第11話 起床

 ピピピ! ピピピ!



 電子音で目が覚める。スマホに手を伸ばし時計を見るが時間が朝の7時。頭が少しぼうっとする。だがあの記憶は、タナトスの記憶は確かに残っている。




「寝たのが12時頃。今が7時。どうなってんだ? 途中で急な眠気が来て予定より随分早く起きたはずだ。だってのに7時か」



 2度寝してもう一度タナトスへ潜るかと考えてたがこの時間だと流石にリリアも起きる時間だろうし意味はねぇか。




「無事だといいんだが……」




 ベッドから身体を起こし着替えリビングへ移動すると母さんが朝食の準備をしていた。




「あら早いじゃない。明けましておめでとう。そういえば初詣行くんだっけ?」

「あ、ああ。明けましておめでとう。とりあえず飯食ったら行ってくるよ」

「気を付けてね。あと喧嘩も程々にしなさいよ。また山内さんにご迷惑をかけないでよね」

「うげ。気を付けるっての」




 山内というのはよく世話になる警察官の名前だ。俺の父さんの知り合いなのだが、俺がよく喧嘩に巻き込まれるためかよく補導される。大体は向こうから吹っ掛けてくる喧嘩だからそこまで大事にはなっていないがあまり関わり合いになりたくはないのが本音だ。



 トーストを急いで食べ、コートを着て俺は外に出た。数少ない友人である花海連との待ち合わせは11時頃。今は8時だから3時間くらい時間がある。俺は確かめたいことがあり歩き出した。



「確か……この辺だったはず」



 マンションを出ていくつか道を曲がる。俺が目指しているのは最初にリリアと会った場所だ。あの時俺は壁を破壊していた。一応確認しておきたいと思った。思い出しながら歩きだしていると思ったよりタナトス内と道が違う事に気づく。



「ここを直線で進めたはずだが、道がない。どうなってんだ?」



 この辺りもリリアなら何か気づいているかもしれない。今晩聞いてみよう。とりあえず時間はある。もう少し探してみた。しばらく彷徨っていると公園まで辿り着いていた。結局あの場所には行けなかった。もしかしたら現実にはない場所なのかもしれない。

 だが公園はあの時と同じだ。今も多くの家族連れがいて賑わっており楽し気な子供の声が響いている。俺が出来るだけ家族連れに近づかないように注意しながら公園の中に足を踏み入れた。


 



 一緒だ。



 俺が公園を見て回って感じた印象だった。こうして歩いて回って確信したのはタナトス内は完全に現実の世界と一緒ではないと言う事。微妙に道路が違ったり建物が違ったりしている。だというのに公園は一緒だった。広さも、景色も、つい先ほど見てた光景を似ている。



 タナトスが広がったのであれば俺のようにあの世界に巻き込まれた人は一体どの程度いるのだろう。恐らく国ごとに新しく巻き込まれた人がいるはずだ。警察とかも把握しているんだろうか。山内さんに聞いてみるか? いや止めておこう。薬でもやってるんじゃないかと言われるのが落ちだ。




「考えても仕方ねぇ。また夜に聞くか」




 俺はそう零して公園をあとにした。そこからバスで最寄り駅まで移動し今回の目的地である神社前へ移動した。




「蓮の奴はいねぇか」



 待ち合わせ10分前。そろそろ来ていそうなもんだが。なんだ、言い争う声が聞こえる。その方向へ視線を向けると見おぼえるのある優男と大学生くらいのカップルが何か揉めているようだ。




「おいクソガキ! てめぇ人の女に何声かけてんだよ!!」

「待て待て。ただ声を掛けただけだろう? なんでそんなに怒ってるんだよ」

「声を掛けただけだぁ? ふざけんな。どうみてもナンパだろうがよ」

「うるさいなぁ。悪かったって。だって仕方ないだろ? そっちの美人さん1人だったんだしさ」



 長身長の優男がそういって肩を竦める。



「それにそんなに嫌がっている様子もなかったよ。ねぇお姉さん」

「え……いやそれは……」

「おい。そうなのかよ、結子!?」

「ち、違うわ。もうほら行きましょうよ!」

「僕も知り合いが来たし遊びも終わりかな。じゃあね」




 言い争うカップルを無視しその優男は俺の方へ向かって歩き始める。そして俺の顔を見て手を上げた。




「やあ、崇」

「蓮。お前は大人しくできねぇのか」

「いやだな。暇だったから女の事お話してたんじゃないか」

「はぁ」



 こいつの名は花海蓮。俺と同じ海仙高校1年であり、数少ない友人だ。顔面偏差値はかなり高くモデル顔負けの顔でその成果トラブルに絶えない。元々の出会いはこの蓮が手を出した女に男がいて、その男が仲間を連れて、蓮をボコボコにしている時たまたま俺が通りがかった。元々怖い顔つきをして、身体も大きく、よくケンカを売られる俺は周りから避けられる存在だったんだが、そんな中で蓮は俺を怖がらずズケズケと話すため気が付けば友人となっていた。



「ああそうだ。明けましておめでとう、崇」

「……あけおめ。それで初詣に行くのか?」

「ああ。その後隣のクラスの真由美ちゃんたちとカラオケの約束なんだ。崇も行くかい?」

「本気で言ってんのかよ」



 俺がそういうと蓮は薄く笑った。




「そうだね。じゃ早く神社に行こう」

「っていうか、女子と約束あるなら初詣からそいつらと一緒に行けばよかったんじゃねぇの?」

「それはそれ。これはこれ。ほら行こうぜ」




 行列を並び、周囲を見ると袴を着た巫女さんが忙しそうに働いている。




「なに、崇って巫女趣味な訳?」

「ちげぇよ。ただコスプレ以外でああいう格好を見るなんて早々ないだろ」

「まあそうかもね。どうするおみくじでも引く?」

「いらね。さっさとお参りしようぜ」



 

 しばらく待ち一番前へやってきたため、5円を取り出し賽銭箱へ投げる。鈴を鳴らし2礼2拍手1礼をしてその場を後にした。


「何かお願いごとしたの?」

「特になにも」

「つまんないね。僕はこの後遊ぶ真由美ちゃんと良いことが出来るようにって――」

「聞いてねぇ。じゃ俺はもう帰る」

「ってマジで帰るの? 一緒に行こうよ」



 そう言われて俺は頭を掻いた。



「人見知りなんだ。知らん女子と一緒にカラオケなんて無理だ」

「なら僕と2人で行く? 案外ナンパ狙えるって思うんだよね」

「勘弁してくれ。逆に変な連中に絡まれそうだよ。俺は適当に飯食って家でゲームでもしてるさ」

「つまんないな」



 そういって俺は蓮と別れた。誘ってくれたのはうれしかったが正直今は何か遊んで楽しむという気分でもない。ずっと頭の中にあの夢の世界の事が残り続けている。


 


 

「……とりあえず夜まで時間を潰すか」

 

 

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