第13話 クラッシュクッキー2

 まずはリリアを取り戻す。熊の方の能力は分かった。馬鹿みたいに自分の能力をひけらかしたのは勝ちを確信しているからだ。ってことはただ半分にするだけって訳じゃないんだろうな。




「ディズ君! カエルの人の能力は恐らく唾液を接着剤みたいに固定させる力です!」

「あ、コラ! 余計な事をいうな!」

「いやあああああ! 目が回るですぅぅぅ」



 そういうとカエルはリリアの足を振り回した。チャンスだ。俺はデコピンを構え、カエルの足元にヴァンダリムを狙い撃つ。距離は6mほど。威力はそれなりのはずだ。いきなり足元が破裂し、その攻撃を受けたカエルは悲鳴を上げる。



「ぎゃああ!!」

「なに!? 馬鹿な!!」




 その瞬間俺は走り出した。小さくなったがそれでも身体は羽のように動く。驚愕している連中に近づく足がおかしな方向へ曲がったカエルに接近しリリアを掴んでいた腕を掴む。思いっきり握るとまた悲鳴を上げリリアを離した。



「離脱するぞ」

「が、合点です」



 俺はそのままホテルの入り口の方へ走り抜けようとするが、入り口の向こうに人影がいる。それも十数体以上だ。




「逃がすんじゃねぇ! カエサル!!!!」



 それはネズミだった。そうだ、さっきまでカエルと一緒にいたネズミ。それが軍隊のように並びこちらに銃を構えて待っている。





「”我が兄弟たちチューチューブラザー”!!」




 銃を構えたネズミ達が発砲する。俺はリリアを身体に隠しすぐに反転し壁に身を隠した。何発か身体に当たる。間違いなく本物だ。幻覚でもなんでもない。あれがあのネズミの能力か!? ここに留まるのは危険だ。そのまま俺は身体を低くしジグザクに動きながら端にある非常階段へ向かって走りそのまま上の階層へ逃げ出した。











 

 俺のもう1つの身体がリリアを抱えて逃げた事に安堵する。すると目の前にいたエイブとかいう熊野郎が俺を思いっきり殴った。



「なんだ!? えぇ!! どうなってやがる!! なんでてめぇが幻想術ファンタズマを使えるんだ!? お前の中のタナトス因子も半分になってんだぞ。因子が一定数ないと使えないはずの幻想術ファンタズマも封じたはずだ! この世界に来て1年、2年のレベルじゃねぇありえねぇ!」


 そういって俺の腹を思いっきり蹴る。痛みはないがこうもサンドバックになると腹が立つ。そう思っていると背中に衝撃が走り俺は膝を付いた。背中に重さを感じる。これは……エイブが俺の背中を押しつぶしているのか?



「レオナルド! こいつの身体も能力で固定しろ!」

「い、いてぇ。俺の足が……エイブさん。俺の足がぁあ」

「カエサル! レオナルドの足を治療しろ。治療用の異質欠片アノマリーフラグメントも持ってきているだろうが」

「あ、ああ。わかったよ」



 身体を起こそうとするがうまく身体が起こせない。くそ、身体が小さくなってるせいか力も弱くなってやがる。




「どうした。ほら身体を起こせないのか? まあそうだよなぁ。俺の能力でお前の力は文字通り半分になっている。幻想術ファンタズマの力も、身体能力も全部、全部、全部だ!!」



 さらに力が強くなる。くそ野郎が。絶対殴ってやるからな。



「くそ、くそ、くそ。よくも、お、俺の足をおりやがったな! 痛かったんだぞ!」


 いつのまにか近くにカエルの足が見える。そして俺を蹴り始めた。熊野郎のエイブより随分力が弱い。



「なにしてるレオナルド。さっさと固定しろ」

「あ、ああ。わかったよ。”奇妙な涎スリップフィックス”」



 身体に透明な液体がまとわりついてくる。そしてそれが接着剤のように固まった。腕だけじゃない。指まで動かせない。



「ど、どうするんだ。エイブ。奴ら逃げちまうんじゃないかな」

「そりゃねぇよ。何のために最初半身を奪ったと思ってんだ。俺のビスケットが割れたクラッシュクッキーで別れた身体は両方本体だ。俺が近くにいる限り能力の影響下にある。つまり逃げようがここに奴の身体が俺の手元にある事に変わりはねぇ。取り戻しに来るだろうさ」

「で、でもよぉ。エイブの読みと違ってこいつまだ幻想術ファンタズマが使えるんだぞ?」

「そこだ。どうなってんだ? おいコラ」




 そういって俺の顔を蹴った。対して効いていない事が分かったのは次に俺の腰にある袋をあさり始める。



「てめぇ、何しやがる!」

「荷物は水だけねぇ。……お前マジで何もんだ? 新人覚醒者じゃねぇよな。そもそも行き成り幻想術ファンタズマが使える時点で新人じゃねぇ。なら他国の人間か? でも今の状況下で他所モンがこっちに来れるわけもねぇ。なら最初からこの国にいたってのか? あり得ねぇ。お前みたいな奴は目立つ、だってのに噂すら聞かねぇ。そんな怪しい野郎が態々こんな初心者階層になんでいる?」


 そんなもん。俺が知るかよ。むしろ教えて欲しいくらいだ。



「知るか。昨日この世界に来たばっかりだ」

「嘘つくなって言ってんだろ」


 もう一度俺の頭を蹴ってくる。くそ痛みはないがストレスがすげぇ溜まる。



「まったく随分頑丈だな。まあいい、お前さ夜魔湖うちに入れ」

「は? 正気かよ。こんな目に遭わせた奴とつるむつもりはねぇよ」

「まあ聞け。死にたくねぇだろ?」

「この程度で死なねぇ」



 そういうとエイブはどこか楽しそうに笑う。




「違う違う。そうじゃねぇ。お前、この国の現状はどこまで知ってる?」

「……第1階層のヤバい奴が攻めてきてるって話なら聞いた」

「ああ。違う。そうじゃない」




 そうじゃない? どういう事だ。キーウの話は嘘だってのか?



「あの影兵の事言ってるんだろ? 違うそっちじゃない」

「影兵?」

「そこまではしらねぇのか。まぁ簡単に言えば影のバケモンだ。この12月ノ国は11階層までぜーんぶ影の化け物で埋め尽くされてんだ。近くのナイトメアを殺し、フラグメントを奪い、影の兵士へと変えていく。そうやって無限に増殖してくんだ」




 ナイトメアを殺して増やしていくだって? そういやキーウが言っていた。殺すとかそういうレベルじゃないって。




「倒す方法とかねぇのかよ」

「ないな。見た事ねぇが多分本体は第1階層にいるんだ。そんな奥までいけねぇって。お前、クロールで海を渡って別の国に行けるか? 無理だろ。そういうレベルなんだ。だから倒せない」



 海をクロールで渡る? おい、ちょっと待て。そういう物量の敵がいるってのか!? そんなのどうやって……そうだ。確か夜魔湖はそんな敵を倒そうとしてるギルドじゃなかったのか。




「お前らって確か逃げるんじゃなくて倒すのが目的じゃなかったのかよ」

「なんだ。知ってんのか。表向きはそうなってるぜ。だが無理なもんは無理だ。だから予定通り3月のスタンピードに合わせて俺達は移動する。1つ違うのは逃げんじゃねぇって所だ」

「なに?」

「逃げるんじゃねぇ。俺達は他国へ





 侵略……侵略だと!? 待て、どういう意味だ!




「知ってるか。Tチャンネルってサイトがある。覚醒者の有志が作ったSNSだ。現実戻ったら調べてみな。覚醒者なら入れるだろうさ。そこで俺達12月ノ国がなんて言われてるか知ってるか?」




 エイブは笑みを浮かべた。だがそれは普通の笑みではない。たまに見るキレてる奴の笑みだ。




「第11階層のナイトメアも倒せず逃げようとしている最弱の国。この国の状況も知らず、好き勝手言ってる連中がたくさんいる。だから分からせてやるのさ。そんな国に乗り込んでな。想像してみろよ、雑魚だの何だのと好き勝手言ってた連中が、その俺らにボコされるサマをよ。ははは!」



 こいつ何いってやがるんだ。意味がわかんねぇぞ。




「わかるぜ。お前はこっち側だ。一緒に暴れねぇか。きっと楽しいぜ。どのみちこの国は終わりだ。なら別の国で好き勝手やった方がいい。俺らを馬鹿にしてる連中をよぉ。ボコボコにしてやるんだ」

「ふざけんな。そんなダサい事誰が……」

「お前もすぐわかる。この国に未来はない。それを説明しても誰も信じちゃいねぇ。助けにもこねぇ。見捨てられてんだ。対岸の火事だと思ってよぉ」



 そういうとエイブは俺の腕を掴んで持ち上げる。身体が小さくなって体重も軽くなったせいか簡単に持ち上げられてしまう。




「こんな訳の分からねぇ世界で、面白れぇ力まで持ってんだ。楽しもうぜ」



 エイブがそういった瞬間、轟音と共に壁が破壊される。土煙の向こう側、そこに別たれた俺の姿があった。

 


 

 




 

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タナトスナイトメア~悪夢の世界で生き残ります~ カール @calcal17

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