第2話 別れの日

2人にはいつも会っていた砂浜がある。幼い頃は親も一緒に来ていたが、絶対に海に入らないことを条件に、10歳頃から子どもだけで行くことを許された。

それまでも海に入って遊ぶことは無く、信用されていたからだ。

活発な恵里菜も、海水がしみることを怖がり海では泳ごうとしなかったし、慎重な拓海は子どもの水難事故のニュースを観てから、近所の海にもレジャーで行った川にも近付かなかった。

それに2人の心を捉えていたのは砂浜だ。

サラサラとした砂が肌に心地よく、広がる青い空と海、夕焼けや時には星空も視界いっぱいに見られるこの贅沢な場所が好きなのだ。

海に入らなくても、ここで話しているだけでレジャーだと2人とも思っていた。


もちろん、別れの挨拶の場所にもこの砂浜を選んだ。明日の朝早く、拓海一家はこの町を出る。

恵里菜は学校があり、明日はもう見送れない。

砂浜に下ろされた2つのスクールバッグがオレンジに染まっていく中、いつものように他愛ない話で爆笑するが、もう帰らなくてはならない。

今日は拓海から切り出した。

「ここでまた会おうね。」

電話もあるし、手紙も送ることが出来る。連絡を取り続けて大人になったら、ここに会いにくれば良い。

恵里菜と違って拓海が泣くことも沈むことも無かったのは、また会える確信があったからだった。

「会えると思う?」

「電話して、手紙出して、バイトしたら。」

恵里菜の涙腺が緩み始めたのを察し、慌てて答える。

「高校になってからじゃん。向こうで友達できてるよ。もっと仲良い子。」

彼女とか。と言おうとしたが、それは飲み込んだ。

大人の勝手な言い分に随分影響されていたのだ。恵里菜は自分に辟易した。

拓海の引っ越しが決まってから、両親を初めとする大人達が2人について好き勝手に言ったことを、改めて思い出す。

「所詮、異性の友達だし。」

「彼女や彼氏ができたら忘れるって。」

「子どもなんて、近場の人としか遊ばないよ。」

彼女が出来たら会えないのは同意するが、大人というのは、どうしていつも子ども見くびっているのだろと思う。勝手に引っ越しを決めて、人の友情まで勝手に測る。そんな大人の言葉より、拓海本人とちゃんと話すべきだったのに。

「友達が増えても、恵里菜は恵里菜だから。」

いつも自分の前だと割と饒舌な拓海が、今日はやけに言葉が少ない。だが、ひとつひとつの言葉は力強く発せられていて、自分との友情を大切に続けていこうとしてくれる強い気持ちは伝わる。

緩んだ涙腺からこぼれだそうとしていた涙も、もう乾いてしまった。

「そうだね。」

「男子と女子でも、親友ってあるよね!」

引っ越しを聞いてから出せなかった笑顔がようやく溢れる。

「そうだ、新しい住所教えて。電話番号も。」



〈続〉


#第32回電撃大賞

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