届かぬ想い、止まらぬ誤解
(隆・40歳)
その日、美咲と話をしていた時、彼女が突然「そろそろ帰ります」と言い出した。正直、まだ時間があると思っていたし、もう少し一緒にいたかった。だから、自然に「送っていくよ」と提案したんだけど、彼女の反応は思った以上に冷たかった。
「いや、大丈夫です。自分で帰れますから……」
彼女の急な態度に少し驚いたけれど、そんなに深くは考えなかった。若い子は恥ずかしがり屋だし、感情を素直に出せないものだ。きっと、彼女も本当は俺の優しさに気づいてるはずだ。だから俺は、彼女を安心させようと、軽く腕を掴んで笑顔で言った。
「遠慮しなくていいよ。俺に任せてくれたら安心だろ?」
でも、その瞬間、彼女がまるでびっくりしたように、腕を引っ込めて一歩後ろに下がった。何かがおかしい。どうしてそんなに警戒するんだろう?もしかしたら、まだ心を開けていないのかもしれないけど、時間をかければきっとわかってくれるはずだ。俺たちはまだ始まったばかりなんだから。
(美咲・18歳)
彼が「送っていくよ」と言った瞬間、全身が固まった。冗談で言っているのかと思ったけど、その表情は本気だった。なんでこんなこと言うの?ただの会話をしていただけなのに、急に怖くなった。心臓がドクドクして、息が苦しくなってきた。
「いや、大丈夫です」となんとか言葉を絞り出したけど、彼の顔は自信に満ちていて、何を考えているのか全然わからない。その瞬間、彼が私の腕を軽く掴んだ。力はそんなに強くなかったけど、その手がとにかく気持ち悪かった。笑顔を浮かべながら「安心して」と言われても、逆に全く安心できない。むしろ、この場から逃げ出したくてたまらなくなった。
腕を引き抜いて、後ろに一歩後ずさりした。「やめて」と叫びたかったけど、声が出なかった。体は震えていたけど、なんとかその場を立ち去らないと、もっと恐ろしいことになるんじゃないかという不安が一気に押し寄せてきた。
「……ごめんなさい、もう帰ります!」
それだけ言って、逃げるようにその場を去った。後ろを振り返ることはできなかった。彼の手の感触と、あの異様な笑顔が頭から離れなくて、家に着くまでずっと足が震えていた。
◇
(隆・40歳)
美咲が急に立ち去ったけど、気にすることはないと思った。若い子は感情を表に出すのが苦手だ。ちょっと恥ずかしくなって、逃げただけなんだろう。明日、また会えば、きっと彼女も落ち着いて、普通に接してくれるはずだ。俺たちはまだ始まったばかりだし、時間をかけて彼女が俺の気持ちに気づいてくれれば、それでいい。彼女が感謝する日が来るはずだと、俺は信じていた。
俺が彼女を大事にしていることに、いずれ気づいてくれる。若い子は時間がかかるものだし、それを理解していれば大丈夫。焦らずに、ゆっくりと俺たちの関係を築いていけばいいだけだ。
(美咲・18歳)
家に帰っても、あの気持ち悪さが消えなかった。彼の手の感触が今でも残っている気がして、体中が震えた。どうしてあんなことになったの?彼があの笑顔で「安心して」と言った瞬間、鳥肌が立って、本当に気持ち悪かった。頭の中で何度もその場面が繰り返されて、涙が出そうになった。
もう、二度とこんなことには巻き込まれたくない。あの人とはもう絶対に会いたくない。私は携帯を取り出して、彼の連絡先を見つめた。このままじゃいけない。次にまた彼が近づいてきたら、どうやって逃げようかと考えてばかりいた。
でも、こんな風に怯えてばかりじゃ、私は変われない。だから、思い切って彼の連絡先をブロックした。そして、もしまた会った時には、ちゃんと断ろうと決めた。
「これ以上、近づいてこないでください」
そのメッセージを送り、画面を閉じた。怖さと安堵が交錯する中で、これで終わりにしようと決めた。もう彼に囚われる必要なんてない。
◇
(隆・40歳)
「これ以上、近づいてこないでください」
そのメッセージを見た時、俺は一瞬、目を疑った。何かの間違いかと思って、もう一度メッセージを確認したが、どう見ても美咲からだった。何が起こっているのか理解できなかった。彼女はただ照れているだけなんだろう。若い子はこういう時、感情を正確に表現できないものだ。だから、何か誤解してるんじゃないかって思った。
「美咲……」 俺はスマホを握りしめながら呟いた。どうしてそんなことを言うんだ?俺はただ、彼女に優しくしたいだけだった。俺たちにはまだ時間があるし、これからもっといい関係を築けると思っていた。でも、彼女の言葉はまるで俺を拒絶するかのようだった。
「どうしてだ?」頭の中が混乱し始めた。あの時も、彼女はちょっと緊張していただけだと思っていた。あんなに優しく接したのに、なんでこんな反応になるんだ?俺は彼女のためを思って、いつも気を使ってきたのに…。
気持ちがぐちゃぐちゃに絡み合って、腹の底から何かがこみ上げてきた。どうしてこんなにも俺を拒絶するんだ?俺は彼女のために動いているのに…。彼女はまだ俺の本当の気持ちに気づいていないんだ。そうだ、きっとそうに違いない。
「美咲、俺が必要だって、いずれ気づくはずだよ。」
彼女が距離を取るのはただの一時的なことだと、自分に言い聞かせながら、俺はスマホを静かにポケットに戻した。次に会った時、きっと状況は変わるはずだ。
翌日、郵便受けにいつもとは違う、少し厚みのある封筒が届いていた。差出人には「〇〇法律事務所」と書かれている。なんだろう、と思いながら封を開けると、中には内容証明郵便が入っていた。目を通すと、その内容に驚愕した。
「美咲さんからの依頼により、今後一切の接触をお断りします。これ以上の接触や嫌がらせ行為があれば、法的措置を取らせていただきます。」
俺はしばらくその文面を凝視していた。何だこれは?冗談だろう?美咲が俺をこんな風に見ているなんて信じられない。弁護士なんかを通じて、こんな冷たい言葉を送りつけるなんて。俺は美咲のことを本当に大切に思っていただけなのに。
それに、嫌がらせだなんて……。そんなつもりは全くない。俺はただ、美咲にもっと近づきたかっただけだ。俺の気持ちが伝われば、彼女だってきっと分かってくれると思っていた。俺たちはただ時間が必要なだけだと信じていた。
手紙を持つ手が震える。弁護士からの内容証明なんて、初めての経験だ。こんな冷たい文面を送られてくるなんて、まさか美咲がここまで本気だったなんて考えてもみなかった。俺は彼女を傷つけてしまったんだろうか?いや、そんなはずはない。俺はただ、美咲を幸せにしたかっただけだ。
頭の中で何度も同じ言葉がぐるぐると回る。だが、現実は変わらない。このまま彼女に連絡を取り続ければ、本当に法的手段を取られる可能性がある。俺は、次に何をすればいいのか分からなくなってしまった。
40男は18歳の女の子を女として見るな 桜野結 @ankoro29
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