第3話 魔法少女でも出てくれば話は別ですが

「マールムって一体何者なんですか。それに箕輪さんたちも、一体どういう人たちなんですか」

「さっきも言ったように、これは秘匿性の高いプロジェクトなので、今ここでははなんとも言えません」

 禁則事項ってやつかな。

「じゃあ、マールムってどういう意味ですか?」

「私たちティーツィアと逆で、『悪なる存在』くらいの意味とお考えください」

 今度は悪か。それより、一番気になることを聞かないといけない。


「あの、魔法とか世界征服って話になって驚いているんですけど、それが私に何の関係があるんですか。現実ではない、アニメとかラノベの設定を聞いているような気分なんですけど」

「この話、アニメやラノベにしたら売れると思いますか?」

 箕輪さんがイタズラっぽい笑顔を見せた。

 箕輪さんも東山さんも真面目な表情しか見せていなかったので、ちょっと驚いた。


「えっと、魔法少女でも出てくれば話は別ですが、これまで聞いたお話ではワクワク感やキラキラ感がないので、売れるかというとちょっと……」

「まあそうでしょうね。そうしたら、魔法少女が登場したらどうですか」

「箕輪さんが魔法少女になるんですか?」

 私がそう言ったら、プッと東山さんが吹き出した。


「箕輪リーダーの魔法少女姿、見てみたいですね」

「東山君!」

 箕輪さんが東山さんを睨み付けた。

 プロジェクトの責任者と言っていたし、このやりとりを聞く限り、箕輪さんが上司なんだね。


「残念ながら、私の年齢では魔法少女になれないんですよ」

 箕輪さんは二十代後半くらいに見えるので、「少女」ではないけれど。

「美魔女にはなれますよね……イテッ」

 箕輪さんが東山さんの足を踏みつけたようだ。

「説明を続けますね。魔法少女と言ってくれたので、話が早いです」


 マールムによる現金強奪を防ぐには、マールムが現われたことを察知して、銀行の金庫に瞬間移動して、ウィースを使いマールムと戦い、現金を強奪することを防ぐしかない。

それに取り組んでいるのが、このティーツィアプロジェクト。


「というのを、箕輪さんや東山さんが行うのですよね?」

「もう少し説明を聞いてください」


 ウィースを使うためには、その源泉である活力(ヴィガーと言う)が必要。しかし、活力ヴィガーは年齢を重ねるにつれ減っていき、貯めるのに時間がかかるようになる。

 活力ヴィガーが少ないと、小さな物質の瞬間移動はできても、大きなもの、たとえば人間を瞬間移動させることはできない。活力ヴィガーまた、一日に瞬間移動させられる回数も少なくなってしまう。

 その活力(ヴィガー)を一番持っているのは、十代中頃の少年少女で、なかでも少女が突出している。

 なので、自分たちがマールムと戦うことは、現実的ではない。


 あれ、話が変な方向に向いてきた。

 十代中頃の女の子って、これ、私、巻き込まれる?

 「ツイスター」のDMに釣られて、ノコノコとここにやってきたのがいけなかった?

 でも、ちょっとワクワクしてきた自分もいる。ほんのちょっとね。

「これ、もしかしたら私に、その戦う役をやれっていうことですか」

「ご理解が早くて助かります。その任務をお願いしたいと思っています」

 箕輪さんがにこやかにそう答えた。


 やっぱりそうか。いや、でも。いや、でも。

「でも、私にはそんな任務を果たせる力はありませんよ」

「ええ。でもさっき言ったように、私たちはウィースを他の人に付与することができますので、私たちのウィースをあなたに付与いたします。失礼ながら密かに調べさせていただいたところ、ココロンさんには、ウィースを受け入れる資質があります。そして、活力ヴィガーもたくさんお持ちです」

「はあ」


 いつの間に調べていたんだろう。私にそんな資質があったとはね。

「でも、危険はないんですか。マールムとかいう奴に殺されるとか」

「それはありません。マールムはそこまでやってはきません」

「でも、殺されないにしても、殴られたり蹴られたり、刃物で刺されたり……」

「それには対策があります。東山君、例の物を持って来て」


 いったん部屋を出た東山さんが、何か衣装を抱えて帰ってきた。

 腰のところがキュッと締まり、スカートの部分がふんわり広がったワンピース。

 白を基調に、ところどころにピンク色の柄があしらわれている。

 この衣装、どこかで見た記憶が……あ、これ、「まほだま」の主人公、弥生の魔法少女コスチュームだ。


「あの、これが何か……」

「ココロンさん、あなたが着るのですよ」

 東山さんが真面目な表情で言った。

「私にここでコスプレせよと言うんですか?」

「これが私たちの開発した、マールムの攻撃を防ぐコスチュームです。これを着れば、刃物や銃弾で傷つけられることはありませんし、あなたのように活力ヴィガーにあふれた方ならば、自分が瞬間移動させられるのも防ぐことができるのですよ」


 コスチュームが気になって、箕輪さんの説明がすんなり頭に入ってこない。

 なんかひっかかる感じがする。なんだろう? 

 その前に、このコスチューム自体のことだ。

「でも、箕輪さん、これどうしても、この前までテレビでやっていたアニメ、『魔法少女にだまされて』の主人公の衣装に見えるんですけど」

「ええ、そうですよ。『まほだま』、好きでしょ? 『ツイスター』にたくさん感想投稿していましたよね? どうせなら、好きな姿で戦いたいでしょ?」

 資質といい、好みといい、私のことを本当に調べてからDM送ってきたんだな。

「私たちは、皆さんに気持ちよく戦ってもらいたいと思っております」

 東山さんが言い添えた。


「皆さん?」

「ええ、ティーツィアプロジェクトがスカウトした人は、あなただけではありません。私たちのお誘いに賛同してくれて仲間に加わった方には、その人その人の好みに合ったコスチュームを用意しています」

 スカウトした人、ほかにもいるの?

「本当に、このコスチュームを着ていれば、なんの危険もないのですね?」

「怪我をしたり、瞬間移動させられる危険はありません」

 東山さんが断言した。

 危険がないのならば、いいの、かな。

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