第12話 クラッシュクッキー1

 俺は深夜0時に就寝することにした。リリアと合流予定だがよく考えたら集合時間を決めていない事に気づいたのだ。仕方なく前回と同じくらいの時間に寝ればいいかと考えたわけだ。



 目が覚めるとホテルの一室だった。頭は冴えている。前回あれだけ睡魔に襲われていたのが不思議なくらいだ。リリアの仮説通り能力の使い過ぎがこの世界の滞在時間を削る事に繋がるなら少し使い方は気を付けた方がいいだろう。



「リリアは……いねぇか」



 あの後どうなったかは俺もわからない。とはいえ争った形跡もなさそうだし多分大丈夫だと思うんだが少々不安だ。俺は部屋の中を歩きながら姿見を見つけて自分の姿を見る。

 そこには包帯を巻いた鎧を着た巨漢の男がいる。どうやら前回装備した包帯は継続して残っているようで少し安堵した。それから30分ほど待ったがリリアがやってくる気配はない。




「仕方ねぇ。少し散歩するか」



 部屋を出てホテルの廊下を歩く。廊下の窓からホテルの外が見えるが相変わらず夜みたいな空なのに妙に明るい。そして空に煌々と光る月が見えている。

 今後リリアと行動を共にするなら俺の事情をリリアに説明した方がいいなと俺は考えていた。はっきり言って俺は頭が良くない。考える事が苦手だ、どうしても短絡的に考えちまう。だけどリリアは随分頭が回る。俺の持つあの夢……というか記憶も何か手掛かりになるかもしれない。


 そう考えながら1階へたどり着きホテルのロビーへ降りる階段に足を踏み出した時だった。






「あん?」




 足が動かない。まるで足が固まったかのように動かないのだ。





「どうなってやがる」




 自分の足元をよく見る。するとさっきは気づかなかったが透明な液体のようなものが階段に付着していた。恐らくそれを踏んだらしい。ピクリとも足が動かない。まるで接着剤で固定されたかのようにだ。



「くそ、多少強引に行くか」



 そう愚痴って思いっきり足を動かそうとしたときだ。後ろから足音が聞こえる。まさか他に人がいる? この辺にいるナイトメアはスライムだけ。なら間違いなく人だ。両足が固定されているため、うまく身体が動かせないから出来るだけ身体を捻って後ろを振り向いた。




「よお」



 そこに熊がいた。いや正確にいうと熊のような身体を持った人というべきか。身体は茶色の体毛に覆われつつ顔は普通の人に近い。とはいえ口元は少し突き出たようになり、耳も頭部に生えている。身長は俺と同じくらいで結構デカい。


 そんな熊が肉球と鋭い爪をを生やした手を大きく広げ、まるで蚊でも叩くかのように勢いよく両手を俺の身体へ向かってくる。咄嗟に両手を上げその攻撃を受けるが何か割れるような音が俺の身体から響いた。



「貰ったぜ。”ビスケットが割れたクラッシュクッキー”」



 その時だ。




 





「「なにぃぃ!!?」」




 俺はそう叫んだ。痛みはない。だが俺の身体が割れる音がした。いやよく見ろ! 俺の身体が……。





 階段を転げるようにおり、床に手を付きすぐに身体を起こす。だがいつもより視線が低い。身体が割れたから上半身しかないのかと思いすぐ身体を見るがちゃんと全身身体はある。だが何か変だ。強い違和感がある。



「ディズ君!! 身体が縮んでいます!!!」

「「リリアか!?」」

 



 まただ。声が2重に聞こえる。いや……そういう事か!!



 ようやく視線を前に向けこの異常事態の全貌に気が付いた。






 階段の一番上。そこに俺がいる。





 正確に言えば、小さく子供のような姿をした俺がいる。向こうも同じように俺をみて驚愕した様子だ。だが足が固定されているためうまく身体が動けないらしい。




「じゃあ改めて、こんにちは骸骨男。いや今は包帯男っていうべきか? 俺はエイブ。夜魔湖のメンバーって言えばわかるかい?」



 そういうと廊下の向こう。そこにまた2人の姿が現れる。よく見ると見覚えのある二人組だった。あれは昨日みたカエルにネズミだ。



「よ、よお。昨日はよくもやってくれたなぁ」

「そうだ。そうだ。いきなりキルしやがって! びびったぞ!」



 そしてカエルの手の中に足を掴まれ逆さに吊るされたリリアがいる。捕まったのか? いつだ!? それにネズミの方が持っているのは……まさか銃!?



「ごめん。ディズ君。実はちょっと早く来てホテルを散策してたら捕まっちゃって……」



 俺より早く来ていたのか。だがホテルから出ていない。ならどうして?




「はっはっは! お前らは夜魔湖俺らをなめ過ぎ、あと無防備過ぎなんだよ。あれだけばかすか暴れながら移動して分かりやすいホテルへ逃げ込んだ。見てた奴がごまんといる。あとはそのままホテルで待ち伏せしてればいい」



 熊の覚醒者がそう笑いながら俺たちを見下ろしている。



「さて。もうお前たちは詰んじまってる。とはいえお前には聞きたいことがたくさんあるからな。サカモトの野郎からも情報を吐かせろって言われてんだ。お前はどこの国のやつだ?」


 そういって足が固定され身動きが取れない俺を殴った。足が固定されているため上手く身体が動かせずそのまま膝を崩す。

 


 くそ野郎が。黙ってみてるわけねぇだろう。俺は拳に力を入れ能力を使用しようとする。



「さ、させないんだな!」



 身体に衝撃は走り横に吹き飛ばされる。発砲音、まさか撃たれた? だが痛みはない。だが衝撃は身体に残っている。想像以上に俺の身体は硬いようで助かった。



「え? 嘘だろ。なんで動けるんだ? これ一応レアリティの高い異質欠片アノマリーフラグメントだぞ!?」

「外したんじゃないのか? カイウス」

「そんなわけあるかよ、レオナルド」




 大丈夫。身体は動く。考えろ、どうする!? まずはリリアを助ける事を考えろ。俺は丈夫な方だがこの世界だと更に頑丈みたいだ。そもそもなんで俺の身体が2つに別れている? 普通じゃない。まるで魔法みたいな……ああ、そうか! くそったれ。




「これがてめぇの幻想術ファンタズマか、熊野郎」

「ようやく気付いたのか? そうだ! これがこのエイブ様の能力”ビスケットが割れたクラッシュクッキー”。叩いた奴を2つに割る能力だ。ビスケットみたいにな」



 

 

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