第2話
「どうだ? 最初の講座、うまくいったか?」
いきなり後ろから声をかけられた瞬間、俺はビクッと肩を跳ねさせた。やばい、つい講義の疲れで放心してた。
振り返ると、そこには大学時代の先輩、藤井が立っている。ニヤニヤしながら、いかにも人の苦労を楽しんでる顔だ。
「先輩……。あの、まぁ、一応なんとか終わりました。」
「お、意外と順調だったんだな?」
順調だったのかどうかは、正直なところよくわからない。けど、ここで否定するとまたいじられそうなので、とりあえず曖昧に笑ってみせる。
「まぁ、そうですね。生徒の反応は予想以上によかったです。ただ、逆にそのせいでプレッシャーがすごいんですよ……」
「ははっ、お前がプレッシャー感じるなんて珍しいな。ってことは、案外恋愛カウンセラーって役割、向いてるんじゃないか?」
……いやいやいや。俺が恋愛カウンセラーに向いてるとか、どこからその結論が出てくるんだよ。
「いや、全然合ってないですって。そもそも、俺、恋愛経験なんてほとんどないですし。」
そう言った瞬間、先輩は何とも言えない顔でこっちを見た。半信半疑というか、呆れたというか、そんな顔。
「えっ、まさか本当に全然経験ないのか?」
「いや、まぁ……多少はありますけど、その……」
ごまかしのために言葉を濁してみたけど、自分でも何を言いたいのかわからない。先輩は少し笑いながら肩をすくめた。
「まぁ、いいさ。お前が正直なのは知ってるし、そこが逆に信頼される理由かもな。」
正直……か。それ、恋愛に関してはただの弱点でしかない気がするんだけど?
「で、次の講座、どうするつもりだ?」
次の講座……? そうか、もう次のことを考えないといけないのか。俺は頭をかきながら答える。
「どうしようかな、とりあえずもう少し恋愛理論を整理して、それを……」
「理論だけじゃ生徒も飽きるだろ。お前、もっと動きがある授業やってみたらどうだ?」
「動き、ですか?」
「例えばさ、ロールプレイとか。生徒たちにデートのシミュレーションをさせるんだよ。ほら、アドリブ力が鍛えられるってやつ。」
ロールプレイ、か……。言われてみれば確かに、それっぽい授業にはなるだろう。だが、ちょっと待てよ?
「それ、俺が指導するんですよね?」
「もちろんだろう。」
「俺、恋愛経験ないんですけど……」
「だからいいんだよ! 経験がない奴が教えると、新しい発見があるってもんだ。」
何その理屈? 経験がないほうがいいとか、そんなバカな話があるか。
「いや、でも俺、そういうの超苦手なんですけど……」
「大丈夫だ。何事も経験だ。ほら、お前もさっき授業で経験が大事だって言ってたんだろ?」
自分の言葉が完全にブーメランとなって返ってきた。いやいや、あれは生徒相手だから言っただけで、俺自身がやりたいわけじゃない!
「まぁ、やってみろよ。どうせ最初は拙くても、それがウケる場合もあるからさ。」
そう言って、先輩は肩を叩いて去っていった。軽いな、この人……。
教室に一人残され、俺は深いため息をつく。ロールプレイか……。どうやって進めるんだ? いや、それ以前に、俺にそんな指導ができるのか?
「やれやれ、次の講座が怖すぎる……」
恋愛カウンセラーの苦悩 せろり @ceroking2
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