【考察】なぜ学園物の主人公は教室の窓際最後列に座るのか

酒月うゐすきぃ

【考察】なぜ学園物の主人公は教室の窓際最後列に座るのか

※ここに書かれているのは一個人の考察であり、作文のルールやセオリーではないことにご留意ください


学園物の小説では、主人公が教室の窓際、それも最後列に座っていることが多いように感じる。

もちろん例外も数多くあるだろうが、小説だけでなくギャルゲーやエロゲーといった文章媒体では、こうした傾向が強いのではないだろうか?


なぜ、主人公は一様にこの席を獲得するに至ったのか。

これは、「描写を挟みやすく、物語を動かしやすい」といった理由があるのではないかと考えている。


例えば授業中。

主人公が不良生徒で、教師に怒られていたとしよう。

この際、教室の最後列に座っていると、主人公と教師の間にクラス全体が入ってくるので、教室全体を巻き込んだシーンになる。

こちらを見てニヤニヤと笑っている悪友や、心配そうにおろおろしている学級委員長の様子などを描写できるだろう。


もしこれが最前列だったらどうだろうか?

主人公と教師の距離が近すぎて、他の生徒の様子がわからない。

「怒られている様子を、クラス全体が嗤っているのではないか」

というような個人の内面を描いたり、不安を煽る描写や作風には適しているかもしれないが、視野を広く取るのは難しく感じる。


怒られているシーンだけでなく、成績優秀な生徒が前に出て黒板の問題を解くシーンなんかでも、最後列は生きてくる。

問題を解き終わり、自席に戻るまでにたっぷりと時間があるので、ライバルの悔しがるシーンや羨望の眼差しを受けるシーンなどを挟みやすい。


窓際というのも、同様の理由が考えられるだろう。

教室の出入り口から、一番遠い席である。

遅刻した時、教師にバレずにこっそりと席までスニーキングするやり取りや、弁当を届けに来た幼馴染が小言を垂れながら近づいてくるのに、十分な時間を稼げる位置だ。


また他のクラスの教室というのは、妙に入りづらい雰囲気だったりする。

それが別の学年ともなるとひとしおだ。

気弱な後輩が入り口で躊躇している様子を、悪友がでかい声で「後輩の娘がお前に用だってさ!」なんて言おうものなら、先ほど同様に教室全体を巻き込んだイベントに昇華される。


他にも窓際であれば、校庭で体育をしている他のクラスの様子を窺うこともできるし、遅刻してきた転校生や校門に訪れた不審者にいち早く気付くこともできる。

考える時間や行動までの猶予、選択肢が格段に多いのが、窓際最後列という席なのだ。


個人的には、この考え方をうまく利用しているのが『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズだと思っている。

主人公(物語の語り手)である「キョン」の席は、窓際の「最後列から2番目」なのだ。

そして最後列に座っているのは、主要人物のハルヒである。

つまりキョンは授業中、おおむねクラス全体を把握できるにもかかわらず、突拍子で行動の読めないハルヒの様子だけは、把握することができない。


涼宮ハルヒシリーズでは、徹底してキョンの一人称視点で物語が描かれている。

このため、教室ではキョンが振り向かない限り(無理やりハルヒに引っ張られた場合は別だが)ハルヒの様子は描写されないのだ。

書き手の席順で、「何を考えているのかわからない」という特定の登場人物の性格をうまく描写しているなと、勝手に解釈している。

あくまで私が勝手に。


ちなみに、マンガやアニメでは、この席順が当てはまらない気もする。

マンガの場合、文章で説明する小説と異なり絵で情景を描写できるため、FPSというよりはTPSに近い。

なので、どちらかというと教室中央付近の方が、見栄えという面でいいのではないだろうか。

マンガにおける窓際最後列は、むしろ影のあるキャラが座っているケースが多い印象だ。


もちろん、作品のジャンルにも大きく左右される。

「教師やクラス全体から隠れてこっそり繰り広げられるやり取り」を多用する作品では、小説同様に窓際最後列が好まれている。


いずれにせよ、席順ひとつで描写の幅や展開できる表現が大きく異なるのは事実だと感じている。

何をどう書きたいか、キャラにどんな景色を見せたいかで席を考えるのも、書き手の楽しみのひとつではないだろうか。

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【考察】なぜ学園物の主人公は教室の窓際最後列に座るのか 酒月うゐすきぃ @sakazukiwhisky

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