第3話 ライバル登場?


「ま、まだ外に竜が残っていると思うので……」


 これ以上変に絡まれない内に退散しようとするも、残念。

 相手の方が一枚も二枚も上手であった。


「だったら一緒に行くわよ。私の実力、知らないってわけじゃないんでしょ?」


「くっ……! なんでこんな時に限って到着が早い竜狩りがスコートなんだ……!?」


「私だったら、何か問題なのかしら?」


 狙っている。完全に男の視線を誘惑する服装は狙ってやっていること。

 女性としての魅力を存分に強調して優位に立とうとしているのが丸わかりだ。


 逆に言えば自身の武器を把握してきっちりそれを使って仕留めようとしているということ。

 生半可なコミュニケーション能力しか持っていないお兄ちゃんには相手が悪すぎた。


「ねぇ、一緒に行っても良いわよね?」


「ひぃっ!? お、お好きに、どうぞ……」


 びっくぅぅうっ! って身体を固まらせちゃって。

 そんなお兄ちゃんの反応は女性経験のない男そのものに見えてしまう。


 さっきお兄ちゃんが口走った通りの爆乳を武器に寄ってくる美女が相手。

 女性経験の有無にかかわらず反応に困ってしまうものなのかもしれないが、何も気にしていませんよの態度を見せようとしてくれよとは思う。


 自身の魅力のせいで挙動不審になっているのだと勘違いしたまま、爆殺のスコートがお兄ちゃんを誘導していく。

 早く行きましょうと背中に手を置いて歩き始めるのだが、きっとお兄ちゃんが私を抱いていなければ手でも握ってきていたことだろう。


 強さを手にした代償なのか。ここぞとばかりに人見知りが発動するお兄ちゃんの姿はいつまで経っても情けない。


 ならばちょっくら私が助け船を出してあげますか。


「あの、私のことは無視ですか?」


「あらあら、抱えていたのは赤子じゃなかったのね」


 煽るようなそのセリフ。

 大方、私のことをガールフレンドだと思っているのだろう。


 ガールフレンドを抱えたまま嬉々として竜と戦う男がいるわけがないだろうに。

 ……いや。よく考えれば、そうか。妹を抱えたまま竜と戦おうとする男もいないのか?


「まぁ、超絶ぷりちーな私を赤ちゃんと見間違えるのは仕方ないですが。どこかのお下品なお姉さんとは違いますからね」


 カウンター。これは見事なカウンターが決まった……!

 お兄ちゃんの腕の中じゃなかったら今頃おほほほほほとお嬢様よろしく高笑いに忙しくなっていただろう。


 満足。私のお仕事、終わり。


「かっちーんときちゃったんですけど……! 何よあなた。あなたこそお下劣な格好なんじゃないのかしら? もしかしなくてもご自分でお歩けないので?」


「はい。昔から足が不自由なんです」


「あっ……えっと、その。申し訳ありませんでした……。くっ……私としたことが配慮の無い発言を……!」


 おや? ちゃんと謝れるタイプの人?

 本当に申し訳なさそうにされてしまうと、嘘をついた私の方が心が痛くなってきてしまうじゃないですか。やめてくださいよ。


 カウンターWパンチが綺麗に入った……!

 なんて悦に浸っていたのが悪く思えてきてしまう。


「お待ちを。この度の無礼はきちんと詫びさせていただきます」


 ロボットのようにただ歩くだけの存在になっていたお兄ちゃんの前に立ちふさがるのは、爆殺のスコートだった。


 ちゃんとお詫びをしたい。その言葉に嘘はなさそうに思える。

 目、というか表情というか立ち振る舞いというか。本心で思っているように見えた。


 一番最初の印象からは想像できない程に誠実な態度。

 どちらが本性なのか分からないが、お詫びをしなければという思考に至ることができる人なのだとしたら。


 どうして最初に接触してきた時からこの態度を見せなかったのか疑問になってくる。

 むむむ。これは少し困った。私としてもここまで誠意を見せられれば嘘を白状しなければならなくなってしまうじゃないか。


「あの、気にしなくてもいいですよ。歩けないって言ったの、嘘ですから」


「……は? 嘘?」


「お姉さんが私のお兄ちゃんにちょっかい出してきたから、からかっただけだったの。その、ごめんなさい」


 きょとーん。としたアホ面が良く似合う。

 派手な格好をしているからより素っ頓狂に拍車がかかっていた。


「それじゃあ、歩けるの……?」


「うん。お兄ちゃん、降ろしてくれる?」


 爆殺のスコートの目の前でしっかりと地面に立つ姿を見せつける。


「ほ、本当に立ってる……」


 本当に私が両足で立って歩く姿を見て、がに股に脱力させて立ち尽くす醜態を淑女が晒してしまうのは大変によろしくないと思うのだが。

 思った以上にショックを受けているらしい爆殺のスコート。彼女とは初対面なんだし、扱い方の勝手も分からないからどう接したらいいのかすら分かりません。


 助けて竜様。どうやら私も人付き合いは得意ではなかったみたいです。


「ふぅ、では私は何も無礼を働いてなどいなかったと」


「実際どうなのかは別として、そもそも初対面の人に向かって歩ける歩けないだとか言うのは失礼なんじゃ……? それに、おっぱいをお兄ちゃんに見せつけるようにしてきてたし」


「……こほん。ここはお互いに両成敗。謝罪を受け取り合ったということでこの話は手打ちにいたしましょう」


 罰の悪さを自覚しているらしいスコートの目線が泳ぐ泳ぐ。

 腕を組んで精一杯の冷静を装う彼女の姿を見ていると、なんだか親しみを感じてしまう。


 悪い人ではないのだと私の直感がそう告げていた。


「そうね、話は一旦おしまいにしましょ。えっと、爆殺のスコートさん……でいいんだっけ」


「できるのならスカーレットとお呼びください。その呼び方はできればしてほしくないので」


「そうなの? カッコイイと思うけど」


「いいえ。私はカッコ良さよりも優美な雰囲気の呼ばれ方を望んでいたんです」


「例えば?」


「花火だとか、雅な感じと言えばいいのでしょうか。爆殺だなんて物騒なことこの上ありません」


「ふーん。私はリミリー。お兄ちゃんからはリリィって呼ばれてるから好きに呼んでいいからね」


「ちょっと!? 興味無いからって急に話をぶった切らないでくださいよ!」


「よろしくねぇ~。行こっ、お兄ちゃん」


「あっ、ちょっと! 私も連れて行きなさいってば!」


 途中で面倒になっちゃったのは内緒。

 悪い人ではないかもだけど、だからといって別に好感度が爆増ししたってわけでもないのだ。


 スカーレットよりも竜。私の関心は彼女よりも街の外にいるかもしれない竜の方に向いていた。

 お兄ちゃんの手を引いて、私はスカーレットから逃げるみたいに街の外へと向かっていく。


「あ、俺の名前は――」


「お兄ちゃん~? そんなことより走って?」


 遅れて正気を取り戻したらしいお兄ちゃんの言葉を遮って強めに手を引くのはなんか嫌だったから。

 お兄ちゃんに限って色恋に靡くようなことはないはずだけど、万が一ということもある。


 妹センサーがぴぴぴと反応しているのを気のせいだと無視するのは得策じゃないだろう。

 だからこそ、私はスカーレットを少し邪険に扱うのだ。


 ……?


 そう考えると竜よりもお兄ちゃんの方が大事……なのかな? なんて。


「リリィ、そんなに引っ張らなくてもいいから……!」


「じゃあ、また抱っこしてくれる?」


「喜んで」


「即答するのはちょっと気持ち悪いかも」


「あっ、でしたら私が代わりに抱っこされてあげましょうか?」


「はぁ!? なんでスカーレットは割り込んでくるのよ」


「うふふふふ。恋する乙女の行動力を舐めてはいけませんわよー!」


 高らかに笑いながら並走してくるスカーレットには恐怖すら感じる。


 って、違う違う。

 え? 今、恋する乙女って言った?


 聞き間違いじゃないよね? やっぱり私の勘は合ってたよね?

 多分私が間に入ってなかったら、お兄ちゃんの優先順位不動の一位である妹の私からまさかまさかの彼女という対抗馬が猛進してくる可能性があったよね???


 させない。絶対にスカーレットの好きにさせてはいけない。私が甘やかされているのは、私以外に甘やかす人がいないからこそ。

 別にお兄ちゃんは朴念仁というわけでもないだろう。仮にスカーレットの好意に気付いてしまえば、心が妹と彼女のどちらに動くのかは正直に言って不明なのだ。


「お兄ちゃんは渡さない……!」


「おほほほほほ。なんのお話でしょう?」


 厄介な人と知り合ってしまった。

 逃げるように走りながら、私はそんなことを思うのであった。

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でっけぇ竜に憧れて あいえる @ild_aiel

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