日本の物価は、なぜ西欧と比べて安いのか? ――日本衰退論への別解

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日本の物価は、なぜ西欧と比べて安いのか? ――日本衰退論への別解

 ここ数年、日本の弱体化が嘆かれ続けています。

 その論拠は世界と――特に西欧と比較しての物価安。

 しかし、私には疑問でなりません。

 なぜなら――


 何もかもを輸入に頼る日本が、弱って物価安になるなんておかしい


 からです。

 もし本当に日本が衰退していて、円の購買力も落ちているのなら――


 あり得ないほど物価が高く


 でなければ変です。

 なぜなら円が弱り切っていたら、原材料や石油が高くなり過ぎ、それが値段へ反映するでしょう。


 日本が二流国、三流国へ没落していたら、なにもかもが高く、生活するだけで精一杯になるはず。

 しかし、現実には世界で一、二を争う物価安で――

 なぜか没落したはずの国に、あらゆる国から出稼ぎ労働者が訪日してます。


 確かにドル円の為替を参照すれば、円の実力は最盛期の66%。

 ですが「ゆえに日本の国力も2/3になった」とは言えそうにありません。


 そもそも独り勝ちに等しいアメリカは兎も角、自称GNP二位の中国はバブル破綻不可避。

 さらに中国へウェイトを置き過ぎたGNP三位のドイツは、巻き込まれが確定といいます。

 つまり、日本が世界二位へ復権するのは、時間の問題だったり。


 他の国々と比べたら、中国バブル崩壊の影響は少なく――

 戦争理由の経済不況もない――

 深刻な移民問題も、まだ全然の――

 実質GNP世界二位の国が――


 お先真っ暗でいつ破綻してもおかしくない?


 さすがに奇妙すぎます。

 というか数十年ぶりに日本政府も、デフレ脱却宣言を検討し始めているほどですし?



○みんな大好きアメリカは生活費掛かりすぎ問題


・まず日本の叩き台を


 年収の中央値423万円と平均値の551万円の平均――487万円辺りが、日本の中層階級といえる?

 さらに時給1500円で一日8時間、週休二日で月20日出勤の不正規労働者――288万円を。


 そして日米の比較なので、医療保険相当の差額が。

 詳しくは拙作の『本当にアメリカは豊かなのか? ――年収問題別解』を。

 ざっくりいうとアメリカと比べる時は、+116万円が見込まれます(あるいはアメリカ側を-116万円です)


 まず不正規労働者くんが月に5万円の家賃、一日の食費1000円で頑張っていると仮定。

 すると――


 229万円(手取り)-60万円(家賃)-36万円(食費)=133万円


 同様に中間層――妻は専業主婦で子供二人、家賃および食費は月々20万円の想定だと――


 328万円(手取り)-240万円(家賃&食費)=88万円


 大まか過ぎますが、これが日本人の可処分所得といえます。

 ……所帯持ちは厳しいですし、奥さんにパートしてもらわないと大変そうです。



・次にアメリカの叩き台を


 アメリカで日本でいうところの派遣さんやフリーター――ほぼ最低時給に近い仕事だと、年収3万ドルぐらいだそうです。

 手取りでは22500ドルぐらい。日本円換算で337万円ぐらいとなります。


 中間層は、ざっくり年収10万ドルぐらいですが、手取りでは6.5万ドルぐらいに。

 日本円換算で975万円となります。

 ……意外とアメリカは、日本より税金を取る模様。


 しかし、これらはニューヨークなどの物価の高い地域での数値。

 当然に家賃も高くなります。


 なんと日本でいう独身向けのワンルーム相当が、最低でも月々35万円。

 最低時給では、家賃すら払いきれません。

 そこで最安値クラスの物件をルームシェアし、月々20万円ぐらいに抑えるとか。

 中間層も家族向けとなると、安くて月々50万円前後。

 しかし、あまり詳しくない私ですら地名を聞いたことがあるような、極めて治安の悪そうな地域となります。


 ですが食費は、かなり安く抑えられたりも。

 一人暮らしだと平均的な食費が250ドル前後――日本円で4万円ぐらい。

 四人家族で600ドル前後――日本円で9万円ぐらい。

 自炊すれば、大きく日本と変わらない感じでしょうか?


 またフードスタンプという制度があるようで、困っている人ならば誰でも支給して貰えるそうです。

 これが月々100~150ドル――日本円にして2万円前後、世帯にも300~400ドルで5万円ぐらいだとか。

 ……まあ、ぶっちゃけ日本でいうところの生活保護ですが。



337万円(手取)-240万円(家賃)-48万円(食費)=49万円


975万円(手取)-600万円(家賃)-108万円(食費)=267万円


 しかし、ここで日本と比べるのであれば、医療保険相当の116万円を考えねばなりません。



☆可処分所得


        日本    ニューヨーク


不正規労働  133万円  -67万円


中間層     88万円  151万円


 ニューヨーク在住の最低時給でフルタイム働く人たちは、可処分所得がマイナス――つまり、贅沢は一切できないか、病気になったら破産。

 中間層は日本より余裕がありますが、中間層の数は日本より圧倒的に少なかったりもします。

 ……というか『最低時給でフルタイム働く人たち』より下の層が多くいる時点で、だいぶ日本とは事情が違いますし。


 おおまかにいって日本の平均的な人々は、ニューヨークなどアメリカの物価が高い地域の人々と比べ――


 約三倍の可処分所得がある


 といえそうです。



○大半の謎は、可処分所得で説明できたりする


 大多数の可処分所得が少ないと、とある現象が発生します。それは――


 あらゆる商品が高騰する。それも非生活必需品ほど顕著に


 です。

 別の言い方をすれば市場の購買力が低すぎで――


 薄利多売が成立しない


 とも。

 日本の牛丼屋チェーンなどは本社利益10%とかいいますが――


 それは大量に売れるから成立


 です。

 平均的な牛丼チェーン店は、一日に40万円ぐらい売り上げ、それの10%だと4万円のあがり。

 しかし、市場購買力が低過ぎたら――仮に売り上げ20万円だったとしたら、商売が成り立たなくなります。

 その場合、本社利益20%とする訳ですが、それは値段へ跳ね返り、最低でも1.1倍しないと駄目です。

 ですが値段を1.1倍としてしまうと、客足が減ります。

 でも、その分を値段へ転嫁すると、さらに客足が!

 これは牛丼なら、まだマシだったりも。

 なぜなら食べねば働けませんし、外食は贅沢といっても日常より。

 でも――


 基本的に食べなくても生きていける高級料理の場合は?


 つまり、アメリカで外食が異常に高いのは、市場購買力が低すぎるから!

 寿司やラーメンを外食しなくても、べつに死にはしません。貧乏なら我慢!

 高級レストラン?

 人が高級レストランで食べねばならぬのなら、神は生まれた時に優待クーポンを握らせておくはず!

 ……客足の少ない、それらの店は、とんでもない値段でしょうしね。


 また日本で玩具の類が買い漁られるのも、同じ理由となります。

 やはり市場購買力が低すぎて、売れ残りリスクを値段へ転嫁せざるを得ず――


 非生活必需品は、なんでもかんでも高い


 となります。

 全く同じ商品でも、日本と同額で売ったら、メーカーや小売りが成り立たないのです。

 色んなお菓子が売られているのだって――


 挑戦的な新商品だろうと、日本でなら売り抜けれる


 から(上から下まで、それこそ変人に至るまで購買力があるとも)



○でも、価格の大半って人件費じゃね?


 違います。

 価格の大半が人件費だからこそ、異常インフレ下では、より大きなウェイトを占めることに。

 すでに考慮したニューヨークなどでは、最低時給をフルタイムで働いても生活が困難と判りました。

 つまり――


 最低時給では、人が集まらない


 となります。

 なぜなら、その値段で働いたら貧乏になるから。

 もう最低時給では、追い詰められた人しか応募しなくなり――


 結果として人件費も暴騰


 となります。

 ですが価格の大半は、人件費だから――


 人件費につられて価格も暴騰!


 そして物価が上がれば、生活も苦しくなるので、労働者も安い賃金では働かなく――というより、働けなくなります。

 つまり――


 価格につられて人件費も暴騰!


 エンドレス暴騰スパイラルの始まりであり、これがアメリカの大都市で起きていることでしょう。

 もちろん、この価格暴騰は可処分所得の価値を減じさせ――

 当然に価格へと跳ね返ります。


 ……出口なし?



○なぜ日本に外国から出稼ぎが来るのか?


 外国人だろうと、どちらの国でも最低時給ならフルタイムに働くのは容易でしょう。

 しかし、アメリカで稼げる可処分所得は、49万円に過ぎません。

 日本と比べて84万円も低い結果に!


 そしてアメリカの日常に詳しくはありませんが、最低時給のフルタイムで営める生活は、あまり快適に思えません。

 というより日本と比べたら、かなりハードモード?


 大多数の出稼ぎ外国人さんは、日本で働く方が母国へ仕送れる金額は多そう。

 アメリカで出稼ぐのが有利なのは、現地のエリートと競争できるような有能さんだけでしょう。

 ……アメリカへ出稼ぎにいった日本人の成功談が、極端に少ないのにも頷けたり。

 極論をいえば、日本でフリーターしてた方が儲かりますから(not有能さんの場合)



 また日本の人件費が安いのは――


 最低時給でも働く人がいるから


 だったりも。

 一人暮らしで年収300万弱なら、まあまあ余裕の生活できますしね。

 なんといっても日本は、家賃、光熱費、物価、食費――ありとあらゆる物が、世界平均で安い!

 ……賃金もですが。



○そして余程のミスをしない限り、円安死亡はない


 様々な指数がありますが――


 適切なドル円レート


 って調べたことありますか?

 実は1ドル=120~140円ぐらいが、輸出と貿易の両方で具合いいそうです。

 つまり、1ドル=100円は、それはそれで歪な数値だったと。

 そして現在のレートも適正値から1割ぐらいしか超過しておらず、いつでも目指すべきレンジ内へ戻せたりします。

 ……というかトランプ大統領の就任と同時に、日本政府へ円安解消を迫ると思われ。

 なにかと為替操作を非難する人だったような?

 むしろ、その時に戻す分を確保しているとすら?



○もしかしたら日銀の言い分は、ある意味で正しい!?


 緩やかな円安是正


 スタグフレーションへの移行を警戒した、緩やかなインフレと賃金上昇


 分かり難くて意訳するしかなかったのですが、ようするに掲げられた目標がこれ。

 「何にもしない人だなぁ」との感想も多そうですが――


 このまま緩やかに賃金を上げつつ――

 1ドル130円ぐらいまで戻し――

 アメリカの異常インフレが終息すれば――


 結構、見通しは明るいといえるんじゃ?

 少なくとも日本は終わりとは思えませんし――


 氷河期を思い返せば、日本経済はかなりの回復基調


 とすら?



◎まとめ


・円安の影響はあるけど、1ドル130円ぐらいが適正値だよ


・日本の物価が安いのは、市場の購買力があるからだよ


・日本の賃金が安いのは、十分に生活できるからでもあるよ


・日本人は、かなりの可処分所得がある方だよ


・西欧へ行ったからって、出稼ぎ成功とは限らないよ

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