スキル『死に戻り』で地下奴隷から成り上がる......!

@touzaki

第1話

冬の冷たい風が、薄汚れたアパートの隙間から忍び込む。田島修二は机の上に散らばる借用書をぼんやりと眺めていた。そこに記された金額――500万円――その数字が彼の人生を狂わせた。


半年ほど前、友人の安藤に頼まれて保証人になったのが全ての始まりだった。

「修二、どうしても頼む!お前しかいないんだ!」


安藤の懇願に、修二は断れなかった。大学時代からの親友だったし、安藤が嘘をつくような人間だと思わなかった。しかし、安藤は借金を肩代わりさせたまま姿を消した。残されたのは、利息で膨らむ借金と取り立て屋たちの執拗な追い込みだった。


玄関を叩く音、電話のベル音、郵便受けに届く督促状。それらすべてが、修二の神経を擦り減らし、彼を追い詰めた。


「こんな人生、もう意味がない…」


修二は机の上に書きかけの遺書を見つめた。「ごめんなさい」の一言だけが書かれている。自分に残された選択肢はもうないと、そう思い込んでいた。


夜の街に出る。冷たい空気が頬を刺し、街灯が照らす道が遠くまで続いている。修二の耳には周囲の音がぼんやりと聞こえるだけだった。


修二はいつの間にか大通りに足を踏み入れていた。車が行き交う中、ふと足を止める。


「俺がここで消えても、誰も気にしないんだろうな…」


そう呟きながら、修二は前方から迫るトラックのヘッドライトを見つめた。眩しい光が視界を焼き付け、クラクションの音が鳴り響く。だが、修二はその場を動かなかった。ただ目を閉じて、全てが終わるのを待つ。


だが、次の瞬間――眩い光が全身を包み込み、感覚が遠のいていった。


目を開けると、シュウジは青々とした草原に横たわっていた。見上げる空には二つの太陽が浮かび、遠くには小さな村が見える。風が草を揺らし、見知らぬ鳥が空を舞う。


「ここは…どこだ…?」


呆然と立ち上がり、周囲を見渡す。目の前に広がる非現実的な光景に、シュウジは混乱しながらも胸に一抹の希望を抱いた。


「もしかして異世界…か?」


これまでの人生の全てを捨て、この新しい世界でやり直すチャンスかもしれない。シュウジはそう考え、立ちあがろうとしたそのとき――


「お兄さん、何してるの?」


背後から女性の声が聞こえた。振り返ると、そこには白い頭巾を被り、地面にしゃがんで薬草を摘んでいる若い女性がいた。彼女はシュウジを見上げて、不思議そうに首を傾げている。


「私、薬草を採ってるんだけど…お兄さん、もしかして道に迷った?」


女性の柔らかな声と優しい眼差しに、シュウジは思わずうなずいた。


「いや、迷ったっていうか…何が何だか分からなくて…」


「そっか。でも、この先に村があるから、とりあえずそこに行けばいいと思うよ。」


彼女は薬草を摘む手を止め、立ち上がると村の方向を指差した。


「ありがとう。助かるよ。」


シュウジは軽く頭を下げ、彼女に言われた通り村を目指した。そのとき、彼女の口元に一瞬だけ浮かんだ微笑みを、シュウジは気づかなかった。


村にたどり着いたシュウジは、親切そうな村人たちに迎えられた。木造の小さな家々が並び、煙突からは料理の匂いが漂う。子供たちが笑いながら走り回り、牛の鳴き声がどこかの厩舎から聞こえてくる。


「旅の者か?疲れているだろう。中に入れ。」


中年の村人がシュウジを案内した家には、暖かいスープが用意されていた。その香りに誘われるようにスプーンを口に運ぶ。久しぶりに口にするまともな食事だった。


「ありがとうございます…」


シュウジは感謝を口にしながら、少しずつこの世界に馴染む希望が湧いてくるのを感じた。だが、それも束の間だった。


翌朝、シュウジは手足を縛られ、奴隷商人に引き渡されてしまう。


「悪いな、旅人。お前を売れば村の財政が多少は助かるんでな。」


その言葉にシュウジは怒りと絶望を感じたが、抵抗も虚しく、意識を失った。


「おい!13番房のクズども!さっさと起きて働く準備をしやがれ!」


目を覚ますと、シュウジは薄暗い地下の房の中に転がっていた。頭上から怒声が響き、見上げると、粗末な革鎧を着た男が房の格子の外で怒鳴っている。


シュウジは周囲を見回す。房には他に数人の男が座っており、その中の一人が近づいてきた。彼は小柄で痩せた初老の男性だった。


「あ、あの、大丈夫かい?君、急にここに来たのかな?」


その内気な声に、修二は思わずうなずいた。


「私はリゴって言うんだ。ここは13番房。あ、あの、しばらく一緒に暮らすことになると思うから…よろしくね。」


リゴはオドオドとしながらも、優しい笑顔を見せた。彼はシュウジに房のメンバーを順に紹介していった。


ガロン

リーダー格の体格の良い男。房のまとめ役だが、粗暴な一面もある。

「ここじゃ力がすべてだ。サボったりしたら、俺だって容赦しねぇぞ。」


カズラ

陰気で皮肉屋の青年。どこか諦めたような目をしている。

「どうせ働いても何も変わんないけどね…」


ショータ

明るいおしゃべり男。少し軽薄だが、場を和ませるムードメーカー。

「ほら、せやから気ぃ落とさんといこや、な?」


「みんな、ここでは協力し合わないと生き残れないから…君も、頑張ってね。」


リゴの言葉は親切だったが、その裏には明らかな不安と緊張が感じられた。


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