第4話 私、は、裸だ。全裸だ。丸裸だ。素っ裸だ

 なんか向こうのペースに乗せられちゃっている気もするけれど、ウィースとかいうやつの付与を受けて、このコスチュームを着さえすれば、マールムの犯行を防ぐことができる。

 世界征服を阻止するとまでは言わないけれど、なんかすごいことができるんだ。

 さっきまで、いや、今でもそうだけれど、ただの高校生の私がねえ。

 でも、これ、本当に私がやらなければならないこと?


「これ、お断りすることってできますよね?」

「できるといえばできますけど、あなたは断らないでしょう。こんな好条件のバイトはそうはありませんよ」

 また東山さんが断言した。

 バイトはバイトなのね。

「ココロンさん、これは世界を救うことができる大切なお仕事です。それに、バイトですから、もちろんバイト代も出ますよ。研修もしっかりしていますし、半年ごとに昇給もあります」

 箕輪さんが身を乗り出してそう言った。


「でも、パパとママに何て言ったらいいんですか。世界を救うバイトをやるってなんて言ったら……」

「それは大丈夫です。弊社、つまり表向きの『スペシャルバイト社』で、事務のお仕事をするってことにしておきます。それに、出勤も週二回くらいで大丈夫です」

「勤務時間はどうなっているんですか」

「夕方に弊社に出勤していただいて、8時か9時にはあがれます。週二回くらいならば勉強や部活に支障はないでしょ?」


 部活は写真部に入ったばかりで、毎週水曜日の定例会以外は、時間の融通が効く。

 勉強は、二年生になったら予備校通いも考えたいけれど、今は大丈夫かな。

「なんでそんな時間なんですか?」

「マールムが動くのはだいたいそれくらいの時間だからです。銀行の営業時間中は、金庫への人の出入りがありますからね。私たちがマールムの行動を察知したら、ここから瞬間移動で現場に向かっていただきます」


「やってみてダメだったら、つまり実績が上がらなかったり、自分に合わないと思ったりしたら辞められますよね?」

「去年の半ばくらいに始めたプロジェクトですが、今まで自分から辞めた子はいません」

「怪我して引退したり、あの……殺されちゃったりしたことは……」

「さっきも言ったとおり、コスチュームがありますから、怪我をしたり、殺されたりした子もいません」

 箕輪さんも断言した。


 うん、断言されたからには信じて……いいかな。

 それならばいいのかな。やってみて考えようかな。

「ならば、まずはお試しということで……えっと、あとひとつだけいいですか?」

「何でもどうぞ」

 私が前向きに答えたからか、箕輪さんがにこやかに言った。


「さっきのコスチュームですけど、ここで着替えてから行くんですよね? 家から着て来るんじゃないですよね」

「そうそう、それもお話しなくては。いちいち着替えるの面倒でしょうし、少しでも早く現場に着かないといけないから、コスチュームはココロンさんに内蔵してもらいます」

 内臓? いや、内蔵か。

 どっちにしても不穏な言葉だ。


「な、内蔵って、手術で私の体に埋め込むんですか?」

「そんなことはしませんよ。私たちのウィースで、あなたに一瞬でコスチュームチェンジできる能力を与えます。いわゆる『変身』ですね」

 え、それって、まるで、正真正銘の。

「「そう、ココロンさんには、『魔法少女』になってもらいます」」

 箕輪さんと東山さんの声が揃った。


 という訳で、私、魔法少女になっちゃった。

 正確には、まだなることになっただけだけれど、こんなことあるんだね。

 もしかしたら、魔法少女って現実にあちこちにいたりするのかな。

 それで、これからどうする、どうなるのだろう。

 いや、「あれは冗談ですよ、高校生にもなって何信じているんですか」って言われるのに一票入れたい気もしなくはない。


「まずは瞬間移動のウィースをココロンさんに付与します。東山君、いいわね」

「はい」

 そう言って、箕輪さんと東山さんが両手のひらを私に向けた。

 手のひらから光がほとばしる。

な、なんか私の中にぐいぐい入って来るー!

ウィースを付与されるってこんな感じなんだ。


「これでココロンさんも瞬間移動の力を使えますよ。試しにこのコーヒーカップに右手を向けて、さっきの第二応接室に動かそうと念じてみてください」

 で、箕輪さんに言われたとおりにやってみた。

 目の前のコーヒーカップが、さっき東山さんがやったときのように消えた。

 マジ?


 第二応接室へ行ってみたらら、コーヒーカップがあった。

 おお、成功だ。

 これで私も魔法、いや、ウィースを使えるようになったんだ。感動。

 いや、感動していていいのかな? 外堀を埋められてきた気もするけれど。

 コーヒーカップを持って第一応接室に戻ったら、箕輪さんと東山さんが笑顔で迎えてくれた。


「まずは成功ですね。では、次に人間を移動させてみましょう。私を第二応接室に移動させるイメージを浮かべて、右手を向けて『ムーヴェンズ』と唱えてください。人間や大きな物のときは、その詠唱が必要です」

「あの、いきなり人間相手って大丈夫ですか。どこか変なところに飛ばしたり、想像すると嫌なんですけど、上半身だけ飛ばしてしまったたりとか……」

「それは大丈夫ですよ。これは研修ですから、私も飛ばされる先をイメージしますし、失敗したら、そもそも移動自体ができません。さ、どうぞ」


「はい、それでは、『ムーヴェンズ!』」

 私は箕輪さんに右手を向け、しっかり第二応接室をイメージしてそう唱えた。

 箕輪さんが一瞬光に包まれ、目の前から消えた。

 どうしよう、本当に瞬間移動させてしまった。

 移動させたんだよね。消し去ってしまっていないよね。


 恐る恐る第二応接室のドアを開けたら、箕輪さんが笑顔で立っていた。

「無事できましたね。習得、順調です」

 よかった~。

 安心から、私は膝から崩れ落ちそうになった。

「最後に、ご自身の瞬間移動の方法を説明します。これには更に集中力がいります」

 第一応接室に戻り、今度は東山さんが説明してくれた。


「え、もうそこまでできるんですか?」

「ええ、できますし、それが重要なんです。ただ、自分を移動させる場合は、物質や他人のときより高度な集中力が必要になります。さっきより更にしっかり行き先の場所をイメージして詠唱するのですが、その前に」

「ムーヴェンズ!」

 やってみた。


 一瞬意識が飛んだと思ったら、イメージした第二応接室に私は立っていた。

 やった、今度も成功だ!

 でも、なんか肌寒い。

 なんだろう、第二応接室、さっきはそんなことはなかったのに。

 もしやと思い、視線を下に落したら、私の自慢のふたつの丘が見えた。

 いやあ、形といい大きさといい、我ながらいつ見ても惚れ惚れする……じゃない!

「キ、キャー!」


 私、は、裸だ。全裸だ。丸裸だ。素っ裸だ。

 私の服―高校の制服とか下着とか―を抱えた箕輪さんが、部屋に飛び込んできた。

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2024年12月13日 08:00
2024年12月14日 08:00
2024年12月15日 08:00

善とか悪とか、魔法少女とか 結 励琉 @MayoiLove

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