第6話「謎の少女」
「エマちゃん、そのハーブは細かく刻まないで」
「えっ、でも recipe book には...」
「うんうん、普通はそうなんだけど」私はエマの横に立ち、包丁の動きを止める。「このスープの場合は、香りを残すために粗めに」
「なるほど!そうすれば香りが料理の最後まで残るんですね」
エマが目を輝かせる。朝一番の仕込み時間。二人きりの厨房は、いつも新しい発見に満ちていた。
「そうそう。それに――」
店の扉が開く音が響いた。開店まであと30分のはずなのに。
「すみません、まだ準備中で...」
言葉が途切れる。入ってきた少女の姿に、思わず息を呑んだからだ。
銀色の長い髪に紫紺の瞳。純白のドレスは、まるで月光を織り上げたよう。しかし、最も印象的だったのは、その表情だ。
「わーい!やっと見つけた!」
無邪気な笑顔で、少女は厨房まで駆け寄ってきた。
「あの、どちらさまでしょうか?」
「私はミーシャ!お料理の匂いを追いかけてきたの」
年齢は14歳くらいだろうか。だが、どこか不思議な雰囲気を漂わせている。
「美味しそう!それ、試食させてもらっていい?」
エマと作っていた薬草スープを、キラキラした目で見つめていた。
「えっと...まだ味が決まってなくて」
「いいの、いいの!むしろ、調整中のが面白そう!」
断る間もなく、ミーシャはスープを一口。
「!!」
彼女の体が、一瞬だけ光り輝いた。それは今までの薬草スープの効果とは、明らかに違う輝きだった。
「すごーい!これ、神様の涙を入れてるの?」
「えっ?神様の...涙?」
「あ」ミーシャは小さく舌を出して「秘密の材料だったのかな?ごめんごめん!」
私とエマは顔を見合わせる。使っている材料は、市場で手に入る一般的な薬草だけ。神様の涙などという材料は、聞いたことも...。
「ねえねえ、もっと色んなの食べたい!お菓子とか、からいのとか!全部一緒に!」
「一緒にって...デザートと辛い料理を同時に、ということですか?」
「うん!それって変かな?」
確かに珍しい注文だ。だが...。
「分かりました。少々お待ちください」
私は考えを巡らせる。デザートと辛い料理。一見、相反する味わい。でも、うまく組み合わせれば...。
「エマちゃん、スパイスを出してくれる?」
「はい!」
私たちは急いで準備にとりかかった。出来上がったのは、スパイシーなカレーと、爽やかなレモンのシャーベット。
「わぁ!これは面白そう!」
ミーシャは躊躇なく、カレーとシャーベットを交互に口に運ぶ。
「美味しい!スパイスの刺激と、レモンの冷たさが...まるで、昼と夜が踊ってるみたい!」
その表現に、思わず目を見開く。料理をここまで詩的に表現する客は初めてだ。
「また来ていい?毎日来たいな!」
「ええ、もちろん」
「やった!これでお友達だね!」
無邪気に喜ぶミーシャ。だが、その瞬間。
「あ、もうこんな時間!」
窓の外を見て、彼女は慌てて立ち上がった。
「ごめんね、行かなきゃ。また来るからね!」
去り際、ミーシャは小さな袋を置いていった。
「これ、お店のお礼!じゃあね!」
振り返る間もなく、彼女は駆け出していく。後には、キラキラと光る小さな袋が。
「美咲さん...これ」
エマが袋を開けると、中から出てきたのは...。
「これって...まさか」
私たちの目の前で、透明な涙のような滴が、かすかに光を放っていた。
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異世界食堂の片隅で~最弱職付与の元スーパー惣菜担当、始めました~実は、神様も通う裏メニューがあります ソコニ @mi33x
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