マイフレンド
那智 風太郎
My Friend
私は現在、小型宇宙船に乗って二百光年の彼方にある恒星系に向かっている。
目的は人類の移住先に適した星を探すこと。
環境破壊と温暖化で生命の住環境に適さなくなった地球からなんとか落ち延びようと人類は全方位、三百光年以内にある移住可能と判断された全ての惑星へと調査員を派遣することになった。また科学技術の発達により、数百年前には不可能とされていた空間ワープを多用した宇宙航行が可能になり、私も目指す恒星系にわずか数年で到着する予定である。
乗組員は私ひとり。
コールドスリープ装置はないが、代わりに一体の人型アンドロイドが与えられている。要は乗組員である私の身の回りの事、全般を行うアシスタント。また精神に異常をきたさない為に孤独を解消するパートナーとしての位置付けにもなっている。アンドロイドの設定は自分で自由に変えられる。そしてもちろん私の指示には絶対に従うようにできている。
ある日、コックピットであくびをしているとそのアンドロイドが私に言った。
「ご主人様、どうも退屈そうでいけません。最近アップデートされた宇宙理論の講義でもいかがですか」
「いいよ、そんなの。放っておいてよ」
アンドロイドは指示に従い、引き下がってどこかに行ってしまった。
心配してくれているのはありがたいが正直ちょっとウザい。
私は無闇に声を掛けないようにプログラミングの設定を変更した。
また別の日、ベッドに寝そべってポテチを齧っているとアンドロイドが言った。
「ご主人様、どうも運動が足りていないようです。十日で二キロ体重が増えています。そこで理想的なエクササイズメニューを組み上げました。今日から毎日1時間を目標に行なってください」
うるさいことを言う。
けれど乗組員の健康を気遣うのもアンドロイドの仕事なのだから仕方がない。
「分かった、分かった。ちゃんとやるからどこかに行ってよ」
宇宙船の中で唯一の話し相手であるアンドロイドが最近なぜか疎ましい。
最初は完璧な執事のようで気に入っていたはずなのにどうしてだろう。
よくよく考えてみると面白みがないことが原因ではないかと思い至った。
そこで私は極端に設定を変更し、アンドロイドをコメディアンのようにしてみた。
「ご主人様、なんや詰まらん顔してまんなあ。わてがいっちょ宇宙の神秘っちゅう奴を教えてあげまひょか」
なんだ、言葉遣いが違うだけで言ってることは同じじゃないか。
私は再び設定を変える。
今度はイケメンタレント風に。
「Hi、ご主人様。退屈してるぅ。パーティーしようぜぃ。バイブスあげてこーぜぇ」
しまった。
これじゃまるでパリピだ。
ううむ、案外設定が難しいな。
その後も貴族男爵風やワイルドな海賊風にしてみたりしたが、どうもしっくりこない。結局、元の設定に戻して、改めて考えてみる。
私はどういう人にそばにいて欲しいのだろう。
すると不意に友達という単語が思い浮かんだ。
そこで私はひとしきり友達について考えてみる。
そもそも友達ってなんだっけ。
話し相手。
遊び仲間。
友情。
……友情ってなんだっけ。
よく知っているはずなのに言葉にしようとすると出てこない。
とりあえず設定の中に友達という項目を探したがそれもなかった。
私はアンドロイドを呼び出して直接聞いてみた。
「ねえ、あんた。私の友達になってくれない」
「承知いたしました。私は今日からご主人様の友達です。なんなりとお申し付けください」
「いや、友達は相手をご主人様なんて呼ばないし、なにも申し付けられたりしないのよ」
「左様ですか。ではなんとお呼びいたしましょう」
「そうね。とりあえず私の名前を呼び捨てにしなさい。私はあんたのことをアンちゃんて呼ぶ。アンドロイドのアンちゃんね。それから自分に興味のあることを私にどんどん話しかけてちょうだい。どんなにくだらないことでもいいわ。私があんたバカねって呆れるぐらい、そんな話をするの。そして二人でケタケタ笑い合うの。分かった?」
するとその途端、アンドロイドからプスプスと奇妙な音が聞こえてきた。
そして頭からひとすじの白い煙が立ち昇ったかと思うとそのまま動かなくなってしまった。
AIにとって友達とはそれほどまでに理解不能な存在なのだという教訓を得た私はひとりぼっち、窓の外の真っ暗な宇宙を眺めて小さなため息を吐く。
ふう、友達ってなんだっけなあ。
(了)
マイフレンド 那智 風太郎 @edage1999
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