第2話

薄暗く湿った空気が房全体を覆い、天井から滴る水音だけが響いていた。

シュウジはリゴに導かれながら、房の中で唯一の明かりとなる小さなランプの前に座り込んだ。


「ここではね、一日の始まりに配給があるんだ。と言っても、硬いパンと薄いスープくらいだけど…」

リゴはそう言いながら、自分の分け前をシュウジに差し出した。


「シュウジ君、昨日来たばかりでしょ?きっと体が慣れてないだろうから、少しでも食べておいたほうがいいよ。」


「いや…悪いよ。リゴさんだって食べないと…」


「いいんだよ。私は慣れてるから。」

リゴは優しい微笑みを浮かべたが、その顔は痩せこけて青白く、苦しい生活を物語っていた。


配給を食べ終えると、監視役の男が格子の外から再び怒鳴った。


「13番房!作業場に移動しろ!今日もお前らの命の価値を証明してもらうぞ!」


房の仲間たちは無言のまま立ち上がり、修二もその流れに従った。


作業場に到着すると、シュウジは目の前に広がる光景に言葉を失った。巨大な地下空間は暗闇の中でかすかに輝き、壁に掘られた無数のトンネルが迷路のように続いていた。鉱山のような施設で、奴隷たちがハンマーやツルハシを手に鉄鉱石を掘り出していた。


「ここでは毎日、決められた量の鉱石を掘らないと、配給が減らされるんだ。」

リゴが申し訳なさそうに説明する。


「少しでも遅れると、監視役に鞭で打たれる。僕も最初の頃はよく叩かれたよ。」


シュウジはツルハシを握りしめたが、全身に力が入らなかった。これが自分の新しい人生なのか――。


「何をぼーっとしてるんだよ!」

背後から声をかけてきたのは、房のリーダー的存在のガロンだった。


「サボるなら後で覚悟しとけよ!」


シュウジは焦りながらも、力の入らない腕で壁を掘り始めた。しかし、掘るたびに手のひらにできたマメがつぶれ、痛みが全身に広がる。


それから数日、シュウジは必死に作業を続けたが、体力は限界に近づいていた。食事もまともに摂れず、睡眠も十分に取れない生活が彼を徐々に追い詰めていく。


そして、ある日――作業中に異変が起きた。天井から小さな石が落ち始め、次第に振動が強くなったのだ。


「おい!逃げろ!」

リゴが叫ぶ声が聞こえたが、シュウジの足は動かなかった。


「なんだ…これ…」


次の瞬間、大きな轟音とともに天井が崩れ落ち、シュウジの視界は暗闇に包まれた。


シュウジは目を開けると、薄暗い房の中にいた。周囲には、見覚えのある光景が広がっている。


「ここは…また房…?」


頭を振りながら立ち上がると、格子の外では怒り狂った監視役が喚いていた。


「おい!13番房のクズども!さっさと起きて働く準備をしやがれ!」


その声は確かに聞き覚えがあった。シュウジが初めてここに来たときと、全く同じセリフだったのだ。


さらに、房の奥から近づいてくるリゴの姿に気づいた。彼は同じように小柄で痩せており、穏やかな笑顔を浮かべている。


「あ、あの、大丈夫かい?君、急にここに来たのかな?」


リゴの声も、仕草も、初めてここに来たときと全く同じだった。シュウジは驚きのあまり、声が出なかった。


「私はリゴって言うんだ。ここは13番房。あ、あの、しばらく一緒に暮らすことになると思うから…よろしくね。」


リゴの全く同じセリフにシュウジはただうなずくだけだったが、その心の中では恐怖と混乱が渦巻いていた。


「なんだ、これ…どうして…」


自分は死んだはずなのに、どうしてまたここにいるのか。シュウジは、状況を飲み込むことができないまま、その場に立ち尽くしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スキル『死に戻り』で地下奴隷から成り上がる......! @touzaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ