第3話 波紋

拓海が引っ越してからも、2人は電話や手紙で連絡を取り合っていた。

初めは電話がメインだったが、どうしてもそれまでの調子で話して、長電話になってしまう。しかも拓海の引っ越し先は県外だ。2000年当時の家庭電話の料金は、市外や県外では高くなる。かけ放題プランもその頃はとても限定的で、2人は親に相手指定のかけ放題プランなど解決策を提案したが、

「電話よりまずは勉強するように。」

と一蹴されてしまった。かけ放題を契約するなら、中学生の子の為ではなく、大人の仕事や近所付き合いの為にしたいだろう。

携帯電話もスマートフォンも無い時代だ。それでなくても家庭に1台しかない電話を子どもにほぼ独占されて困っていたのだ。

電話料金の高さからしても、電話使用の比重からしても、双方の親は2人の仲に良い顔をしなくなっていく。

そんな親の気持ちを感じ、電話を控えて手紙のやりとりをメインに変えた。


中学3年生になっても、恵里菜は拓海との手紙のやりとりを頻繁に続けていた。タイムラグは辛いが、1通80円で便箋何枚分もの話が出来る。

中間試験や期末試験を頑張るお楽しみとして、開封せずとっておくのも醍醐味だと気付いた。

だが、そうやって生活とのバランスをとって連絡していても、最近は拓海とのやりとりに対して親の目線が厳しいと思う。

大人が好き勝手言うのはもう分かっているが、近所の気のいいおじさんから

「男の子と女の子がそんなに仲良くして。変な目で見られるぞ。」

と言われたのは腹が立つ。田舎によく居る、気さくではあるけどデリカシーの無いタイプの人なのは分かっているが、心外だ。

そんな偏見だらけの汚れた目で見ないでほしい。


親や周りの大人の目をかいくぐろうと、学校の10分休憩を使って手紙を書くことにした。

ある日、手紙を書いていると自分の机の前に2人分の人影ができた。数ヶ月前に転校してきた沙織と、元からこの学校にいる美奈だ。転校してきてから、ずっと一緒にいるのを見る。

(沙織と美奈も、"波長が合う”のかな。)

と思いながら見上げていると、沙織がニヤニヤしながら

「何、書いてるの。」

と訊いてきた。

「男子あてにしょっちゅう手紙書いて、気持ち悪い。」

恵里菜からすれば、何を書いているか知っているくせに、わざわざ嘲笑って訊いてくるほうが気持ち悪い。先日のおじさんのことといい、腹が立ってつい反論してしまった。

「手紙くらい、誰だって書くでしょ。」

沙織は真っ赤になって叫んだ

「だから、男女の友情なんてありえないって言ってるの!子どもみたいなこと言わないで!」

美奈はうんうんと頷いている。

ショックだった。

この2年間、大人だけが自分達に上から目線で決めつけてくるものだと思っていた。

自分と拓海をずっと見てきた同級生もこう思っていたのか。

拓海に会えるようになる為にも、早く成長したかったのに。もしかして、自分達がいつまでも友達でいること自体、幼稚なのだろうか。

書いていた手紙は、結局、出せなかった。その後自分からの手紙を待たず、拓海からの手紙が3通来た。だがその返事もどう書いていいか分からない。電話をするのもためらった。

あの時沙織に

「恋愛じゃなくて友達なんだから良いじゃん!」

と言えなかった自分の、拓海への気持ちが何なのか、戸惑いも生まれていたからだ。

近所のおじさんにも沙織にも、痛いところを突かれていたから腹を立てたのかもしれない。

そうしているうちに恵里菜の家の電話番号が変わり、拓海からの連絡は一切来なくなった。



〈続〉


#第32回電撃大賞

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あの夏の向こうへ 茶山茶々子 @chayama-chachako

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