第10話 副作用
「おらよ!」
遠くに見かけたスライムに向かって俺は人差し指を構え放った。親指に抑えられた人差し指が解放されバネのように動く人差し指。それに連動するようにスライムがはじけ飛んでいった。
「やっぱりこの方法でも発動できますね。被害を少なくピンポイントに狙うならこの方法が一番良さそうです」
「そうだな。毎回毎回色んなところを壊してるといつか誰かを巻き込みそうだぜ」
「それに思った以上に使い勝手も良さそうですしいいですね! 私も早く自分の力に目覚めてほしいです!」
そういってリリアは落ちているフラグメントを自分の身体に押し付けていく。この辺にいるナイトメアはかなり弱い。まぁ蹴れば倒せるようなスライムしかいないわけだし当たり前か。それよりも違う事が気になる。
「あ、見て下さい! ディズ君あそこです!」
妙に頭がぼうっとする。それに瞼が重い気がする。いや瞼ないんだけど。
「ディズ君?」
「あ、わりぃ。なんだ?」
「あそこです。見えますか」
リリアの指を指す方向を見る。俺達が歩いているのは大通りの道だ。その向こう側、大体200mくらいだろうか。スライムが跳ねている。
「あれを狙ってみましょう。これで大体射程が分かると思うです」
「了解!」
右腕を前に出し左手を添える。まるで銃を構えるようにデコピンの形を作る。狙いを定め指を放そうとした瞬間リリアからストップが入った。
「ディズ君。様式美というのは大切ですよ」
「え? どういう意味だ?」
「もう分かってるくせに! いいんですよ。私の前では隠さなくても」
「いや、マジで何!?」
「名前ですよ、名前。やっぱり技を使う時は名前を言いましょう!」
目をキラキラさせながらリリアがそう言ってくる。様式美ってそういう事かよ。
「ね?」
「――くそ。”ヴァンダリム”!!」
やけくそになって叫びデコピンを放った。遥か200m先のスライムはその周囲数十mの道路、ガードレール、建物が吹き飛んでいく。まるで爆弾で破裂したかのような破壊。凄まじい威力だ。
「おお! やっぱりです! 距離が離れると威力が跳ね上がります!」
嬉しそうなリリアの声がどこか遠く聞こえる。まずい視界がおぼつく。頭が働かない。これはまさか――。
「ディズ君!? どうしました!?」
「まずい……リリア……急に眠気が襲ってきた……」
「ね、眠気ですか!? 変です。まだ起床予定時間まで5時間近くあるはずなのに……もしかして
「そ、それはどういう……」
「もっと考えるべきだした。この魔法のような力を何の対価もなく使えるはずがないのです。恐らく使えば使う程この世界の滞在時間が減っていくのかもしれません」
滞在時間が短くなる。つまりこのまま眠気に身を委ねると俺は現実世界へ帰るって事になるのか。
いや待て!!
俺は身近な壁に向かって思いっきり頭を叩きつけた。だが身体が頑丈なせいか痛みも衝撃もなく、ただ壁が破壊されていく。だが眠気はちっとも引いていかない。
「ディズ君!?」
「今寝るのはまずい。リリアを一人にしちまう」
「あ……でもこれは私のせいです。変にはしゃいでしまいこういった可能性をまったく考えていませんでした」
「リリアだけのせいじゃない。とにかくこの眠気をなんとかしないと――」
必死に顔を叩くがまったく痛みがない。くそ仕方ない。俺は思いっきり拳を握りそのまま自分の顔面に叩きつける。多少の痛みが俺の顔に広がっていく。
「や、やめてください! 凄い音がしましたよ!」
「いや、少しだけ眠気が覚めた気がする。だがほんの少しだけだが……すまん、リリア頭がまったく働かない。何かいい案はあるか?」
「そ、そうですね……えっと、えっと――よし、ならあそこです。あそこまで行きましょう!」
リリアが指を指す場所を見る。あれはビジネスホテルか?
「方針変更です。今日はさっさと寝床を見つけましょう。あのホテルなら最悪何があっても私の大きさなら隠れる場所がたくさんあります。だからディズ君もあのホテルの中に入ったら寝てしまってください! また明日合流しましょう!」
「いや、待て。大体分かったが合流なんてどうするんだよ」
「ホテルのロビーで待ち合わせればいいんです。ほら行きますよ!」
凄まじい眠気と戦いながら必死に走る。周囲に同じ覚醒者の姿はない。それを確認しながらホテルの入り口まで到着した。
「自動ドアは開かないな」
「ですね。仕方ありません。ディズ君お願いできます?」
「任せろ」
そういって自動ドアを蹴って破壊する。一気にヒビが入りガラスが破れて崩れていった。周囲を警戒しつつ俺達はホテルの中へ侵入。受付に鍵があるか探してみたがどこにもなかった。当然エレベーターも動いていないためそのまま階段を登っていく。
「ドアはどうする?」
「辛い所申し訳ないのですが、壊して貰っていいですか?」
「了解」
俺は限界に近い眠気に耐えながら思いっきり扉を引いて鍵を無理やり壊す。思ったより綺麗に壊れた。これなら扉を閉じていてもぱっと見じゃわからねぇはずだ。
「すまん、リリア。俺は――」
「はい。また明日会いましょう。ディズ君」
「上手く隠れてくれよ」
俺はそう最後に呟いて意識を手放した。
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