第2話 エースパイロットくんと、不本意な噂

『先輩はおっきいおっぱいより、ちっちゃいおっぱいが好きなんですか?』


「うるさい。黙れ。作戦用の回線でなんて話をしやがる」


 いつもの帰投中。

 高速で星の海を移動する搭乗機兵ウォーアーマーのコクピットで、俺は通信機に向かって静かにまくしたてた。


『だってー、先輩ってば昨日アオイちゃんのおっぱい揉んでたでしょ? あたしのおっぱいは揉んでくれないのに』


 スピーカーの向こうで、オペレーターのリナンが拗ねたように言う。

 人聞きの悪いことを言うな。

 俺がお前の胸を揉むような関係だと思われるだろうが。

 アオイ……は、アオイ・ミヤマ伍長のことか。

 確かリナンと同期で仲が良い兵士だが、このバカ野郎と違って、良識ある淑女だったはずだ。


「転びそうになったミヤマ伍長を、たまたま支えた時の話か。そんなこともあったな」


『びっくりしましたよー。街で二人を見かけたと思ったら先輩がアオイちゃんを押し倒しておっぱい揉んでるんですもん』


「揉んでいないし、そもそも押し倒していない。体に触れたのも、支える以外の意図はない」


『いやいや、先輩めっちゃビンタされてましたし。アオイちゃん顔真っ赤にして走り去ってったじゃないですか』


「誤解だ。支える時に少しミヤマ伍長の体に触れてしまったが、それは支える以上仕方ないだろう」


『やっぱり触ってるんじゃないですかー。アオイちゃん、スタイルいいですもんね。先輩があの形の良いおっぱいに劣情をもよおして襲っちゃうのも無理ないか』


 俺はため息をついて、頭を抱える。

 そもそも、この件はミヤマ伍長に謝って誤解はもう解いてあるし、彼女も手を上げてしまったことを謝罪してくれた。

 なのにどうして俺はリナン相手にこんなしょうもない釈明をしないといけなかったのだろうか。

 しかも、搭乗機兵の操縦中に。


「もういいだろう。終わった話だ」


『えー、先輩なんか必死過ぎませんー? あ、そうか。心配しなくても大丈夫ですよ』


「なにが?」


『あたし、一時の浮気は許すタイプですから。先輩がアオイちゃんと良からぬ関係になっても、最後にあたしのところに戻ってきてくれるなら大丈夫ですっ』


 その心配はしてない。

 むしろ俺とお前は付き合ってない。


『外に女を作った先輩の帰りを待つあたし……。なんて健気……っ』


 リナンの発言の後ろで、オペレーター室が騒ついているのが聞こえる。

 この時のやり取りのせいで、俺はリナンを弄びながら、ミヤマ伍長に手を出す鬼畜野郎として、基地内で噂になったのだった。

 不本意過ぎる。

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2024年12月13日 12:32
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エースパイロットくんと、オペレーターちゃんと。 路地浦ロジ @roji041

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