第2話 実力試験からケーキ屋へ

 婚約破棄をされ、魔法学校へ入学する事になったロザリー・ラムール。

 彼女は今、退屈な入学式に欠伸を噛み殺していた。

 

 一応は侯爵令嬢であるロザリーだ。

 さすがに退屈だからと言って抜け出す訳にも、居眠りをする訳にもいかない。

 

(ですが、退屈ですわ……)

 

 ロザリーは親も呆れる生粋の魔法オタク。

 魔法を使いたくて使いたくて仕方が無い。

 

(でも、これが終わったら実力試験ですわ。実力試験が始まれば魔法を使える……それまで気を引き締めないと)

 

 ソワソワと、魔法の事だけを考えているロザリーの耳にお目当ての言葉が聞こえてくる。

 

「では次に、実力試験の案内です。この後、試験会場となる闘技場へ順に移動していただきます」

 

 若い教師が淡々と語る。

 

「と言っても、入学前におおよその実力は分かっていますので、クラス分けのための最終確認だと思って、緊張せずに挑んでください。一番得意な魔法を見せてくれるだけで良いので」

 

 以上。と教師が話を切り上げると、それを合図に待機していた教師たちが誘導を開始した。


(強い方を見つけて、ぜひその方とお友達になりたいですわね)


 強くなるに手っ取り早いのはやはり強い人との関わりだろう。

 ここから更に立場のある人とのコネクションができたら最高だ。


 ロザリーはニコニコと満面の笑みを浮かべ、誘導に従うのだった。

 

 ――――――


 闘技場は6つのスペースに区切られ、6人ずつ同時に魔法を披露していく。

 見せる魔法は個性豊かだった。

 生活を支える便利な物から実戦で役立つ攻撃魔法まで、様々な魔法が繰り出されている。

 

「わぁ、すごい威力。……あちらはお裁縫かしら? 凄いですわ〜」

「……よく、観察されていらっしゃいますね」

 

 思わず感動を口から零していたロザリーに、同じく新入生の男子生徒が声をかけた。

 

 令嬢としては背が高い方のロザリーよりも遥かに大きな生徒だ。

 暗い青の髪をポニーテールにまとめた灰色の目の生徒。


 ピシッと着こなした制服にはシワひとつ無い。

 背筋も、中に板でも入れているのかと思うほどにシャンと伸びている。

 ついでに言えば髪も一糸乱れぬストレート。

 端的に言えば、ものすごく真面目そうな生徒だ。


 しかし前髪に白いメッシュが入っている。

 今王国内で髪に色を入れるのが流行っているからだろうか?


「魔法が好きなもので……つい、興奮してしまいましたわ。お恥ずかしい」

「なるほど。私もこんなにたくさんの魔法を一度に見るのは初めてです。熱心に見られていたのでつい、声をかけてしまいました」

「こんなにたくさんの魔法を見せられたら、どんな魔法をお見せしようか迷ってしまいますわね……」

「一番得意な魔法、と言われてしまうと逆にプレッシャーを感じてしまいますよね」

 

 会話が弾む。

 話している間にお互いの番が来た。

 生徒の名前が順に呼ばれていく。

 

「――ロザリー・ラムール、エリック・デュカス。以上6名、前へ!」

 

 号令がかかり、呼ばれた生徒がそれぞれのスペースへ移動する。


「わたくし達の番ですわね!」

「えぇ。お互い、頑張りましょう」

 

 名前を呼ばれた順を考えるに、真面目そうな彼はエリック・デュカスと言うのだろう。

 

(エリック・デュカス……どこかでお名前を聞いたような気が――)

 

 思考を遮るように、開始の号令がかかる。

 

 ロザリーを含む各々が得意な魔法を繰り出そうとしたその時、会場の気温が一気に下がり、地面が凍結し始めた。

 そしてエリックのスペースに、巨大な氷の柱が立ち上がる。

 

「あら! 凄まじい氷魔法ですわね!」

 

 他の生徒の比にならない圧倒的な魔法を見せられ、ロザリーのライバル心に火が灯る。

 

「対抗致しますわ!」

 

 同じ魔法を見せるのは芸が無いし、見た目の華やかさに欠ける。

 

 下がった気温を取り戻すように、ロザリーは巨大な炎の柱を生み出した。

 

 立ち上る炎と黒煙。エリックが驚いたようにロザリーを見、ぐっと表情に集中力を滲ませる。

 そして溶けかけた氷を更に凍らせた。

 

「やりますわね……なら――」

 

 思わず楽しくなってしまって、もっともっとと炎の威力を強めようとした所で「止め!」と強めの号令が聞こえた。


「なんだあの威力」

「二人共凄すぎないか?」

「闘技場壊れるんじゃない?」


 周囲のざわめきが耳に入る。

 

「……やり過ぎたかしら」


 ロザリーは、ほんのりと冷や汗をかいた。

 

 ――数時間後。

 

 幸い闘技場や他の生徒に被害は無かった。


 多少小言は言われたが、その程度だ。何なら少し褒められた。

 ロザリーはその事を嬉しく思いながら、学校の中を歩き回っていた。


 魔法学校内にはレストランやカフェ、服屋等の店舗がいくつかある。

 全寮制という事も有り、学園外に出る機会の少ない生徒達が不自由なく過ごせるように、と建てられたらしい。


 しかし、ロザリーの目的は買い物ではない。

 

 先程出会ったエリックを探しているのだ。

 

(エリック・デュカスと言えば、王国魔法騎士団騎士団長のご令息のお名前でしたわ。

 最強の魔法使いを目指すのであれば、魔法騎士団への入団は最終目標になるかしら?


 となれば、いずれは騎士団長になる可能性の高いエリックと親睦を深めておけば、後々の都合が良いはずですわ! )

 

 そんな下心と打算を抱きながら歩いていたロザリーの鼻を甘い香りがくすぐる。

 

「ケーキの匂いだわ!」

 

 ロザリーはケーキが大好きだ。

 エリックの事など一瞬で頭から抜け落ち、匂いにつられて歩き出す。

 

 と、その先で少し離れた場所からショーウィンドウ越しのケーキを見つめるエリックの姿を見つけた。

 

「はっ! 見つけましたわデュカス様。ちょうど良いですし、声をかけてみましょう……!」

 

 ロザリーは足速にエリックの元へ駆け寄った。

 

 ――――――

 

 エリックは少し離れた場所からケーキ屋を眺めていた。

 入学式に実力試験を経て、疲れた体に糖分を補給したかった。

 

 何より、彼はケーキが好きだった。

 

(でも、僕が入って行ったら変だよね……)

 

 ショーウィンドウを鏡として利用している体を取り繕い、元々シワも汚れも存在していない制服を更に整える。

 

 父親から求められるがまま、真面目に生きてきたエリック。

 入学前に「真面目すぎて華がない」と姉に言われ、半強制的に前髪へ入れられたメッシュを整える。

 

(似合わないよなぁ)

 

 ふぅっとため息を着く。

 この先魔法学校でやっていけるのか……不安になるエリックの元に、彼の人生を変える少女――ロザリーが近付いていた。

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2024年12月12日 18:02 毎日 18:02

婚約破棄令嬢の魔法無双〜気ままに無双していたらいつの間にか逆ハーレムになっていた〜 空花 星潔-そらはな せいけつ- @soutomesizuku

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