最強の大賢者、田舎の小国に左遷される。トラブルが起きても速攻で無双して解決するし、周りの人たちがみんな優しいのでノーストレスです。

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1 最強の賢者、追放される


 雷鳴轟く魔王城で、今まさに死闘が終わろうとしていた。


「これで終わりだ、魔王――」


 勇者パーティの一員である俺……アッシュバルト・シュトラールは、魔王に対して最後の、そして最強の呪文を放つ。


「【白光討魔雷閃咆ブレス・ロウ・ディノア】!」


 空中に配置した十三の魔法陣から放たれた雷撃が俺の前面に収束する。


 すべての雷撃が融合し、閃光の砲撃となって撃ち出された。


「おのれ、こんなもの――」


 魔王リガンディは体の前面に結界を作り出し、その閃光を受け止める。


 まばゆいスパークが辺りを照らし出した。


 魔王の全魔力を込めた結界と、俺の全魔力を込めた砲撃のせめぎ合い――互いの魔力のぶつかり合いだ。


 ぐぐぐ……っ。


 俺の魔力光が、押す。

 魔王の結界が、押し返す。


 剣の勝負でいえば鍔迫り合いに似た俺たちの魔力のぶつかり合いは、やがて、


「馬鹿な――!?」


 魔王の驚愕とともに、俺の魔力の方が徐々に押し込み始めた。


「このまま決める……っ!」


 俺はさらに魔力を高めた。


 体の奥の奥、精神の底の底――魂のすべてを振り絞り。


 五年の長きにわたり、人類を苦しめ続けていた魔王軍との戦いに、今こそ終止符を打つ――!


「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ……!」


 俺の放つ純白の閃光が爆発的に光量を増し、結界を貫いた。


「ぐあああ……ああああ……あ……あ……」


 まばゆい輝きの中に飲みこまれ、そのまま魔王は消滅する。


「はあっ、はあっ、はあっ……」


 や、やったぞ……!


 とうとう終わったんだ――。


「す、すごい……! ついに魔王を倒したのね、私たち!」


 姫騎士セレナが俺に抱き着いてきた。


「……ああ。やっと平和な世界になる」


 俺は彼女を抱きしめ、言った。


「……こほん。えー、その人はいちおう一国のお姫様ですからね。手を出すのは禁止です」


 ジト目でツッコミを入れてきたのは女僧侶のルーネだ。


「そうだぞ! 姫は俺のものなんだ。さっさと離れろ、アッシュ!」


 勇者ヘリオンが不満げに口を尖らせる。


 こいつがセレナ姫に惚れていることは、パーティ内の全員が気づいている。


 いや、姫本人は気づいていない可能性もあるけど。


「だ、そうだ。そろそろ離れてくれ、セレナ」

「もうちょっと……喜びに浸りたいから」


 言いながら、セレナはなおも俺に抱き着いてくる。


 可愛い妹分みたいな少女だ、俺にとっては。


 よしよし、と頭を撫でてやった。


「えへ」


 セレナが嬉しそうに目を細める。




 ――こうして、俺の所属する勇者パーティは魔王を討ち、世界を救った。


 やっと五年に及ぶ長い戦いが終わったんだ。


 いよいよ平和な日々が始まるんだ。


 俺は心が浮き立つのを感じた。


「……くそ、俺は勇者なのに。なんで魔王を倒したのがお前なんだ」


 ヘリオンはずっと恨めしげに俺をにらみ続けていた。


 けっこう根に持つ奴だな、こいつ。


 ……その時、俺はヘリオンの態度は子供じみた『拗ね』だと思っていた。


 けれど、後になって知ることになる。


 奴が抱いていた思いは、もっと根が深いものだったんだと。


『拗ね』なんて可愛いものじゃない。


 怒り。

 嫉妬。


 そして――。




「ゼノ王国に出向……? 俺が?」


 その話は突然降って湧いた。


 中央大陸の辺境に位置する小国ゼノ。


 先の魔王大戦で国土に深刻なダメージを負った国であり、復興もままならない状態が続いていると聞いている。


「先王は魔王に殺され、未だ次の王が擁立されていない。現在は重職にある大臣たちの合議でとりあえず国家を運営しているようだ」


 ヘリオンが説明した。


「そこで魔王退治の英雄の一人――つまり賢者アッシュバルトに、ゼノ王国へ出向いてほしいというわけさ。お前が力を尽くせば、かの国の復興は大きく前進するはずだ」

「どうして、俺が……?」

「復興に必要な事業は主に二つ。国内外に出没する多数の魔物の討伐。そして破壊された地形に対する大規模な土木工事。この二点を両立できるのはお前しかいないだろう」


 ヘリオンがにっこりと笑った。


「五年間一緒だったお前と離れ離れになるのは寂しいけど、ぜひ出向いてほしい。いや、俺もゼノ王国の惨状には心を痛めていてね……」

「……そうか」


 こいつがゼノ王国とやらの話題を口にしたことなんて一度もない。


 じゃあ、どうして俺をその国に送りたがっているんだろう?


「中央のことは俺やセレナたちでなんとかする。お前は辺境でがんばってくれよ」

「ヘリオン……」

「……邪魔なんだよ、お前」


 ふいにヘリオンの表情が変わった。


 憎々しげに歪み、俺をにらみつけている。


「えっ……」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。


 冗談のつもりなんだろうけど、ちょっと趣味が悪いぞ、ヘリオン。


「何言ってるんだよ、はは」


 俺はなんとか苦笑を浮かべてみせた。


「ずっとお前が嫌いだった」


 けれど、ヘリオンは憎々しげな表情のままだ。


 あの優しくて、いつも俺を助けてくれていたヘリオンとは別人のような顔だ。


 終生の友だと信じて疑わなかった彼が、今まで一度も見たことのない顔で俺をにらんでいる。


「なあ、知ってるか? 世間の連中はお前こそが真の勇者だ、なんて言ってるんだぜ?」


 ヘリオンが吐き捨てるように言った。


「どうして――」

「お前が魔王を倒しやがったからだよ! ふざけやがって!」


 ヘリオンが怒鳴った。


「お前が出しゃばったからだ! この俺が魔王を華麗に倒して、世界中に勇者としての偉業をアピールできるはずだったのによ! くそがぁっ!」


 がんっ!


 近くの机を蹴りつけるヘリオン。


 勇者の一撃はさすがに強烈で、机は粉々に吹き飛んだ。


「それとも何か? 俺から勇者の座を奪いたかったのか?」

「ち、違う――」


 俺は思わずたじろいでしまった。


 ヘリオンに、そんな風に思われたくなかった。


「俺にとって、君は大切な友だちだ。最高の――」

「ああ?」


 俺の言葉は、ヘリオンをますます怒らせただけだった。


 ――そうか。


 俺が魔王を倒してしまったから、彼の誇りを傷つけてしまったんだ。


 魔王との最終決戦の際、俺はもっと違う立ち回りを選べばよかったんだろうか?


 ただ、正直言って――ヘリオンの実力では魔王に勝てなかった可能性が高い、と俺は思っている。


 だから、まず俺が戦ったのだ。


 とはいえ、それを本人に言えば、さらにプライドを傷つけてしまうだろう。


 ヘリオンの誇りを、そして気持ちを傷つけずに済む方法は――一つだけだ。


「……分かった。俺は辺境に行くよ。そしてゼノ王国を助ける」



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※2話は本日12:10に投稿予定です。


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