2024年、冬
石川獣
第1話 もうすぐ冬休みが来るみたいです。
2024年もひと月を切り、家の中を掃除しています。
一昨日は窓まわりを綺麗にしました。
猫を飼っている方は分かると思いますが、猫が鼻をくっ付けた跡が点々と全ての窓に付いていて、拭けども拭けどもすぐに付けられるんですよね。なのでガラスは定期的に拭いてはいるんですが、隅々まではやっていなくて、サッシの溝には猫の毛、ミツバチの死骸、カビ。
それら全てを綺麗にして、結露取りシートを窓の下の方にびーっと貼って完了。
掃除をしたら友人へ報告をします。お互いのやる気を高めるために。
頑張ろう! ちょこちょこと大掃除!
さーて今日は冷蔵庫を拭きあげるぜ! と気合を入れていたらママ友からLINE。
『娘を車で送って帰ってきたら、息子にドアチェーンを掛けられて締め出された』
おう……。
『うちにきなよ』
娘と同学年の息子さんは学校に行けておらず、中休みだけ遊びに行きます。
例え玄関口でも学校に行けば登校とみなされるそうで、一時期は全く行けていなかったから、学校や役所の相談所の人なんかは「良かったです」と言うけど、親はそんな風には思えない。だってもう半年、もう年末だ。
「ごめんなさい朝早くに」
「いいよいいよーあったかいものでも飲みなよー」
私は人の子どもに心を砕くことはない。だってどうすることもできないから。心配なのは目の前にいるママ友だけだ。
まあ『ママ友』なんかにできるのは、お菓子を並べて話を聞いて、マグカップに温かい飲み物を絶やさないくらいなんだけど。
「育て方を間違ったのかな。小さい頃から色々とやらせすぎたのかも」
でもそれは幼稚園から行き渋りのあったその子が楽しいと思える場所がないかと一生懸命探していたからだよね。
「今出来てることを褒めてって言われた」
今出来ていること? 元居た場所がずっと遠くに感じられるのに?
勉強はせずゲームや動画ばかり。決めた時間も守ってくれず、ルールを守らせようとすれば腹いせに親を締め出す。
辛いことから逃げ出せたのは偉かったけど、子どもは自己分析ができない。
学校という場所が辛かったのか、先生やクラスメイトとウマが合わなかったのか、勉強についていけないのか、全てなのか。
聞いても明確な答えが返ってこないことも多い。むしろキレる。
あれこれと手を尽くしたのが返ってよくなかったのかも、なんて考えが過るともう身動きが取れなくなる。
「少し放っておくのがいいのかなー」
そうだねそれがいい、なんてのも言えるはずがない。
私の友達にもう一人、家から出られない子がいる。四年になるかな。
いとこの娘さんも不登校だ。友人の姉の娘、姉の職場の同僚の娘、陶芸教室で一緒のおばさんの娘、息子、友達のいとこの子。
きっと全員きっかけは違う。一歩も外に出られない子もいるし、会ったことのない彼氏が大阪にいる子もいる。
性格も親のアプローチも違うだろう。
うちの子は学校に行けててよかった。とは思わない。
娘だって時々、「学校に行きたくない」と言うことがある。理由を尋ねると、
「みんなうるさいんだもん」
ちゃんとしてないことが気になる娘は、授業中にうるさくされるとストレスになる。先生の言うことを聞かない人を見ると堪らない。
「もう少しだよ、中学生になったらみんな静かに出来るようになるよ」
「本当?」
「本当だよ」
いつかこの子の我慢の器が溢れて、学校が嫌で嫌でしょうがなくなるかもしれない。
私は慌てるだろうか、自分が何か間違っていたかと思うだろうか。
いや、たらればなんて考えてもしょうがないしな。
そもそも娘と私は相性がいいとは言えない。自分に似ていないから考えがあまり理解できない。クラスに居ても多分友達にはならないだろうなという感じ。でも自分に似ているとそれはそれで腹が立つものらしい。できないことも、やりたくない理由も理解できるから歯がゆいそうだ。
あれこれ思い巡らせて、最終的には生きてくれているならいいかと思うだろうな。だって究極はそうだ。
突然死んだりしないで嫌な場所から逃げ出せて偉かったね、なんて収めつつ、途方に暮れるんだろうな。
年末が来る。年始も来る。
水落としを忘れていた姉が大慌てで外の水道管にお湯をぶっかける(間に合った)。
私の2024年の師走は、途方に暮れるママ友が選んだごぼう茶にお湯を注いでいる。
2024年、冬 石川獣 @IshiKemo
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