第5話 九谷焼の歴史を知る

九谷焼の猫と小皿が私の日常に加わってから、部屋の空気が少し変わったように感じる。朝起きて、これらの九谷焼を眺めると不思議と心が落ち着く。そんなある日、あの骨董市の店主が言っていた「九谷五彩」という言葉が頭に浮かび、もっと知りたくなった。


私はネットで九谷焼の歴史を調べてみることにした。検索をかけると、数多くの記事や写真がヒットする。画面に映し出された鮮やかな器や壺は、それぞれが芸術作品のように見えた。


九谷焼の歴史は17世紀にさかのぼるという。江戸時代初期、九谷村で始まったこの焼き物は、当時としては珍しい大胆な色使いとデザインで人気を博した。しかし、九谷焼の制作は一度途絶え、その後、再興された歴史があると書かれている。


「一度途絶えたって……?」


その事実に驚きながら、さらに読み進める。江戸時代中期に加賀藩の支援で再興され、その後もさまざまな技術革新を経て、現在に至るまで続いているらしい。そして「九谷五彩」と呼ばれる五つの色――赤、黄、緑、紫、青――は、九谷焼の特徴的な色使いとして今も愛されているという。


そのカラフルで鮮やかな色彩は、私が持っている猫や小皿にも反映されている。これらの作品が生まれる背景には、職人たちの膨大な努力と伝統の継承があるのだと知り、私は胸が熱くなった。


その夜、九谷焼の猫を眺めながら、私はふと考えた。途絶えてしまったものを再び作り出す。その過程には、どれだけの苦労と情熱があったのだろうか。作り手たちが受け継ぎ、守り、そして新しい時代に適応させてきた姿が目に浮かぶようだった。


「私も、何かを守れるだろうか……」


九谷焼のように、何かを受け継ぎ、次のステージへと進めることができるのだろうか。自分の心の中に湧き上がるその問いに、私はまだ答えを出せなかった。


次の日、骨董市の店主を訪ねてみることにした。九谷焼のことをもっと知りたい。その気持ちは、日に日に強くなっていた。


「また来てくれたんですね。何か気になるものでも?」


店主の穏やかな声に安心しながら、私は自分が調べた九谷焼の歴史について話した。


「九谷焼が一度途絶えたこと、それから再興したこと……。職人さんたちって、本当にすごいですね」


「そうですね。九谷焼は途絶えたけれど、その後の再興によって、より強く、美しくなったんですよ。途絶えたことも、無駄ではなかったのかもしれませんね」


途絶えたことが無駄ではない――その言葉に、私は深く考えさせられた。私の不安症も、ただの障害ではなく、何かを築くための一つの経験になるのかもしれない。そんな可能性が心に浮かぶ。


「九谷焼の歴史って、まるで人生みたいですね」


思わず口をついて出た言葉に、店主はにっこり笑った。

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不安症な私と、九谷焼のちょっとしたお話 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92

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