服がダサすぎてバトルに集中できない

ちびまるフォイ

おしゃれは相対評価

「ククク。よく来たな勇者よ」


「魔王。ついに見つけたぞ!! お前ももう終わりだ!」


魔王の広間に火がともる。

明るくなった二人はお互いの顔を見合わせた。


そして魔王は吹き出した。


「んフッフwwwwwwちょwww待ってwwwww」


「な、なんだ! 何を笑ってる!!」


「ふふふwwwちがうwwwwんふふwwww

 なんでwwwなんでwwwwその防具なのwwww」


「防具?」


「勇者おまえwwwwwwすごいダサいぞwwwwww」


勇者からの笑いという先制攻撃に魔王はこらえられない。

もっとも一番驚いているのは勇者本人だった。


「だ、ダサい? どこがダサいんだ?」


「そwwwwwこwwwwwかwwwwらwwwww」


「教えろ!! どこがダサいんだ!!」


「wwwwwwwww」


魔王はもう言葉をつむぐことすら難しい。

まさに千載一遇のチャンスではあるが勇者は攻撃できない!


だって自分のどこがダサいかを知りたいから。


「はぁはぁ。ごめんごめん……ああめっちゃ笑ったわw」


「まだ顔にやけとるやん」


「えっとなんだっけ。どこがダサいか、だって?」


「そうだ。この装備のどこがダサいか教えろ」


「ふっふふふwwwそれやめてw笑っちゃうwwww」


「普通にしゃべってるだけだろぉ!」


「まずさ、まずなんで頭にバケツかぶってるの?」


「バケツじゃない! これは全方位から防御できる頭装備なんだ!」


「ふふふふwwwwそうねwwwwそれはいいとして、

 頭バケツで、背中から翼生えてて、袴はいてて、

 手には鎖巻いてるとかどういうセンスなのwwww」


「これがベストの防御力なんだよ!!」


「見た目すべて犠牲にしてるじゃないかwwwww」


「はあ!? 魔王、お前だって別にかっこよくなんかないぞ!

 半裸に近い服装じゃないか!!」


「いや俺はこういうものじゃん。肌にガウンが正装じゃん。

 それにこっちは待つ身だから別に服装はどうでもいいのよ」


「ず、ずるいぞ」


「勇者、お前は道中で自分の装備を選べるわけじゃん?

 で選んだ結果。勇んでやってきたのがwwwwwそのww装備wwwww」


「笑うなって言ってんだろぉ!!」


勇者は笑いの先制攻撃を与えたが、

引き換えに魔王からメンタルへの攻撃を受けていた。


世界の命運を握るふたりが相対すれば、もはや剣を交えることなく攻撃が始まる。

たとえそれが本人たちの意思とは無関係だったとしても。


「ああ、もうじゃいいよ! こんな防具ぬいでやる!!」


「おいおい。せっかく防御高めにした装備なんだろ?」


「別に!! こんな防具なくてもお前なんか倒せるし!!」


勇者は逆ギレの勢いで防具をパージした。

そこに現れた私服の勇者を見てまた魔王は転げ落ちた。


「ダっっっっサwwwwwwwwwwwwww」


「えええ!?」


「待ってwwwww二段構えでwww笑わせないでwwwwww」


「ダサ……くないだろぉ!?」


「地肌に鎖かたびらはダサすぎるwwwwwww

 なんでズボンがアシンメトリーのダメージジーンズなんだよwwww」


「うるさいなああ!!!」


「逆に聞くけどwwwwwどこで手に入れるの?wwwww」


「煽ってるだろ!! このやろーー!!」


「煽ってないwwwww煽ってないけどwwwwふっふふふwwwwwww」


勇者が動くたびに腰につけているウォレットチェーンがチャラつく。


そこにくっつけられているドラゴンの剣のキーホルダーが、

そこはかとない修学旅行のおみやげ感を演出し高度な笑いを誘う。


「ダサいTシャツとかならまだしもwwwwww

 なんか"しっかり選んでばっちりダサイ"感じがwwwもうねwwww」


「うるせえええ!」


「お母さんが買ったとかじゃないよね?wwww」


「自分で買ったよ!! 悪いか!!!」


「自分でwwwwww選んだwwwwwww」


その事実が魔王をふたたび笑いの底なし沼へと引きずり込む。


地肌に鎖かたびらを着用し、なぜか長いストールを巻いているのが

もう寒いのか暑いのかわからないくて笑ってしまう。


「もういい! 魔王! 服装はいいから戦え!!!」


勇者はいたたまれなくなって伝説の剣を抜いた。

臨戦態勢となった勇者の剣の柄には「たかし」と名前が彫られている。


伝説の剣を取りちがえないようにというはからいだろう。

選ばれたものしか抜けない剣を取り違えるのかどうかはわからない。


それをみた魔王はまた吹き出した。


「wwwwwwwwwwww」


そして、その表情のまま心筋梗塞で倒れて死んだ。

笑いすぎによる身体への負荷に耐えられなかったのだ。


勇者はこれまで鍛え上げた剣の腕や、魔法の技術を使うことなく

防具を見せて、それをパージするだけで魔王を倒してしまった。


なんて恐ろしいのだろう。

勇者の所作ひとつで魔王が死んでしまうのだから。


「ダサく……ないもん」


世界をすくったはずの勇者だったが、来ていた装備はもう着れない。

さんざんダサいとなじられたものを着用することはできなかった。


これから街に凱旋するまでになんとかしなければ。


勇者は魔王城での決戦が長引いていることにして、

イチからファッションについて勉強に研究をかさねた。


やがて、街に勇者が魔王を倒したという話が出回るころ

勇者の壊滅的なファッションセンスはすっかり持ち直した。


「よし、これで街に戻っても恥ずかしくないぞ!!」


勇者は服装を一般人レベルの状態まで整えてから街に凱旋した。

もうダサいと後ろ指さされることもないだろう。


街に戻ると勇者はその目をうたがった。



「え、なんだよその服装……」



街の人達の服装はのきなみダサかった。

なぜなら魔王城に向かった勇者のファッションそのものだった。


世界を救った英雄の服装なのだから、

今はこの服装が一番のトレンドで一番かっこいい服装。


たいして勇者といえば。


無難にまとめあげた服装。

遊びの要素もない面白みのない服装。


かつての勇者の服装こそ最高だという風潮の街に、

そんな無難な服装の人間がやってきたなら評価は決まっていた。




「なにあの勇者wwwwwダッサwwwwwwwww」




バケツを被り、地肌鎖かたびらの人々は大いに笑った


勇者は伝説の剣をふたたび抜いた。

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