第3話――――黒猫の暗殺者・・・・・・
3――――黒猫の暗殺者・・・・・・
寒く、深雪に覆われた、暗く深い森の奥で、隠された城。その、一番奥の一室。
ワタシはそこで、玉座に座る、老いた獣人の王へ、膝をつき、首を垂れていた。
蝋燭の光だけが、薄暗い室内を照らし、老いた獣人の王の顔を隠している。
甘いお香が、天井まで充満するように焚かれ、匂いが、鼻腔から全身へ染み。脳髄を暖かく麻痺させる。肌から甘いお香の混じった汗が染み出し、ワタシの身体を無理やり火照らせるーー。
にゃーにゃーっと、若い雌の獣人が、老いた獣人の太股に絡みつき、猫なで声で、快楽を求めながら、老いた肉棒を飴でも舐めるように、口に含み、舌で楽しんでいる。
「お呼びでしょうか、王よ」
「黒猫よ、仕事だ、近こう寄れ」
ぬうっと、皺だらけの手が、ワタシを手招いた。
「はっ」
ワタシは、首を垂れながら、老いた王の手の前へ、移動した。
「エルフを殺して来い」
大老の手が、ワタシの髪をすき、頬を撫で、首から鎖骨を伝い、乳房をひき潰し、臍の下に刻まれた、絶対服従の刻印をなぞり、黒布の長ズボンの上から、肉の割れ目に手を添えて、肉蕾を擦る。
擦られる肉蕾から、いやおうなしに、愛液が流れ、下着とズボンを汚す。それを、羨ましそうに、お香で快楽にふける雌の獣人が、自身の恥部を慰めながら、羨望の眼差しを向けてくる。
「んッーーはぁッッ」
王の指が、布越しに肉穴をほじる。
ワタシは、声を抑えることが、できなくなっている。
「人間と一緒に行動している、その人間も一緒に葬ってこい」
「はッいィッ」
王の手が、ワタシの肉穴から、抜かれた。
「命を注ぐ、脱げ」
ワタシは、汚れた布を脱ぎ棄てた。
王の命令に背けば、絶対服従の刻印がワタシの生命活動を停止させるのだ。つまり、死か、服従かの二択なのだ。
王は、肉棒を舐める雌の頭を押しのけ。ワタシの肉穴に収まりきらない肉棒を晒した。
王の両手が、ワタシの双乳ごと鎖骨を掴む。
ワタシの足が床から浮き上がり、そのまま、肉穴へ肉棒が挿入される。
「あぁぁーーはんゥゥゥ」
肉棒が、根元まで肉穴へ押し込まれ、肉壺を押しつぶして、お腹の、絶対服従の刻印をゆがませる。
痛く、苦しい。けれど。
「善がれ」
「あッーーーー」
王の命令に、絶対服従の刻印が反応し、苦痛の全てが、快楽へと書き変えられる。そして、脳髄のどこか奥が死滅していく。
王は、ワタシを肉棒から精を絞り出すための道具として使い始める。
王が、動くたび、ワタシの肉壺が押しつぶされ、変形する。
「おッ、おッ、おぅッゥ 激しッ、すぎッ」
王の、肉棒から、精が競りあがって来るのが、肉穴から伝わって来た。
「受けよ」
「はッーーいいぃっぃ」
王の命で、ワタシの肉蕾が、肉棒の頭を咥え込み、抜けないように肉穴で締めつけた。
「あッーーーーはぁぁッーーーー」
ワタシの肉壺に、精が注がれ、果てるのと同時に、暗殺のターゲット情報映像が脳内に流れる。
ターゲットは、ヤマタ山脈の麓の街にいる。名前はグラドとキキ。姿形も覚えた。
ワタシの、肉穴から精が零れ落ち、床にを汚し、雌の獣人が、狂ったように、それを舐め、飲み込む。
この一室で行われるすべては、快楽へと変わるのだ。
王は、ワタシの肉壺から、肉棒を無理やり引き抜き、両手を放した。
「あッーー」
ワタシは、床に肩を打ち付け、散液した精にまみれた。肉壺が、肉穴ごと体外へ飛び出してしまっている。床の冷たさが、肉壺の熱を奪ていく。ワタシの意識も、朦朧と薄れていく。
「連れてゆけ」
影に控えていた運び役の獣人が、ワタシの両肩を持ち、ワタシは自室へと運ばれいく。
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ヤマタ山脈の麓、標高が高く、空気が薄い。良く言えば空気がうまいその町は、ヤマタ山脈を越えるため、世界各地から旅人たちが集まる街だ。
そして、単純に旅行を楽しむ夫婦、旅行学生、世界一周の貧乏バックパッカー、国を追われた、ならず者。そういった多数の厄も集まったりする街だ。
「ここでお別れね」
リリーが、街の中央広場、馬車の停留所で、そう切り出した。
「なんで、一緒にいちゃ、ダメなの?」
キキは、まだリリーと別れたくないらしい。けれど、一緒に行動すれば、リリーにも、危険が及んでしまう。
「俺達といると危ないだろ、ここでお別れだ」
キキは、うーんっと考えて、しぶしぶ納得した。
「また、会えるよね?」
「そうね、キキの問題が解決したら、また会いましょ」
「約束だよ」
二人は、叶うはずもない約束を指切りげんまんで誓い、それからハグをして、手を振りあって別れた。
「行くぞ、今日は、ホテルで一泊して、明日の早朝、でるからな」
「わかった」
キキと私は、無難なビジネスホテルにチェックインした。
「グラド、お腹減った」
「わかってる、飯を喰いに行きたいところだが、お前はその長耳が目立つ」
「フードで隠しているよ?」
「それでもだ」
キキの長耳は、フードで隠してはいたが、どうしても、無意識に音を拾うため、ぴくぴくと動き、フードが不自然に揺れ、注意深く見れば長耳だと、わかってしまう。小鬼の角ならまだ隠しようがあるのだが、どうもエルフ族の長耳は隠すのには向いていないしろものらしい。
「じゃあキキのお昼ご飯どうするのよ」
「そう睨むな、うまそうなのを買ってきてやる、今日はそれで我慢しろ、良いな?」
「う~~~」
キキは、不満があるようだったが、マフィア共に見つかって命を取られるよりかは、マシだとわかっているのだろう、唸りながらも、わかったと、無理くり納得した。
「俺が帰ってきたらドアを一回ノックしてから、連続で三回ノックするからな、それ以外のドアノックは敵だと思えよ」
「どんな感じでするのそれ?」
「こうだ、聞いて覚えてくれ」
私は、ドアを一回ノックして、三秒ほど間をおいて、それから素早く三回ノックした。
「覚えたか?」
「わかったわ」
「俺じゃなかったら、窓から逃げろよ、馬車乗り場で落ちあおう」
「窓から逃げるって、無理じゃない?」
キキは、窓から外を覗きながら言う。
「パイプを伝って滑り落ちろ、体重が軽いから大丈夫だ」
キキは、窓から首を伸ばして、壁に取り付けられている太いパイプを見つめた。
「わかった、そうする」
「すぐ戻る」
「うん、早くしてね、お腹、へっているから」
私は、ドアを閉めて、キキが施錠した音を確認して、それから、昼食の買い出しへ向かった。
ヤマタ山脈の麓で栄えるこの街は、様々な民族が立ち寄りはするが、腰を据えている民族は山羊族だ。頭にねじれた角が生えていて、貿易商人を生業にしている奴が多数で、貿易協会という組織を作り、世界の流通はこの山羊族によって回されていると いっても過言ではない。他しか貿易の本拠地はこのヤマタ山脈を越えた先の港がある 街に置いているはずだ。つまり、このヤマタ山脈の麓の街は、彼ら山羊族にとっての故郷なのだ。
それもあって、食べ物だけではなく、道具や武器屋、魔術関係の品々も種類が豊富にそろっている。
昼食には、ハンバーガーにフライドポテトを買った。
早くホテルへ戻らんと、キキに文句を言われるなと、速足で歩きはじめると、魔導書を売っている露天商が視界にはいった。
今時、紙母体の魔術書とは珍しい。見てみたい好奇心とハンバーガーが冷めていたら、キキが怒るだろうなという二つを天秤にかけた。
「ホテルの部屋に、電子レンジがあったな、あった気がする、あるはずだ」
私は、好奇心を優先させた。
露天商の怪しげな婆に声をかけ、一冊、中身を見せてもらう。
それが、良くなかった。古い手だ。魔術書を開いた瞬間に意識を奪い、設定した目的地まで無意識に歩かせる。そんな、初歩的なトラップにかかってしまった。何とか、自己意識を残すことに成功したが、身体も動かせねえし、声も自由に出せない。 視界と音だけは、感じとれる。これじゃ生殺しだな。なにもできやしねえ。まるでクソみたいな人生だ。
そのうえ買ったばかりのハンバーガーを道端に落としちまった。キキに殺されちまう。
「グラド本人だな?」
無意識の状態で、質問を受けていることだけは分かる。
私は、無意識のはずなのに、はい、と返事をしてしまっている。くそ、敵だ。しか も、なんだコイツは、黒髪に猫耳、尻尾まで生えてやがる。そのうえ女だ、マフィア とは違う。陰湿な気配をただよわせていやがる。そのくせ体の動きに無駄がねえ、あ れだな、殺しを生業にしている奴だ。最悪だな、マフィア共が雇った暗殺者ってとこ ろだろうな、
「本人確認完了、処刑を実行する」
処刑ときたか、ただの人殺しを儀式化するのは、精神安定化のためだろう、頭がくるくるパーになったらお終いだもんな。
ざっぱーーーー、鮮やかに、私の喉から短刀が入り、脊髄を切断した。
死ダ。
「処刑完了。任務終了――――ッ」
一度、死んで、私は意識と体の主導権を取り戻した。無難にやり過ごそうかとも思ったが、ヤマタ山脈でこんな暗殺者に追われたら、キキを守り切れない、今ここで処理しておいた方がめんどうが無くなる。
「貴様ッ、なぜ死なんッッ」
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ワタシは、暗殺目標のグラドを喉を一突き、それで殺したはず、なのに、死なない。
ワタシは、矢継ぎ早意に、刃を喉笛に、眼に、心臓に、突き刺した。そのはずだ、致死量の出血も確認できている。だというのに、この人間は、なんなのだ、人間の形をした、まったく別の生物ではないか。
「おいおい、殺意が高いな」
引き裂いた肉と骨が、意思のある生き物のようにつながっていく。
「なんなんだ、お前、人間じゃないのか」
「人間だよ、ただ、人間らしくありたいと、そう思っている、人間だよ」
そんなわけがない、こんな生物が、人間であってたまるか。
くそ、この化け物を殺さなければ、ワタシの命がない。絶対服従の刻印が、ワタシの生命活動を停止させてしまう。それだけは、嫌だ。
「よせよ、お前には、俺を殺せない、わかるだろ?」
「五月蠅い!!」
ワタシは、短刀を捨て、身体の一部である、猫爪に力を込め、人間には認識できない速さで、ターゲットの男を切り裂く。今度は急所とは関係なく、ただ、形も残らないほどの細切れにしてやるために、全身を、切り刻んだ。
「やった!」
手ごたえはある。確実に、命を奪った手ごたえが猫爪に残っている。
これでワタシは死なずにすむ。
「なんだお前、その腹の刻印で動かされているのか、自分の意思ではなく、他人の意思で、動かされているのか、なるほどな、軽い一撃なわけだ、けど、そんなんじゃあ、そんな軽薄な一撃じゃあ、俺の命を奪えないぜ」
嘘だ、腹から臓物が飛び出していんだぞ、喉も切り裂いた、肺も心臓も、膝の裏も、なのに、なのに、なぜ、立って、喋っていられるのだ。
「怪物め」
「失礼な奴だ、人間だよ、俺は」
くそ、くそ、くそ。コイツを殺さなきゃ、こっちが殺されるんだよ!!!
「お前、ちょっと眠れ」
奴が、折れた手をかざした。
急に、睡魔が訪れ、ワタシの意識が強制的に閉ざされた。
「まったく、いい迷惑だぜ、マフィア共が刺客まで送って来るとはな……」
私は、切り刻まれて、飛び出した内臓やら、身体が修復されてから。強制睡眠させた猫耳の少女を担ぎ上げた。
「さて、どうするかな」
ひとまず、ホテルへ連れて帰るか。話も聞きたい。
ホテルへ戻ると、キキはおらず、もぬけの殻だった。
争った形跡が一つもない。
この黒猫とは別の暗殺者の仕業か、そうなると、暗殺ではなく、拉致が目的か。
私は、傷の治りが遅くなった身体で、今後の事を考えた。
「頭ボーンは嫌だな」
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「ようやくお目覚めか」
女の声がする。ワタシはーーーー。
「ここは、何処だ! 奴は!」
飛び起きようとしたが、身体に衝撃が走る。ロープの感触。体が、ベッドにロープで縛られている。身動きがとれない。
「そう暴れるなよ」
誰だ、この女の声は、知らない奴だ。
黒い長髪に、百八十センチほどある、でかい女が、なぜか裸で煙草を吸いながら、 突っ立って、ワタシを見下ろしている。
「お前は誰だ!?」
「誰でもいいだろ。それより、お嬢ちゃんの雇い主は、誰だい?」
「話すと思うか……」
話せばワタシに刻まれた絶対服従の刻印によって、ワタシの命は殺されるだろう。
雇い主の事を尋問されるだけで、ワタシの身体の中で、殺意ある魔力が蠢いているのだ。一言でも、ただの一言でも、口にすることは出来ない、絶対。
「その刻印を解除してやろう、それでどうだ?」
「なッ、刻印を消すだと、そもそもお前、この刻印が何かわかっているのか」
「絶対服従の刻印だろう」
なぜだ、なぜそれを知っている。神聖帝国の暗殺部隊が付与される刻印だぞ。脱走者、いや、不可能だ、脱走しようものなら、それこそ絶対服従の刻印で殺されている。
しかし、もし本当に解除できるとしたら、それなら、死なずに、生き延びていても不思議はない。
「元、身内なのか? お前」
巨女は間抜けずらをした。それから、腹を抱えて笑う。
「おいおいおい、俺の耳は猫耳じゃあねえだろ、よく見てくれよ、くくく」
ぐ、確かにそうだ、なにかしらの獣人ではない者は、暗殺部隊に所属できない。
くそ、この巨女、ムカつくほど笑う。
「俺は、ただ、その刻印の対処方法を知っているってだけなのさ」
「対処方法? 何をするんだ」
「簡単さ、セックスをするだけだ」
は? 何を言っているのだ、この巨女は。
「まて、どうしてセックスなんだ、というか、女同士で無理だろ?」
「女? ああこれか、これは……、まあこのままでいいか、あと必要なのはチンコだな」
頭のおかしな巨女だ。完全にお花畑の世界の住人だ。
「ほらよ、これでいいだろう、これで、お前の膣から精を注いで、絶対服従の刻印に別の命令刻印を上書きする」
なんだそれは、巨女が陰部に手を添え、摘まみ上げるような仕草と共に、肉棒が生えた。
「お前は、グラドなのか? お前、女なのか!?」
「まあな、驚くよな、でも大した理由じゃないんだ、デカい女の姿でいると、嫌でも注目を浴びるからな、それが、めんどうなんだ、それだけだ」
ワタシは、いったいなにを暗殺しようとしていたのだろう。こんな相手、今までいなかった。こんな怪物のような相手を暗殺するのは不可能だ。
「ま、とりあえず、痛くしないからさ、あんまし暴れないでね」
巨女が煙草を握り潰し、指で弾き、床に捨てると、ワタシに馬乗りして来た。
ともかく太い、太股がワタシの胴体ぐらいある。
「うっ、なんだこの甘い匂いは」
「言ったろ、痛くしないって」
甘い匂いが、ワタシの鼻腔から身体に染みわたる。けれども、それで身体が火照ることはなく、ただ、頭から緊張が溶けていった。訳が分からない、頭が、変だ。
「ちょっと脳に働きかけた、今お前が感じている、それは、安心感だ、心地いいか?」
分からない、こんな穏やかな快楽をワタシは知らない。知らない快楽に、身体が反応してしまう。
「触るぞ」
巨女は、ワタシの頬に手を添えた。
「はッ、ーーーーんッ」
それだけで、ワタシの奥から愛液が分泌されていく。
「舌を出して」
ワタシはすでに、この巨女の言葉に逆らう気概を喪失していた。
ワタシが舌を出すと、巨女が舌を絡め、押し付け、吸い付き、また絡ませる。
舌と舌の境界が混じりあい、わからなくなると、巨女は、ワタシの肉蕾に指の腹を押し付け、ゆっくりと、押し回す。
それだけで。ワタシは腰を浮かせ、絶頂を迎えてしまった。
初めての、安心感のある快楽に呑まれた。
いつの間にか、巨女が肉棒をワタシの肉の割れ目にあてがい、挿入しようとしていた。
ワタシは、指先で肉棒に触れ、肉穴へ誘導した。
巨女の肉棒は、ワタシの肉花を押しのけて、一息で肉壺の内まで挿入って来た。
「あッ――」
ワタシは息を詰まらせた。巨女は、腰を静止させ、じっと肉棒を肉壺になじませる。
「本当にッ、刻印を消せるの?」
ワタシは、巨女の舌を押しのけながら、不安を口にしていた。それほどまでに、この、好んでジジイの姿に変身していた巨女を信頼してしまっていた。
「過去にも何度か対処したことがある。不安か?」
ワタシは頷いた。絶対命令の刻印を書き変えることなど、絶対に不可能だという自分と、なぜだか、全幅の信頼を寄せている自分が、同時に存在している。それがたまらなく不安だった。
巨女は、ワタシのおでこにキスをした。ワタシはなぜかそれだけで、納得してしまった。
ワタシの肉壺は、巨女の肉棒から、精を搾り取ろうと、絞めつける。
「出すぞ」
巨女が、ワタシを躰ごと抱きしめて、肉棒を肉壺の一番、奥。肉壁へ押しつけ、擦り、かき回す。そのたびにワタシは絶頂に至り、快楽の空を飛んでいく。
ワタシが、自分を失いかけた頃、ようやく巨女は、肉壺へ精を注いだ。
精が肉壺から溢れだす。それでも、とめどなく精が注がれていく。
お腹が、暖かく満たされていく。
ワタシは、叫び声に近い嬌声をあげ、巨女の広い背中に、爪を喰い込ませながら、抱きしめた。
「おい、終わったぞ」
ワタシは一瞬、意識を失っていた。巨女はすでに上着を羽織り、ズボンを履き始めていた。
「刻印は?」
ワタシが、お腹を見ると、絶対服従の刻印が消え、別の刻印が刻まれていた。
「黒猫、お前は自由だ。命令に逆らっても、命を取られることは、もうない完全な自由だ」
「自由……」
ワタシは、自由の実感がつかめなかった。
「さて、黒猫、お前の雇い主を教えろ」
なにも感じなかった。今までワタシの躰で蠢いていた、恐ろしい魔力が、何処にもなかったのだ。
「それは、雇い主は……」
禁令を口にしても、躰は爽快だった。
「ワタシの雇い主は、ラゴ王。獣人のラゴ王だ」
「そのラゴ王は、お前の他に、暗殺者を送っているのか?」
「いや、暗殺者として送り込まれたのは、ワタシ一人だ」
「そうか、ならキキっていうエルフの子供を探してきて欲しいんだ、たぶんこの街にいると思う、顔は、わかるな?」
キキ、それはもう一人の暗殺対象だ。それを探して来いだと? ワタシを監視下に置いておかないのか? それどころか、仲間を探して来い? ワタシは、お前たち二人の命を奪おうとした、グラドの方は、実際に殺した相手だぞ。殺しきれは、しなかったが。
「信用しすぎじゃないか?」
「刻印を取っ払ってやっただろ、子供を探してくるぐらいはしてくれよ」
めんどくさそうにグラドは言う。けれど、その言葉に裏表はなく、本心だった。
「わかった、夜までには、報告に戻るよ」
「俺は、疲れたから、ひと眠りするぜ」
グラドは、服を着終わると、巨女の姿から、ジジイの姿に変身した。巨女でいるより、ジジイの姿でいる方が、楽だと言う。
「変な奴だ」
ワタシは、服を着こみ、暗殺用の短剣を装着し、夕方の街へ、エルフの少女を探しに向かった。
街は、異邦人が行きかい、雑多な活気にあふれている。
ワタシは、探知魔法を展開し、町全体の足音を探った。すでに、エルフ少女の足音は、記憶していたから、あとは同じリズムの足音を聞き分けるだけだ。
「いた」
街の、飲食店が立ち並ぶ通りだ。
ワタシが駆けつけると、エルフ少女は、ハンバーガーショップの手提げ袋を持ち、ホテルへ向かっていた。
ワタシは、エルフ少女の後を、見つからないように、足音を消して尾行した。
「なんで寝ているんだよ」
エルフ少女は、ホテルに帰ると、ベッドで寝転がっているグラドに文句を言う。
「疲れてるんだ」
「なんで疲れるんだよ、なにもしてないだろ」
エルフ少女は、買ってきたハンバーガーを食べ始めた。
「俺の分は?」
「一応買ってきたけど、なにしてたんだよ」
エルフ少女が、ベッドで寝転がるグラドへハンバーガーの包みを投げ渡した。
「あー、寝てた」
「外で?」
「そう、眠くなって、ふらふらして、戻ってきて、ベッドにダイブした」
「訳が分からないんだけど」
「だよな」
グラドは、ハンバーガーの包みを開けて、かぶりついた。
「もう行っていいぞ」
「なに?」
「お前じゃない」
「頭大丈夫?」
「ダメかも」
エルフ少女は、ため息を漏らした。
ワタシは、ホテルを出た。街は、夕方から、夜に包まれていた。
ワタシの猫耳に、聞き覚えのある足音が聞こえた。
暗殺者の、足音を消して歩いている、音。それが、四つ。ホテルを囲んでいる。
ワタシは、四つの足音を消し去った。
それからワタシは、深夜から日の出まで、ホテルの周辺にとどまった。
早朝、元暗殺対象の巨女とエルフ少女が、ヤマタ山脈へ旅立つのを見送った。
街は、今日も異邦人で活気だっている。
ワタシはこれから、どうしたら、どう生きて行けば、いいのだろうか……。
ワタシには名前さえも、ありはしないのに。
分からない。なにもかもが、分からない。けれども、頭のどこかで、どうとでもなると、そう思っている自分がいる。
なにより、躰がとても軽かった。
探偵とエルフ @a2025a
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