お中世王太子の薔薇の騎士団

🎩鮎咲亜沙

お中世王太子の薔薇の騎士団

 いま僕の目の前で、ふたりの屈強な男達が剣の修練をしていた。


「く⋯⋯あいかわらず手ごわいなグリズ!」

「なんの! その程度の剣ではこの俺の守りは打ち崩せんぞカイエン!」


 ふたりの男たちは息も荒くハアハアと⋯⋯。

 いやそれは僕も同じか?

 僕も息を荒くしながらふたりの戦いを見つめていたのだった。


(いいぞ! そこだ! 押し倒せ! そして⋯⋯!)


「なにをしていらっしゃるのですか、ジェラルド殿下?」

「⋯⋯あ!」


 茂みに隠れていた僕を目ざとく見つけたのは魔術師のコウランだった。


「おお! ジェラルド様! そんなところで!」

「まったくジェラルド様なら堂々とそこで見ていていただいて良いのに?」


 ⋯⋯残念、ふたりの練習試合が終わってしまった。

 くそう⋯⋯もっと見ていたかったのにコウランが来たせいで。


「コウラン? 何か用か?」

「はい殿下、陛下がお呼びです」


「む⋯⋯そうか。 では僕は父上のところに行ってくる! お前たちはそのまま訓練していろ!」


「「「御意!」」」


 こうして僕はこの国の王である父のところへと向かうのだった。




「父上、お呼びでしょうか?」

「ああ、よく来たジェラルド。 そこに座れ」

「はい」


 僕は父の執務室に呼び出されて話を聞く。


「⋯⋯先日の学園でのテストの結果だが、見事な成績だ。 学園の歴代トップだそうだ、よくやったなジェラルド!」


「ありがとうございます、父上」


 ⋯⋯まあこの世界の勉強なんか超楽勝だからな。

 そう『この世界』だ⋯⋯。


 僕には別の世界で生きていた記憶がある、いわゆる異世界転生者というやつだ。

 しかも前世は『女だった』僕は⋯⋯。


 この世界での僕はこの国の王子という、恵まれてはいるが男として生まれた。

 まあ最初はショックだった⋯⋯。

 でもそれも15年も男として生きていれば嫌でも慣れるさ。


「そこでだジェラルド。 お前になにか褒美をやりたい⋯⋯なにがいい?」

「褒美ですか?」


 そう言われると少し困るな⋯⋯。

 何せこの世界での僕は何不自由ない権力者の頂点として生きている。

 普段からやりたい事、欲しいものは手に入るのだ。


「今すぐ答えなければいけませんか?」

「べつに後でもかまわんが⋯⋯まあなにか考えておきなさい」

「はい、父上」


 こうして僕は父の元を離れた。

 このせっかくのご褒美を何にするのか考えながら。




 午後からは自由時間だった。

 僕は日課の城下町巡りに出かける。


「おや、お出かけですか殿下?」

「ああ、コウラン」


 このコウランという魔術師は僕の家庭教師でもあり魔術の師でもある。


「ふむ⋯⋯城下町見物ですか? せめて護衛をお連れください」

「ああ、わかっている」


 そう返事をすると、まるで待っていたかのようにイケメンの騎士がやって来た。


「お待たせしました、殿下」

「頼んだぞカイエン」

「御意」


 そしてカイエンにコウランも話しかける。


「しっかりジェラルド様をお守りしろよ、カイエン」

「任せろ兄さん」


 この魔術師コウランと剣士カイエンは兄弟である。

 兄は魔術師で弟は剣士として、どちらもこの国最高の人材だ。


 こうして僕はカイエンを引き連れてこの城下町へとくり出す事にした。

 城門を出るときに門番であるグリズが見送ってくれる。


「ジェラルド殿下に敬礼!」

「ありがとう、では行ってくるよ」


 こうして僕の城下町見物が始まった。




 まあこういう時間も良いものだ。


 僕はいずれ父からこの国の国王の座を受け継ぐだろう、そうなればもうこういった自由な時間など取れないかもしれん。

 ⋯⋯いやコウランあたりが有能な宰相にでもなってくれれば、某将軍様のように自由に出歩くこともできるだろうか?


「それでジェラルド殿下、今日はどこへ?」

「そうだな⋯⋯バイソンの店に行ってみるか」


 こうして僕とカイエンの2人は傭兵ギルドへと向かうのだった。




「バイソン! 調子はどうだ?」

「これはジェラルド殿下、ようこそ傭兵ギルドへ」


 ここは傭兵ギルドでバイソンはそのマスターである。


 この国では民間からも志願兵を募っている、戦う力があっても騎士になれない者はこうして傭兵としてここで管理されて周辺のモンスター退治などの仕事をしているのだ。


 騎士は基本的にこの城を守るのが仕事なので、まあ住み分けというか?


「⋯⋯ここ最近はモンスターの様子が活発ですな、スタンピードが近いかもしれん」

「なるほど⋯⋯」


 スタンピードとはモンスターの集団が膨れ上がって森とかからあふれ出して、周辺の農村などを襲う現象である。

 これはどう注意していても起こる時には起こるものである。


「父にそれとなく進言しておこう、スタンピード対策にはお前たち傭兵団と騎士団の協力が不可欠だからな」


「そうですね。 ⋯⋯あと」

「なんだ?」


「最近コソ泥が居ましてね⋯⋯やや問題かと?」

「コソ泥?」


 この城下町で泥棒とは珍しい。


「そのコソ泥について詳しく」

「最近だとダッゼイ商会がやられましたね」

「あそこか⋯⋯」


 ダッゼイ商会はけっこうラインぎりぎりのあくどい儲け主義の商会だからな。


「そのコソ泥は義賊でもやってるつもりらしく、奪った金品の半分くらいを孤児院に寄付してますね」

「うーん、なるほど」


 案外いい奴なんだろうか?

 でも泥棒はダメだよなあ⋯⋯。


「⋯⋯その泥棒を僕の手で穏便に捕まえてみるか?」

「ジェラルド殿下がですか?」


「騎士団に任せれば問答無用で牢屋送りだしな」

「当然です」


 お付きの騎士であるカイエンはやや不服そうに言った。


「まあ僕が見て更生の余地がありそうなら何か温情をかけるとして⋯⋯無駄そうなら普通に捕まえて刑につかせるか」


「それがよろしいかと」


 こうして僕の本日の暇つぶしはその泥棒探しになった。


「じゃあまたなバイソン」

「殿下もお気をつけて⋯⋯。 おいカイエン、しっかり殿下をお守りしろよ」

「貴様に言われるまでもない」


 騎士であるカイエンと傭兵団のトップであるバイソンは基本的に反目してはいるが⋯⋯実力を認め合い互いに不可欠な存在だとも理解している。


(⋯⋯いいな、こういう男同士の多くを語らない意地の張り合いは!)


 ── ※ ── ※ ──


「行ったか⋯⋯」


 まったくジェラルド殿下の好奇心もたいがいだな⋯⋯。

 しかし泥棒探しか? カイエンが頼りないとは思わんが、あまり適性のある仕事とも思えん。


「⋯⋯おい、ラシード」

「なんだオヤジ」


 俺は近くで弓の手入れをしていた息子のラシードを呼びつける。


「あのやんちゃで困った坊ちゃんの護衛をしろ」

「えー、俺が?」


「小遣い減らすぞ」

「ち⋯⋯しかたねえなあ」


 そう言ってしぶしぶながら俺の息子は弓を手に取り、ジェラルド殿下の後を追うのだった。


 ── ※ ── ※ ──


「うーん、見つからないな」

「まあそんなに簡単に見つかるようではとっくに我ら騎士団が捕まえてますよ」


 作戦の変更が必要だな。


「⋯⋯よし、買い物をしよう」

「買い物ですか?」


 それから僕は街中のあちこちで目立つように散財して回った。


「⋯⋯ジェラルド殿下? こんなに買ってどうするつもりで?」

「発想を逆転をしたのさ、泥棒を見つけるのではなくて泥棒を呼び寄せる方に」


 これまでの買い物はなるべく傲慢な馬鹿の貴族のボンボンのようなそぶりで行った。

 もしも近くにその例の泥棒が居れば、僕はさぞやいいカモだと思ったことだろう。


 ⋯⋯そんな時だった!


「おっとごめんよ、兄ちゃん!」


 僕にぶつかりそのまま走りだす少年が居た。

 ⋯⋯そして!


「あっ!? なんだこれ!」


 ふふふ⋯⋯僕の財布には紐が結んであったのだスリ対策に。


「貴様! ジェラルド様の財布を!」


 カイエンが動くがそれよりも泥棒の方が速かった。

 あっという間に逃げ出す泥棒⋯⋯素早い!


「追うぞカイエン!」

「はい!」


 しかし裏道をよく知りつくしていると思われる泥棒に、僕たちはまったく追いつけず⋯⋯。


「逃げられたか!?」

「くそっ!」


 僕からはともかくカイエンほどの男から逃げ切るとは、逃げ足の速い泥棒だな!


 しかしその時だった。

 近くで大きな物がくずれる音が鳴り響く!

 急いで行ってみるとそこには下敷きになって身動き取れないさっきの泥棒が居た。


「見つけたぞ! さあおとなしく捕まれ!」

「ちくしょう!」


 しかしなぜこんな荷崩れを?


 僕は様子を探ると、近くに矢が刺さっているのを見つけた。

 おそらくこの矢がこの荷崩れを引き起こしたのだろう⋯⋯やるな。


 僕にはこの射手に心当たりがあった。

 おそらくラシードだろう、バイソンの息子の彼は弓の名手だこのくらいの芸当は朝飯前だろう。


 つまり傭兵ギルドがそれとなく僕の護衛にラシードを付けていたという事なのだ。


「借りができたな」

「何がですか殿下?」


 僕はそれに答えずに泥棒に話しかける。


「君が噂の泥棒かい?」

「くそ! 貴族のくせに!」


「貴様! ジェラルド様の問いに答えろ!」

「⋯⋯」


 しかし完全黙秘だったこの少年は。


「しかたないな。 カイエンこの少年を牢に入れといてくれ」

「わかりました」

「くそ! 放せよ!」


 こうして僕は泥棒を捕まえたのだった。




 それから数日後⋯⋯。


「うーん? ヤシマイ商会が奴隷売買の疑惑⋯⋯か?」


 そんな報告を僕は受け取った。


 残念ながらこの国では奴隷というものが存在する。

 犯罪者を労働させる奴隷などは国も認めている合法奴隷だ。

 しかしエルフや獣人族などの、いわゆる愛玩用奴隷という非合法奴隷も居るのだ。


 今回報告に上がったヤシマイ商会はかなりダークなところだった。


「⋯⋯なんとか尻尾を掴みたいが、そうだ!」


 僕はこの時この前捕まえた泥棒を思い出した。


「彼に潜入捜査してもらうか」


 こうして僕は泥棒に会いに行った。




「⋯⋯なんだお前か?」

「どうだい牢屋の暮らしは?」


 調書によると、この少年はいまだに罪を認めていないらしい。


「⋯⋯あんがい快適でいいね、飯も出てくるし」


 素っ気ない態度だが強がりなのが見え見えだな。


「君に仕事を引き受けてほしい」

「仕事?」


「うまくいけば恩赦ということで、今回は釈放だ」

「⋯⋯⋯⋯ち、仕方ねえな」


 こうして僕は作戦をこの少年に話すのだった。




「つまりその奴隷売買の証拠を見つければいいんだな?」


 この時あきらかに少年の目の色が変わった。


「そうだ、できるか?」

「ぜったい捕まえてくれるんだな?」


「もちろん」

「ならやる」


 彼の決意は高かった。

 どうやらなにかしらのやるべき理由が彼にも在るらしい。

 しかしそれを聞きだすのは今ではないだろう。


「頼んだぞロビット君」

「⋯⋯ああ」


 こうしてヤシマイ商会にこの泥棒ロビットを送り込むことになったが⋯⋯はたして?




 その3日後にロビットは戻って来た。

 その手に奴隷売買の証拠を掴んで!




「カイエン! グリズ! 摘発だ!」

「「はっ!」」


 討ち入りである!

 某将軍様のように僕はカイエンとグリズのふたりを引きつれてヤシマイ商会に乗り込む!


「これはこれは、ジェラルド様ではありませんか!」


 最初はゴマすりの態度だった男も。


「ここで違法奴隷の売買をしているな! 証拠はここにある!」


 そうロビット君が撮って来た写真を証拠に見せつけると態度が変わった!


「くそう! もはやこれまで! ジェラルドを殺してこの街からズラかるぞ!」


 みごとな手の平返しである。


「ふ⋯⋯させるか!」

「殿下! 私の後ろへ!」

「ああ、わかった!」


 カイエンが斬りこみ、グリズの頼りになる逞しい男の背中が僕を守る!


(⋯⋯最高だな、この素晴らしい騎士たちが僕を守って戦うのは)


 そんな時だった!

 あの泥棒の少年ロビットが急に現れて⋯⋯地下へと降りて行ったのだった!


「なんでここにロビットが!?」


 今の彼は一応まだ城の牢に居るハズである⋯⋯脱獄したのか?


 しかし今はそんな事に構っている場合ではない!

 ヤシマイ商会の傭兵軍団とのバトルの真っ最中である。


 その時、ヤシマイ商会の建物から炎が上がった!


「火事だと!? そうか証拠隠滅か!」


 それでうやむやになるはずもないが、追いつめられた人間は理性的な行動などしないという事か。


「しかしまいったな、この火事は⋯⋯」


 その時だ!


「『符魔術・絶対零度』!」


 落ち着いて、それでいて頼もしい声が響いた!


「コウラン!」

「遅ればせながら、このコウランも助太刀に来ましたぞ」


 その後カイエンとコウランの短いアイコンタクトの後、カイエンは僕から距離を離れて遊撃に出る。


(頼りになる兄が来たから自分は攻めに専念か⋯⋯)


 この信頼し合う兄弟の確かな絆に僕は感動する!


 そうこうしているうちにロビットがひとりの女性を連れて出てきた!


「ロビット!」

「姉さん! 早く逃げよう!」


 どうやらロビットの姉がここで奴隷として捕まっていたようだ。


(それが理由かロビット?)


 彼には詳しく聞きたい事が増えたな。

 しかしその時だった!


「全員動くな! この女がどうなってもいいのか!」

「きゃ~~!」

「姉さん!」


 なんと傭兵のボスらしき男がロビットの姉を人質にしてしまった!


「くそ!」

「卑怯な!」

「⋯⋯」


 僕の配下たちは皆優秀な騎士道精神あふれる男達ばかりだ。

 女を人質に取られて動きが止まった。


(⋯⋯どうする!)


 僕は一瞬あの女を見捨てて突撃の号令をかけるか迷ったのだが──!


 ヒュンッ!


 風を切り裂く一本の矢が戦場を駆け抜けた!

 その矢は見事に傭兵ボスの眉間を撃ち抜き一撃で即死させたのだった!


(今の矢は誰が!?)


 僕は反射的に射線をさかのぼり、射手を探す。

 すると屋根の上で弓を構えた男と目が合う。


(ラシードか!)


 しかしラシードは何も言わずそのまま立ち去るのだった。


(か⋯⋯カッコいい!)


 なんだその「俺の仕事はここまでだ⋯⋯」みたいなクールな仕事人ムーブは!

 僕がその余韻に浸っていると⋯⋯。


「ジェラルド殿下、鎮圧完了しました」

「⋯⋯ああ、御苦労だった」


 こうして奴隷売買の現行犯でヤシマイ商会は壊滅したのだった。




 翌日。


 玉座の間にて、この国の王である父に頼んで今回の事件解決に協力してくれたメンバーを集めてもらった。


「ジェラルド様、これはいったい?」

「なぜこ奴等もいっしょに?」

「我らはジェラルド殿下の命に従っただけですが?」

「なんで俺まで⋯⋯っち」

「俺⋯⋯ほんとにここに来てよかったんですか?」


 皆態度は違うが、ここに集められたことに納得はしていなさそうだ。


「皆の者静まれ! ⋯⋯先日は見事な働きだったとジェラルドより聞いた。 よくやった」


 そう父からのお褒めの言葉にまんざらでもない奴らだった。


「⋯⋯しかし、こ奴らを儂の前に集めるようにとジェラルドお前に言われたが⋯⋯なにを企んでおる?」


「ご褒美ですよ、父上」

「褒美じゃと?」


「先日、僕になにか欲しいものはないか聞いたじゃないですか? それが決まったので」

「ほう⋯⋯言うてみよ」


 僕は王を見た後⋯⋯ここに集まったメンバーを順に見つめてから宣言した。


「彼らを僕の直属の親衛隊として、その指揮権を頂戴したい!」

「なんじゃと!?」


 このおねだりには父も困惑のようだった。


「⋯⋯ふむ? コウランたちはわかるが、その傭兵や平民も⋯⋯か?」

「そうです! 彼らには彼らなりの素晴らしい才能があり、それを僕は欲している!」


 その僕の言葉にこの謁見の間の人々にはざわめきが広がる。


「俺は自由な傭兵だ、いくら殿下の命令でも雇われる気はないぜ!」


 おー、やっぱりラシードはそういう態度だな。

 そんな予想通りのラシードに僕はコイントスで金貨を渡した。


「⋯⋯金貨だと?」

「先日の一矢⋯⋯いや二矢分の報酬かな?」


「⋯⋯たった一発撃っただけでか?」


「それだけの価値があったという事を認めただけさ」

「⋯⋯ふん、まあこれは受け取っておく」


 そんな内心嬉しそうなツンデレな仕事人に僕は満足する。


「俺みたいなコソ泥が殿下の部下ですか?」


「今回のような潜入捜査なんかの場合は顔の知られた王宮騎士団のメンバーには不向きだからね」


「⋯⋯へへ」


 なんか嬉しそうな顔だった、こうして見るとロビット君も年相応の少年らしいあどけなさが見えてくる。


「コウラン、カイエン、グリズ。 お前たちは不服か?」


「滅相もありません!」

「この剣を殿下に捧げましょう」

「このグリズはいつでも殿下の盾となる所存ですぞ!」


 よし、これで誰も反対意見は無くなったな!


「ではここで宣言する! この僕の親衛隊の結成を!」




 バラハランド歴801年。


 ここにジェラルド・バラハランドの親衛隊が誕生した。

 やがてその活躍は国内だけでなく周辺の諸外国にまで知られていくのだった。


 しかしこの親衛隊がなぜ誕生したのか?

 それを知る者は誰も居ない!


 そして⋯⋯!




 カポーン⋯⋯。


「さあ、皆で風呂に入るぞ!」


 そう僕は親衛隊を引き連れてこの王宮の大浴場へとやって来た。


「あいかわらずジェラルド殿下は風呂好きですな、はっはっはっ!」

「よし、久しぶりに背中を流してやろうカイエン」

「よしてくれ兄さん! 俺はもうそんな子供じゃない!」

「ふえー! 何て立派な風呂なんだ」

「いいのかな? 僕みたいな庶民がこんなところに⋯⋯」


「いいさ! 気にするな! 我らは常に一心同体の仲間なんだからな!」


 そう言いながら僕は我が親衛隊を見渡す。


 コウラン⋯⋯符魔術師にしてこの親衛隊のリーダー格。

 常にクールに戦局を見つめるチームの頭脳だが、弟には甘い。


 カイエン⋯⋯剣士としてこの国一番の使い手。

 誰の助けもいらない、そんな態度の彼だがふとした時に兄を頼りにする男。


 グリズ⋯⋯熊のような大男。

 我が親衛隊の頼れる壁である、なお名前が女の子っぽいのを気にしている。


 ラシード⋯⋯一匹狼の傭兵、その弓の技量はエルフにも負けない。

 実直な仕事人だが褒められると内心嬉しさを隠し切れない可愛い奴。


 ロビット⋯⋯チームの最年少。

 その小柄な体格を生かしての偵察や潜入捜査を担当する。


 ⋯⋯これが僕の親衛隊だ!


「こんな風呂見たことない⋯⋯うあっ!?」

「あぶない!」


 天井を見上げながら歩いていたロビットが足を滑らせ、それをカイエンが支えた!

 その逞しく力強いカイエンの腕で、やや華奢なロビット少年が抱きしめられて⋯⋯。


「ありがと⋯⋯カイエンさん⋯⋯」

「⋯⋯気をつけろ。 ⋯⋯その、ここは足を滑らせやすい」


 そのあまりな光景に僕は──!


 ぷしゃ~と鼻血を出して倒れるのだった。


「ジェラルド殿下!?」

「いかん! ジェラルド殿下が!」


「なんだ? その『捗る』って?」

「さあよくわからんが、殿下が言うにはこう突然鼻血がこみ上げてくることを『捗る』と言うらしい」

「聞いたことないな、そんな言葉は⋯⋯」


 僕は倒れながらもぼんやりとした意識で幸福をかみしめる。

 この素晴らしい男達と、裸でお付き合いできるこの状況を!


「へへへ⋯⋯僕の事はどうでもいい。 それよりお前たち⋯⋯ちゅーせい⋯⋯」


「もちろんです! 我ら一同、ジェラルド殿下に忠誠を捧げますとも!」


 こうしてここから始まる。

 僕の、僕による、僕の為の──、


「薔薇の親衛隊が⋯⋯」


 僕の真意に気づくものは誰も居ない。

 ⋯⋯居るはずもないがな!

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