宗教の必要性

幸崎 亮

誰しもが〝拠り所〟を求めている

 宗教など必要ない。神なんて存在しない。とりわけ日本にはそういった思想を持つ方が多く、「宗教」と聞いただけで鼻で笑うか、嫌悪感を示す人も多いことでしょう。ちなみに特定の宗教に帰属しないことを「無神論者」だと自称する方もおられますが、多くは「無宗教」とするのが正しいですね。


 無神論とは「この世に神など必要ない! 混沌こそ正義だ!」といった思想を指しますので、特に海外では、テロリズムに傾倒した者であると認識されることもあります。入国審査の際に宗教を尋ねられた際には、表現に注意した方が良いですね。


 さて、そんな宗教がなぜ誕生したのかを語りだすとキリがないので、ここでは一つに絞りますが、それは偏に「精神的な拠り所」を求めたためですね。自己の概念と存在を現世に固着化させるために、何らかの〝触媒〟を必要としたということです。


 一見するとファンタジックな設定にも思われそうですが、特に〝孤立〟を感じている方にならば、なんとなく察することができるのではないでしょうか。


 自分は確かに世界に存在している、自分は世界の一部であると、そう自認できるのは、偏に〝他者〟から自己が認識されているためです。


 「あなたは確かに、ここにいる」と、他者から認識されてこそ、初めて〝人としての存在〟が許されるといった具合ですね。



 たとえば想像してみてください。あなたが他者から認識されなくなった世界を。透明人間になったわけではなく、無視されているわけでもなく、たしかに〝物体〟として存在はしているにもかかわらず、誰もあなたを認識しない世界です。


 食卓にはあなたの食事が用意されず、目の前に立っていたとしてもスルリとかわされ、たとえ他人の風呂やトイレに立ち入ったとしても反応を示されることもない。こちらから触れたとしても、「吹きつける風が強い」程度の反応を示されるだけ。


 誰もあなたを見ようとせず、必然的に存在する、得体の知れない障害物として避けられ続ける日々です。そこに一切の感情はありません。


 もしも、こんな世界に迷い込んでしまおうものなら、間違いなく発狂してしまうでしょう。最初の数日こそ、透明人間気分で楽しく過ごせるかもしれませんが、次第に精神は擦り減り、最後は奇声を上げながら自ら命を絶ってしまうかもしれません。



 話は少し変わりますが、時おり凄惨な、無差別殺傷事件が発生いたしますね。具体例を挙げるとトラウマを呼び起こしてしまう方がおられるかもしれませんので伏せますが、多くの加害者は〝孤立〟していたとされています。


 現実では他者から相手にされず、ネットの匿名掲示板に過激な書き込みをしても相手にされず、実際に凄惨な犯行に及んだことによって、ようやく姿と実名が世間に晒されるといった具合ですね。もっとも、受ける評価は最低最悪なものなのですが。


 私には、彼らの気持ちがよくわかるんですよね。ようするに、彼らは「拠り所」を求めていたのです。もしもどこかの段階で彼らと言葉を交わしてくれる人物がいれば、このような事件を未然に防げていたでしょう。私は、そう感じます。



 「精神病患者が描いた絵」というものがありますね。あれのすべてが〝本物〟であるのかどうかは、正直疑わしいところではあるのですが。


 私には絵心はないものの、頭の中で〝絵〟を描くことがあります。それがどういう絵かというと、「繁華街の路上で自らの首にロープを巻き、両手にナイフを持って慟哭している男」の絵なんですよね。男の周囲には楽しげに会話をしながら行き交っている人々の姿が描かれており、かれらの部分にだけ、キラキラとスポットライトが当たっています。対して、男の部分は薄暗く、誰も彼を見ようともしません。


 言うまでもなく、その男は〝私〟ですね。絵の中の〝私〟は自殺を計ろうとしているのか、それともナイフで無差別に暴れようとしているのか。それは定かではありませんが、彼がもっとも訴えたいことは「私に気づいて!」なのでしょう。


 しかし残念ながら、誰も彼を気に留めようともしません。そして男は自らの命を絶つわけでもなく、他者を傷つけるわけでもなく、ただただ泣き喚き続けるのです。



 私には幸いながら、一年に数度、話を聞いてくれる親友がおりました。そのため、こうして泣き喚くのみで、何年も、十数年も耐え続けることができたわけですね。しかしながら、今年は連絡手段を失ってしまったこともあり、それができません。


 ええ、先に断っておきますが、私は犯罪をするつもりは一切ありませんからね。私の使命は『ミストリアンクエスト』を書き続けることです。自由を失ってしまっては、そんなささやかな願いすらも叶わなくなってしまいますからね。


 人を殺める是非については、どうだっていいことです。戦争が始まれば、人殺しこそが正義です。そんな価値観など些細なことで変化しますからね。右に立つか左に立つか。あるいは西に立つか東に立つか。正義とは、単なる位置情報にすぎません。


 では、なぜ平時において殺人が禁止されているのかというと、単純に「人口が減るから」です。人間という〝種〟の存続が危ぶまれるからですね。命を奪う戦争とは矛盾しているようですが、こちらも生物が持つ、単なる〝淘汰〟の結果にすぎません。



 話が逸れましたので話題を「宗教」に戻しますが、要は「神」とは、絶対的に、継続的に、恒久的に、自己を認識し続けてくれる概念的存在です。


 どんな時でも「神」が自分を見てくださっている――。そう思えるからこそ、〝人間としての存在確立〟という、安心感を得ることができるのです。


 日本においては「神に見られる」ことを「バチが当たる」と表現し、「神に見つかること」を恐れますが、これは日本に「八百万の神」が存在しているが故ですね。天にも地にも道具にも、そこら中に普遍的に神が存在しているからこそ、神の怒りを買うような行為を控えるというわけです。


 反対に、特にキリスト教圏では、「神に見放されること」を激しく恐怖します。日本と違って「神に見られていること」に安心感を覚えるというわけですね。


 洋画か何かで「神に見放された!」と叫ぶシーンを、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。あれにはしっかりと意味があります。心からの絶望です。



 キリスト教の世界観で言えば、この世界のすべては地獄であり、神の周囲にだけ、楽園が広がっているというイメージですね。キリスト教徒以外は地獄に住まい、神への信仰に目覚めた者だけが神の周囲――つまり楽園への立ち入りを許されるのです。


 つまり無心論者の「神など必要ない!」とは、この世界から「神」を取り払うこと、つまり「世界のすべてを地獄にしてやろう」といったニュアンスですね。ですので、テロリズムと同一視されてしまうというわけです。


 日本では「新興宗教」への悪印象から、宗教が犯罪を生むとされがちですが、世界的に考えれば、むしろ確実に宗教のおかげで犯罪率は減っていることでしょう。誰も自身を認識してくれない世界など、まさしく地獄でしかないのですから。特定の宗教に入ってさえいれば、孤立という地獄から逃れることができるというわけです。



 ここまでの話でお気づきでしょうが、別に特定の既存宗教に限らず、「宗教」であればなんでも拠り所になるというわけです。自分自身で「自分だけの宗教」を立ち上げても良いですし、空飛ぶスパゲッティモンスターを信仰しても良いでしょう。


 そして、私は「ウサギを崇めている」と常々申しておりますので、完全な孤立状態になることは防げているというわけですね。ウサギ教のおかげです。死後はウサギの楽園へと迎え入れられ、ウサギさまのお世話をすることができます。ウサウサ。


 いくつかの新興宗教の中には、そうした「自分だけの宗教」から派生したものも多いです。前述した「空飛ぶスパゲッティモンスター教」などが代表例ですね。


 新興宗教というと「危険」のイメージが付きまといますが、他者に無用な迷惑をかけず、金銭や身体に重大な悪影響を及ぼさないものであれば、信じる価値はあるでしょう。元々は、既存の宗教における「拝金主義」や「俗物主義」に対抗する手段でもありましたからね。何事も自分の頭で考え、しっかりと調べることが重要ですね。



 とはいえ、やはり無闇な入信はオススメしません。私の身内も変な新興宗教に入ってしまっておりますからね。あれが孤立感を味わっている時に、しっかりと「拠り所」になってやれなかったことが悔やまれます。本人が良いなら良いのですが。


 誰しも孤立に抗うために、「拠り所」を求めているものです。それは当然ながら「神」である必要はありません。「あなた」が誰かの拠り所となることもあるでしょうし、すでに身近な誰かが、あなた自身の拠り所となってくれていることでしょう。


 もしも身近に「拠り所」となる人がいる皆さんは、くれぐれも、その人との関係を大切にしてください。普段は気づかないでしょうが、あなたが当たり前に存在できることが、すでに幸せなのです。――どうか孤立することのないように。


 今回は、このようなお話でした。

 ご清聴いただき、ありがとうございました。

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宗教の必要性 幸崎 亮 @ZakiTheLucky

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