婚約破棄令嬢の魔法無双〜気ままに無双していたらいつの間にか逆ハーレムになっていた〜

空花 星潔-そらはな せいけつ-

第1話 婚約破棄、そして魔法学校へGO!

 スパン! と勢いをつけて扉が開かれる。

 

「お父様!!!」

「ロザリー、扉は丁寧に開けなさい」

 

 扉が開くと同時に、ラムール侯爵家長女のロザリーは父の書斎へ飛び込んだ。

 今年17になる令嬢に有るまじき無作法だが、彼女の父、ラムール侯爵はもう諦めているようで、軽い注意だけで済ませる。

 

「助けてくださいお父様! わたくし、今さっき婚約破棄されましたの」

「あぁ。知ってるよ」

「どうしましょう、彼に捨てられたらもう、わたくしの貰い手なんて居ませんわ」

「よく分かっているじゃないか」

 

 ロザリーは一目見るだけであれば人形のように可愛い容姿をしている。

 暗い青の瞳と、赤みがかったピンクの髪、雪のように白い肌。

 艶のある長い髪をサイドテールにまとめ、気品と同時に明るさを感じさせる少女だ。


『ロザリーより可愛い人は見た事が無い』

『美の女神としてロザリーを紹介されて疑う人は居ない』

 

 そんな風に言われる彼女だが、彼女は17年間かけて着実に、の称号を得ていた。

 というのも、ロザリーは魔法・・が好きすぎるのだ。

 

 魔法は教養だ。

 貴族たるもの、魔法の1つや2つ使えて当たり前。


 だから、幼い頃から令嬢なのに野を駆け回り木登りをし、ドレスを泥まみれにするロザリーが魔法に夢中になった時、両親はひたすら安堵した。

 

『ようやく令嬢らしい事をするようになった……』

 

 と。

 

 しかしロザリーは魔法の才能を開花させてしまう。

 

『お父様! 見てください! 火をつける魔法です!』

『見てくださいお父様! 今度は水を出す魔法ですわ!』

 

 2つの魔法を7歳で極めた辺りから、両親は怪しいと感じていたらしい。

 

『風の魔法と土の魔法を極めました!』

『聞いてくださいお父様! わたくし、新しい魔法を開発しましたの』

 

 12歳の時、ロザリーが新たな魔法を開発したと聞き、父は頭を抱えた。

 

 確かに貴族にとって魔法は教養だ。

 

 だが、全て極めて新しい魔法を作り出すのはもう、それは魔女とか学者とか、その辺りの仕事だ。貴族の仕事とは言えない。

 

 特にロザリーは女性。

 妻に魔法で劣るのは恥と言われるこの社会で、ロザリーを欲しがるような人は居なくなってしまう。

 

 それでも救いは有った。ロザリーには、婚約者が決まっていたのだ。

 

 婚約者はかなり頑張ってくれた。

 ロザリーが魔法を極める度、新しい魔法を極めてくれた。

 

 ロザリーより強くあろうと努力してくれた。

 

 が、ついに限界が来たらしく、泣きながら婚約破棄させてくれと頼まれた。

 

 ……父は、快諾した。

 

『今まで、よく娘に付き合ってくれましたね……。ありがとうございます。後のことは私に任せてください』

 

 気付けば婚約者を労っていた。

 2人で泣きながら抱擁をし合ったほどだ。

 

 父は覚悟ができていたのだ。

 

 ロザリーは必ず婚約者される。

 

 そしてその後の貰い手なんて絶対に現れない。

 

 だから――


「ロザリー。これを見なさい」


 一枚の紙――魔法学校への入学証書をロザリーに差し出す。

 

「これは、魔法学校の……」

「校長に話を通し、入学の枠を作ってもらった」

「え、良いのですか? 魔法学校になんて行ったら、いよいよわたくしの貰い手は居なくなりますわよ?」

「……もう婚約はいい。そんなに魔法が好きならもう、せめて最強の魔法使いでも目指しなさい」

 

 婚約は良い。

 令嬢としては価値が無いと宣言されたようなものだ。

 並の令嬢であればショックで気を失ってもおかしくないような宣言だったが――

 

「わ、わたくし、精一杯最強を目指しますわ!」

 

 ロザリー魔法バカは大きな青い目を輝かせていた。

 

「……はぁ」


 父は諦めた目でため息をついた。

 

 ――と、言うわけで。

 

「魔法学校にやって来ましたわ〜!」

 

 春。

 魔法学校の敷地に足を踏み入れたロザリーの表情は晴れやかだ。

 

 ロザリーの元婚約者は無事、ロザリーの妹と婚約した。

 ラムール家を継ぐのはロザリーの兄。

 つまり、ロザリーは正真正銘、立場を気にしなくても良い自由の身という訳だ。

 家族から見放された、とも言うが。

 

 ロザリーはずっとこの時を待っていた。

 父に魔法学校への入学を勧められた時からではない。


 魔法が好きになったその時から、ずっとだ。


 ロザリーは自分の実力を試したかった。

 世界に知らしめたかった。


 しかし、婚約者という存在に縛られる令嬢という立場が有る以上、その夢を叶える事は叶わない。


 だから、ずっとずっと根回しをし続けたのだ。

 さり気なく婚約者に対して婚約破棄・・・・の話題を意識させるように仕向けたり、父に魔法学校の存在をそれとなく知らせてみたり。


 魔法が凄いというアピールも欠かさず行い、そして今、晴れて魔法学校への入学が叶ったというわけだ。


(そろそろ入学年齢になると言うのに、中々婚約破棄を切り出してくれなかった時はどうした物かと思いましたが……)


 魔法学校へ行きたい、と婚約者にそれとなく言ってみた事が項を成した。

 何はともあれ、魔法学校へ入学する事が叶ったわけだ。

 

「わたくしの寮は――」

 

 入学前に貰った案内を、魔法で宙に表示させる。

 

「あちらですわね!」

 

 案内に従い、寮を目指して歩くロザリー。

 

 今後の予定表を眺めつつ、いかにして最強の魔法使いになるかを考えている彼女はまだ知らない。

 

 この学園生活の中で個性豊かな仲間に溺愛されていく事を。

 そして、いずれ最強の聖女として崇められる事になる事を――

 

「入学式の後には実力試験が有るのでしたわよね。楽しみですわ〜」

 

 両親はあまり魔法に詳しくなく、ロザリーの魔法を評価してくれる大人は周囲に居なかった。

 どんな評価をしてもらえるのか、ワクワクしている。

 

「ランキング上位2名は生徒会に入る事になるらしいですし、まず目指すはそこですわね」

 

 目に見える形で実力を示す事ができるのも嬉しい。

 

「魔法学校、頑張って行きますわ〜!」

 

 ロザリーは手を空へ突き上げ、高らかに決意を叫ぶのだった。





――あとがき――――――――


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