2 辺境の小国で第二の人生が始まる

 翌朝、俺は城の正門を一人で出た。


 すでに荷物はまとめてあり、今からゼノ王国に旅立つところだ。


 ヘリオン以外の勇者パーティの仲間には何も言わずに行くことにした。


 余計なことを言えば、俺とヘリオンの関係に亀裂が入ったことを気づかれそうな気がしたのだ。


 いや、あるいは――みんなは既に気づいていたのか?


 俺だけがヘリオンのことを親友だと勝手に思い込んでいただけで、周囲からはそう見えていなかったのか?


 俺には、もう分からない。


 ただ最高の親友を失ってしまったショックが大きくて、今は仲間たちの顔を見る気にならない。


 顔を見るだけでつらい。


 なんだか――今までの日々が全部嘘になるような気がして。


 勇者パーティという最高の仲間たちであり、最高の友人たちの集まりが、本当は全然別の関係だったような気がして。


 辛かった。


「じゃあ、行くよ――俺」


 誰に言うでもなく、俺は心の中で全員に別れを告げた。


 ……旅立ちだ。




 ぐー……んっ。


 俺は飛行魔法で大空を一直線に飛んでいく。


 ゼノ王国までは馬車で移動することもできたんだけど、俺はこっちの方が楽だった。


 並の魔術師なら大陸中心部から辺境の王国まで飛行魔法で飛んでいくような魔力量はないが、俺には可能だ。


 そして馬車で地面を揺られながら進む陸路より、自由な空路の方が俺は好きだった。


 実質的に『左遷』のようなゼノ王国への出向でモヤモヤした気持ちも、こうして風に吹かれるまま飛んでいると、少しは気分が晴れてくる。


「あれがゼノ王国か――」


 前方に城壁に覆われた都市が見えてきた。


 話によると、ゼノ王国は周辺に都市を持たず、人間の集落は王都だけだという。


 さらにその周辺に山と川がいくつかあり、その狭い国土がゼノ王国のすべてだ。


 人口は全部で1000人ほど。


 新たな王が擁立されれば、俺はその王に仕える騎士となるようだけど、今は肝心の王がいない。


 そのため、実質的に国家を運営している大臣たちに加わることになりそうだ。


 俺は城壁の手前で飛行魔法のスピードを緩め、正門の手前に着地した。


「あなたは――」


 門番たちが上空から降り立った俺に驚いた表情を見せる。


「貴国に派遣されてきたアッシュバルト・シュトラールという者だ。すでにそちらの大臣に連絡が行っていると思うが」


 俺は彼らに礼をして言った。


「あの魔王退治の英雄……賢者アッシュバルト様……!?」

「ほ、本物……!?」

「俺、ずっと前に遠目で見たことあるぞ……間違いねぇ――」


 門番たちがざわめいている。


「どなたか内務大臣に取次ぎ願いたい」


 俺は彼らに頼んだ。




 しばらくして初老の男が正門まで現れた。


 俺の方から出向くつもりだったけど、わざわざ大臣の方から来てくれたらしい。


「おお、話は聞いております。本当にあなたのような方が来て下さるとは感激です!」


 その男……内務大臣はハービンと名乗り、上気した顔で語った。


 年齢は五十代半ばといったところか。


 精力的な印象で表情も鋭い。


 切れ者なんだろうな、という印象を漂わせつつも、その笑顔には優しい雰囲気が漂っていた。


「実は、あなたが魔王軍と戦うところをお見掛けしたことがあるのです。たった一発の魔法で数百の魔族を蹴散らす場面――いやぁ、年甲斐もなく胸が躍りましたよ」


 もしかして……俺のファンなのか?


「どうも……」


 大臣といえば、偉ぶった嫌味な奴か、俺を値踏みするように見る奴しか知らなかったので、こんな反応は新鮮だった。


 悪い気は、しない。


「貴国の窮状は聞き及んでおります、閣下。私にできることがあれば、なんなりとお申し付けください」


 俺はハービンさんに一礼した。


「いえいえ、我々の方がお願いする立場ですので。どうか、楽に。楽に」


 ハービンさんは恐縮した様子だ。


「情報によれば、未だ魔族の残党が貴国の周辺で暴れているとか……現状はどのような感じですか」

「……我々の兵力では魔族に太刀打ちできず……とにかく逃げるばかりです」

「魔族の出没地点は?」


 俺はハービンさんにたずねた。


「えっ」

「私が倒してきます」




 魔族の主な出没ポイントは現状で五つあるらしい。


 俺はそれぞれの場所を教えてもらい、さっそく最寄りの場所まで飛んだ。


 飛行魔法というのは軍事上やその他の理由で、都市での使用は基本的に禁止されている。


 とはいえ、移動手段としては極めて優れているし、現在のゼノ王国は魔族に脅かされている非常事態なので、俺は特別に飛行魔法の使用許可をもらった。


 で、飛ぶこと五分。


 早くも現場に到着する。


 五体の魔族が暴れ回っていた。


 ある者は魔法弾を撃ちまくり、建物を片っ端から破壊し、またある者は触手を振り回して威嚇する。


 逃げ遅れたらしい住民が、その触手に追われていた。


「【バレット】!」


 俺は魔法弾を放ち、触手をまとめて消し飛ばす。


「ぐあっ!? な、なんだ――」


 触手魔族がこっちを向く。


「俺はアッシュバルト・シュトラール。お前たちを討伐しに来た」

「人間が! この俺は魔王軍第一師団配属、【月光の百腕】の異名を持つ高位魔族ボルグ――」


 ぼんっ!


 奴は口上を最後まで言い切ることなく、全身が爆裂して死んだ。


 俺が無詠唱で放った爆裂呪文一発で。


 あと四体だ。



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2024年12月13日 10:10
2024年12月13日 12:10
2024年12月14日 12:10

最強の大賢者、田舎の小国に左遷される。トラブルが起きても速攻で無双して解決するし、周りの人たちがみんな優しいのでノーストレスでスローライフを送ります。 六志麻あさ@死亡ルート確定の~発売中! @rokuasa

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