大富豪女子トーク

@arimurakazuma

大富豪は楽しいぞ

若菜みく。

彼女は、薄暗い部屋の中で遺書を書いていた。


"どうか、生まれ変わったらアザラシになりたい"


そう遺書を締め括り、ペンを机の上に置く。

そして、彼女の頭上に吊るされている縄に手を伸ばす。

彼女の頭の中に、走馬灯のように思い出が映し出される。


若菜みくの小学生のときは、図書室で本を読むような女の子だった。

若菜みくの中学生のときは、ギャルになってキャピキャピ女の子だった。

若菜みくの高校生のときは、メガネをかけて理系女の子だった。

若菜みくの社会人のときは、思い出したくもない暗黒時代。


あぁ、小学生のときが1番輝いていたかもなと彼女は思い出に耽りながら、涙を流す。


「みく、何してるの?」


こんな人生早く終わらしたい。


「ねぇ、無視しないでよ」


そういえば、私が死んだら誰か悲しんでくれるかな。


「おーい、もしーもし。無視するなら、エロ同人誌みたいなことするぞー」


なんかさっきから、友達の声が聞こえるな。

彼女は我に返り、目の前に女の子がいることに気がつく。


「さき!?なんで、あんたがここに?」


「あ、やっと気がついたみたいだね。てか、何してるの?自殺ごっこ?」


「ごっこじゃなくて、本当にするんだよ」


「.....まぁ、いいや。それより、まやとくるみも、もうすぐ来るから、大富豪やろうぜ!」


さきは、まるで何事もなかったかのように、スルーした。

若菜みくは、驚愕した。悲しくもあった。

さきにとって、私の生死は大富豪以下なのかと、怒りも感じた。


「もう、出ていって!」


「「お邪魔しまーす!」」


若菜みくが怒りを露わにした瞬間、勢いよく玄関の扉が開け放たれた。

外の新鮮な空気が入ってくる。

そういえば、窓にカーテンをしていて気が付かなかったが、外は日が昇って快晴だった。


「あれ、お取り込み中?」


まやが顔を引きつらせながら、やばいところに来てしまったかと焦った顔をした。


「もしかして、やばたにえん?」


くるみは、まやの後ろから能天気な声でそう言った。


「お、来たね。4人揃ったし大富豪やろうぜ」


さきは平常運転かのように、話を進める。


こうして、私の自殺現場に友達が集結した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「なんで、あんたたちが私の部屋にいるの?」


若菜は目の前の光景に疑問を抱いていた。

高校のとき仲良かった3人、社会人になった今でも付き合いのある友達たち。

彼女たちは机にお菓子の袋を散らばせ、くつろいでいた。


「なんでって、今日遊ぶ約束してたじゃん」



さきが、さも当たり前かのように言う。

そういえば、そんな連絡をしていた記憶がよみがえる若菜。

若菜は、自分の自殺姿を友達に見せてしまった恥ずかしさと、邪魔をされた怒りで頭がぐちゃぐちゃだった。

いつのまにか、薄暗かった部屋も明るくされて、さっきまでの陰鬱な雰囲気がなくなっている。


「いいから、出ていって。今日は忙しいの!!」


若菜は嗚咽も混じった声で、怒鳴る。


「えー、今日くらい泊めてよー。てか、何これ遺書?」


「ちょっと!?」


くるみが勝手に遺書を拾い上げ、読もうとしている。

若菜はくるみから遺書を取り戻そうとするが、つまづいて転んでしまう。


「私の人生はクソ野郎な人生でした。クソがクソを彩り、私の心はクソになりました。なので、死にます。さようなら。どうか、生まれ変わったらアザラシになりたい」


くるみが面白そうに読み上げる。

若菜の顔面は赤く染め上がり、床に転んだままぷるぷるとしている。


「語彙力ねぇ」


まやが笑いを我慢しながら、そう言う。

くるみもさきも、その言葉に頷く。


「アザラシになりたいの?」


さきが床に突っ伏している若菜をツンツンしながら、聞く。


「もう、いやだ」


若菜は泣きながら、消え入りそうな声でそう呟く。


「まぁまぁ、ごめんごめん。アザラシいいよね!」


さきが笑いながら、謝る。

若菜はそんな謝罪どうでもよかった。

彼女は、この人生で1番恥ずかしい状況から早く抜け出したかった。


「....みんな、そうやって私を馬鹿にするんだ。私なんて何もできないって馬鹿にするんだ。だから、死んでやるんだ」


あたりが静まりかえる。

みんな言葉に詰まってしまう。

そんな地獄みたいな空気を打ち破ったのが、さきだった。


「.....じゃあさ、今から人生逆転ゲームしようぜ!」


「「人生逆転ゲーム?」」


くるみとまやが、何言ってるんだこいつみたいな顔をする。


「まぁ、トランプで大富豪するだけだけどね。でも、罰ゲームつきだよ!」


「罰ゲーム?」


まやが首を傾げる。


「そう、1ゲームごとで最下位になった人は人生の汚点を語るっていう罰ゲーム」


「汚点って、どんなことを言うの?」


くるみが頭にハテナマークを浮かべる。


「1番恥ずかしかったことだったり、辛かったこと、まぁ犯罪歴でもいいよ」


「...それのどこが人生逆転ゲームになるの?」


くるみが聞くと、さきがニヤリと笑う。


「これは若菜にとっての人生逆転なのだよ。若菜はいま自殺したいほど、自分のことも世界のことも嫌いになっている。だから、私たちの汚点も話すことで、"私より下の人もいるんだな"と優越感に浸ってもらい、少しでも生きる希望を抱かせようというゲームなのだ!」


「「うわぁ、クソみたいなゲームだ」」


まやとくるみは、若干引いていた。

そんなのお構いなしに、さきはトランプをシャッフルし始める。


「ねぇ、さっきから勝手に話を進めているけど、私参加するなんて言ってないから」


床に突っ伏しながら、若菜はそう言う。


「いや、若菜は強制参加だよ」


「だから、なんで!!」


若菜は段々と苛立ってきた。


「若菜はいま自殺したいほど苦しんでいるかもだけど、私はあんたの苦しみなんて全然わからない。そもそもあんたが自殺したいほど、苦しんできたかも信じられない」


「あんた何が言いたいわけ?

つまり、私がそんな苦しんでいないのに、自殺しようとしている、よわよわ女だと思っているわけ?」


「そうだね。よっぽど私のほうが、自殺したいほど辛い人生を送っていると思うよ。よわよわ女さん」


「うるさい、うるさい!!」


若菜が立ち上がり、さきに殴りかかろうとする。だけど、またつまづいて転んでしまう。


「あんた、ほんとに昔からドジだよね」


さきが若菜の顔を上から覗くように見る。


「クソっ、うるさい!」


「そんなに悔しければ、大富豪で私を負けさせ、私に汚点を吐かせてみれば? そうすれば、周りと比べてあんたの苦しみがどれだけかわかるんじゃない?」


「うるさい、うるさい」


「あと、若菜が5回連続1位になった場合、私たちはおとなしく帰るよ。勝手に自殺するなら、自殺してもいいよ。だけど、5回連続で1位にならないと、一生このゲームが続いて、あんたは一生自殺できない!」


「.....なんで、なんで、そこまでして私の邪魔をするの?」


「うーん、ただの暇つぶし?」


「.....くっくっくっ、はっはっはっは」


「「若菜がおかしくなっちゃったよ」」


くるみとまやが、一緒に引いていた。


「受けて立とうじゃないの。そのくだらないゲームを一瞬で終わらせて、私の人生も終わらせてやる!」


「ふっ、それでこそ、若菜だよ!」


さきが嬉しそうに若菜に抱きつく。

若菜はそれを引き剥がそうとするが、さきの馬鹿力に負けて、しばらくそのままでいた。


こうして、世界史上最高最悪の闇のゲームが始まったのであった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「「というか、私たちも強制参加なの?」」


くるみとまやが嫌そうな顔で聞くと、若菜とさきは口を揃えてこう言った。


「「当たり前よ!!」」


仲良しかよ。




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