何某の話
スクワッロ
何某の話
「あと1分で電車いっちゃう」
彼は焦りながら13番線ホームへと向かった。
連絡橋に響くのは彼の足音だけであった。焦りと緊張感を持った足音は連絡橋に充満し、やがて開け放たれた窓の外に抜けていく。あたりはすっかり暗くなってしまった。視覚に頼ることができないほど暗い外に耳を傾けると、そこからは葉が擦れる音が聞こえる。普段ならこの時間はたくさんの人で賑わうのだから、これほどまでに静けさを感じることはないのだが、今の彼にはそれを違和感として感じる余裕はなかった。 窓の外は暗く、蛍光灯の光は外の暗闇を際立たせる。彼の足は止まることを知らない。止まってしまっては乗る予定の電車に間に合わないのだ。その時はただ電車の時間を気にするのみであった。しかしそのときだった。いきなり、彼の足音が聞こえなくなった。そして、まるで彼の作った一瞬の静寂がスタートの合図かのように、人が1人2人3人と増えていった。やがてあたりは普段の賑わいを取り戻した。そこに彼の姿はなかった。
何某の話 スクワッロ @sukuwarro
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