に落ちた。

「やっぱり」と言う気持ちが強かった。

私だって、どこか分かってた。

裏で守ってあげて、なんて話があったことは知らなかったけど。

何となく、”優しさ”で付き合ってくれてるんだろうな、と言うことは分かっていた。

だって、私は貴方のことが好きなんだもん。

好きと言う気持ちが分かるから、貴方がそう思ってないことにも気づく。

最初から、心の中で覚悟していた……つもりだった。

それでも「別れよう」の一言は重くて、胸が張り裂ける思いがする。

どうしよう。

「それなら付き合ってほしくなかった」「好きだった気持ちを踏みにじまないで」……

そんな気持ちがあふれ出て、嫌いになってしまいそう。

それならいっそ、笑顔で、後腐れなく別れよう。

貴方とまた会っても、笑っていられるように。

文字を打つ。

貴方に対する、大好きだった気持ちと感謝、それから今後のことを…

打ち終わり、送る前にふと窓の外に目をやる。

母がガーデニングをしていた。

花壇にはもうすでに色とりどりの花が植えられている。

パンジーに向日葵、紫陽花、最近植えられたチョコレートコスモス…

チョコレートコスモスは、その名の通りほのかにチョコレートの香りがするそうだ。

私はまだ嗅いでいない。

ああ、貴方にも見てほしいな。

今もそう思っている自分がいる。

まだ覚めぬ恋心を想いながら、私は別れを告げる。

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