第2話 シルバーヴォルフ
人の姿で俺をどこかへ案内し始めた美女と、俺の横を一緒になって歩くシルバーヴォルフ。
俺を挟む形で横に並んで歩いている。
懐かれたのか、時折俺の手に頬を擦ってくる仕草が可愛い。
「こいつは人の姿になれないのか?」
「テルマはまだ未熟であるが故に人化できないんだよ。それでも言葉を聞いて理解することはできる。テルマが懐いているということは、私が倒れているときに彼女に話しかけてくれたんでしょ?」
やっぱりあのとき俺の言葉を理解して警戒心を解いてくれたのか。
「くぅん……」
「おーヨシヨシ、可愛いなお前。テルマっていうのか、俺はアキだ」
モフモフとした触り心地が最高でいつまでも撫でていられる。
「私はルーラだよ」
人の姿ではあるが、中身はテルマと同じシルバーヴォルフだからか甘えるような仕草をしてくる。
絶世の美女が肩に頬を擦り付けてくるこの状況が初めて過ぎてどうすればいいのか分からない。
「元の姿に戻ろうか?そうしたら撫でてくれる?」
「あっ……いや、大丈夫だ……」
恐る恐るルーラの頭に手を伸ばし、サラサラの髪の毛の上からそっと撫でた。
「アキは別世界からの人間なのだろう?てことはさっき私を助けてくれたことも偶然?」
「偶然……というか俺からしたら奇跡が起きたようだ。何だったのかまるで分からない」
「そっか。でも悪いものじゃないよ。お礼と言っておきながら悪いんだけどさ、これから行くところでもやってくれないかな」
木々が入り組んだ森の中を迷うことなく進んでいくルーラ。
次第に当たりは暗さを増し、日の光が差し込む量が最小限に減った。
「ここら一帯が私たちの縄張りだよ」
少々不気味さが出てきているものの、ルーラもいるし手元にはモフモフのテルマもいる。
きっと大丈夫だろう。
見えてきたのは、多くのシルバーヴォルフたち。
一匹一匹がルーラよりも大きく、逞しい。
俺の姿を見るなり、目で追えない速度でこちらへ向かってきた一匹のシルバーヴォルフ。
「──止まって。彼は敵じゃない」
ルーラが俺の目の前に立ち、彼女の一声で瞬時に静止した。
それだけで風が巻き起こるほど、有り得ない速さだった。
ルーラの元の姿の倍はあろうかというほど巨大なサイズだ。
「血迷ったか貴様ッ!人間を連れてくるとはいったいどういう事だ!?」
巨躯から発せられる怒鳴り声もまた大きく、耳を劈くような勢いだ。
それでもルーラは全く臆することなく人の姿のまま堂々と立っている。
その後ろ姿がとても逞しく見えた。
「彼の名前はアキ。アキは別世界から迷い込んだ人間で、死にかけの私を助けてくれたの。命の恩人を連れて来て何が悪い?」
むしろ強気の物言いに、巨大なシルバーヴォルフは黙って俺の方へ視線を向ける。
よく見ると、後ろ脚から血が垂れている。
ルーラが言っていた意味が分かった。
俺はゆっくりと彼の元へと歩み出した。
「ちょっ、ちょっと待ってアキ!まだ説得し切れてない!」
「大丈夫だルーラ。あとは俺に任せてくれないか」
彼と目を合わせ続けながら、俺は一歩一歩と前へ進んでいく。
人の胴体とほぼ同じくらいのサイズの脚、これに踏まれればおそらく即死だろう。
前脚を通り過ぎ、怪我をしている後ろ脚へと辿り着く。
そこに手を当てて、先ほど感じたものを思い出すように力を込めた。
すると再び手のひらが光り輝いた。
見る見るうちに傷口が閉じていくのが見え、あっという間に治った。
様子を窺っていたルーラとテルマに向かって、親指を立てて成功の合図をした。
「……これで少しはアキを信用してもらえた?」
俺の顔を変わらず見つめ続ける巨体のシルバーヴォルフ。
「…………」
だが彼は何も言葉を口にすることなく何処かへ去っていった。
これは半分認めてもらえたという認識でいいのだろうか。
「アキ、大丈夫だった?」
「くぅん……」
ルーラとテルマが心配そうに駆け寄って来てくれた。
「………っはぁぁぁ、死ぬかと思った……!内心めちゃくちゃ怖かったよ」
恐怖で心臓はバクバクだったのだろうが、その鼓動音すら聞こえないくらい恐怖心で埋め尽くされていた。
「だから言ったでしょ!もう少し私に説得させてくれたら良かったのに……」
テルマに抱きついてバックバクの心臓を落ち着かせる。
このモフモフの癒し効果は地球では決して味わうことのできない極上物だ。
「とりあえずはここでアキが殺される心配はなくなったね。と言っても暫くは私かテルマが付いてるし安心していいよ」
この状況を見ていた周囲のシルバーヴォルフたちは、俺が脅威ではないと見て取れてくれたようだ。
他にも多くの個体がどこかしらに怪我を負っている。
俺の謎の力が人助けになるのなら、率先して治して回ろう。
山奥に転移したのでモフモフしながら治癒して過ごします はるのはるか @nchnngh
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