第2話 私がヒーロー!?

地球から離れた位置にそれは存在していた。

大型の円盤の様な黒い要塞は不気味に浮遊し、その禍々しさを物語っている。その中にある一室で蜘蛛型の怪人がモニターを見つめていた。

2つの白い目に映るのは青い星でそれを見ながら口元の牙を動かして口を開く。


「あれが人間共の住む星チキュウか。我々が次に狙う目的地……。」


その後ろから現れたのは赤い複眼と黒い身体に触覚を持つ飛蝗型の怪人、不気味な姿が特徴でもある。腹部と腰の中間には赤い球体が嵌められていた。


「例の王国から逃げた王女が、どうやらその星に逃げ込んだらしい…既に向かったソルジャー部隊のコマンダーから報告があった。」



「流石は精鋭部隊、仕事が早い…。なら、急がねばなるまい。」


続いてドアが開いて入って来たのは蜂の頭部に対し、格子状の模様が入った灰色のスーツを着た女性型の怪人。左腰にはサーベルの様な物を備えている。


「…我らヴィランデールに失敗は許されない。王女を殺し、奴が持ち去ったモノを回収…その力を皇帝陛下へと捧げる為にも。」


蜘蛛型の怪人が頷くと同時に再び口を開いた。


「我らより先に赴いたリザードロイドは良き戦果を持って帰れるか……見物だな。」


そう呟くと彼は不気味な笑みを浮かべながら嘲笑っていた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

その頃、フルール王国から異次元空間を利用し霞ヶ丘市にある森林公園へ辿り着いたリーナは地面へ横たわっていた。目を覚ました彼女は咄嗟にその場に起き上がると頻りに周囲を見回してみるが有るのは木々ばかりだった。


「うぅッ…此処は…そうだ、お父様は!?お母様は!?」


自分の直ぐ近くに落ちているのは国王である父から託された1冊の薄い書物とペン、そして鍵穴の付いた箱だけ。

その書物には何も記載されておらず、真っ白な白紙だった。


「やはり異世界に来たのか…これも壊れてしまったらしい。」


右手首を見てみると託された腕輪は無事だが、宝石にヒビが入っているのが目でも解る。

自分の今の格好は式典の時のドレス姿のままで此処が何処なのかも解らない。

立ち上がった彼女は諸々を拾ってから何とかして情報を得ようと森の中を歩いているとガサガサと葉が不審に揺れ動く。そして離れに現れたのは自身の祖国で見たあの銀色の仮面達、又の名をソルジャーだった。


「なッ…どうして奴等が此処に!?」



「ギィーッ!!」


此方を捉えたのか彼等はリーナを追って来る。

そして手にしていた細長い銀色のライフルを構えて各々が撃ちながら迫って来たのだ。

リーナが逃げ惑う様はまるで狩りの獲物、ドレスを両手に持って捲り上げては慣れないヒールの靴で必死に走って逃げていた。


「くそッ、私にも…私にも力が有ればあんな連中…ッ!!」


歯を食い縛って何とか逃げ延び、公園から出ると通りを左へ曲って更に走る。見慣れない格好をした人達の合間をすり抜けながら歩道を走って行くが曲がろうとした際に横断歩道を飛び出した事で車に轢かれそうになってしまった。ドライバーから怒鳴られながらも彼女は必死に走り続け、後ろからは尚もソルジャー達が追い掛けて来ている。そして彼女は霞ヶ丘私立中学校と書かれた建物の裏側へと知らずに逃げ込んだ。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

波乱の昼休みの後に行われた午後の授業が終わり、翔太は何処か安堵していた。

健吾達不良グループは蒼空と目撃者の証言により一連の行動がバレて教師へ突き出された。

そして強制的に帰らされた事から普段の様に放課後に絡まれたりする事は無かった。

クラスに来た敦士とクラスメイトの守と共に自身のクラスを後にすると廊下を歩き、玄関へと足を運ぶ。


「翔太、その…ごめんな?俺らじゃ勝てないと思って…。」



「本当にすまん……。」


2人が謝ると翔太は「平気だ」と話す。

階段を降りようとした時に聞き覚えのある声に呼び止められて振り返ると蒼空が走って来た。


「えっと…キミは確か3組の天音さん?」



「そうです、えーっと…」



「僕は小鳥遊翔太、彼が太田守で…そっちの彼が中村敦士。」


翔太が2人を蒼空へ紹介すると彼女は頷いていた。


「小鳥遊君と太田君、それから中村君!私は天音蒼空、改めて宜しくお願いします!」


ニコニコと微笑みながら彼女は頭を下げる。

天真爛漫という言葉が似合う位に彼女は元気そのものに見えた。そこから始まったのは3人の関係性や最近の特撮物の話で不思議と蒼空は3人の話す事にも普通について来れる位の知識があるのは確か。最近では女性にも特撮が浸透している事は珍しいのか翔太達からすれば何処か不思議な感覚だった。靴を上履きから履き替えてから外に出て、3人と並んで校門を抜けた直ぐ左側の通りを歩いていると黒い煙が立ち昇っているのを見付ける。そして僅かに焦げ臭い匂いが漂っていた。


「何だろう、火事かな?」



「行ってみましょう、もしそうなら先生か誰かに知らせないと!!」


蒼空は翔太へ促すと後続の2人も動き出した。

4人は来た道を引き返し、学校のグラウンド横にある草村へ入っては煙の有る方向へと走って行く。木々を掻き分けた先に有る広場に居たのは赤いドレスに身を包んだ自分達と同じ年頃の女の子。ケガをしているらしく、右膝からは擦り剥いた事で血が滲んでいた。他にも左頬や左右の腕にも所々傷が有る


「大丈夫ですか!?こんなに血が出てる…早く手当しないと。」



「この子、知らない子だ。うちの学校の生徒じゃない…。」


蒼空が少女を介抱している最中、翔太は傍らに落ちていた書物とペンを見付けてそれを拾って見ていた。


「ノートに…ペン?どうしてこんなモノを。」


すると少女が息を吹き返し、彼の制服の右袖を引っ張った。


「そ…それに…触るな…ッ…!私に…構わず…早く…早く逃げろ…奴等が…奴等が来る…ッ…!!」



「逃げろって…それに奴等って──」


翔太が問い掛けた時、守が声を上げて両手を上げていた。敦士に至っては地面に腰を抜かして座り込んでいる。振り返るとそこに居たのは銀色の仮面を付け、黒いボディスーツを着ている謎の集団。気味が悪いのは顔の端まで黒い線が目の代わりに入っているという事だろうか。彼等は何れもライフルの様な物を構えて4人と1人へ銃口を向けていた。


「その小娘を此方に渡せ。さもなくば…貴様らを消し炭にしてやる!!」



「か、怪人だ…しかも特撮に出て来る様な戦闘員…!?」


何かの撮影に紛れ込んでしまったと錯覚させる位の出来に対し、翔太は感動すら覚えていたが

今はそんな悠長な事を考えている場合ではない。何とかしてこの子を連れて此処から逃げなくてはならないが目の前に居る可笑しな集団が気掛かりでならない。すると蒼空が自分から立ち上がると翔太の元へ来て立ち止まった。


「小鳥遊君、彼女をお願いします。」


何かを察した翔太は咄嗟に止めに入る。

だが蒼空はポケットから取り出したヘアゴムで髪を後ろで1つ結びにすると歩みを進めて行った。


「そんな無茶だ!天音さんだけにそんな危険な真似はさせられない!!」



「私はヒーローになる為に努力という努力を怠らず毎日重ねて来ました…例え周りからどんな目で見られても構わない、どんな扱いをされても構わない、自分で決めた事だから絶対に叶えようって。そして今がその時…覚悟は出来ています!!」


軽くストレッチをした彼女はソルジャー達の近くで立ち止まると身構えた。


「何だ?俺達とやり合う気か?それとも大人しく渡す気に──」



「あの子は絶対にお前達には渡さない…渡すもんか!!」



「ほぅ?小娘風情が生意気な…どうやら本気で死にたいらしいな。ならば、お望み通りにしてやるッ!!」


1人のソルジャーが武器を捨てて蒼空へ襲い掛かり、右手の拳を繰り出して殴ろうとする。

だが彼女はそれを躱して反撃、続く左手の拳も躱すと今度は身体を右へ僅かに捻ると右手を突き出し、ソルジャーの顔面を真正面から殴ったのだ。だが全く手応えが感じられなかった。


「なッ…!?」



「残念だったな…そんなヘボパンチが俺に効くかよ!!」


動揺している蒼空へ放たれた腹部への鋭い右フックが突き刺さり、彼女は苦しそうに悶えるがそれでも体勢を立て直して果敢に挑んでいった。

パンチがダメならキック、それでもダメなら何度も連続して拳を繰り出すも依然として効果がない。確かに命中しているのにも関わらずだ。


「何でッ、どうして効かないの!?確かに急所を…捉えている筈なのに!!」



「さぁ、何でかなぁッ!!」


そしてソルジャーが放った右足の回し蹴りが蒼空の顔面へ向けて繰り出され、それを彼女が左腕を畳む形で防ぐが反動を殺し切れずに吹き飛ばされてしまう。地面を転がった末に彼女は膝を付いて相手を見つめていた。


「っぐぁ!?くぅ…ッ…!!」



「ただの人間風情が俺達、改造兵ソルジャーに敵うワケねぇだろう?そして俺はコマンド・ソルジャー…此奴らの上玉ってワケだ。」



「改造…!?つまり普通の人間じゃない!?」



「その通り!だからお前のヘナチョコ攻撃なんざ俺には…いや、俺達には効かねぇんだよッ!!」


近寄って来たコマンドソルジャーが蒼空を蹴飛ばし、横たわった彼女を足蹴にし何度も蹴り飛ばしていた。腹部や左右の肩や脇腹等を徹底的に蹴り付けている様は虐められている子供と同じ。

ボロボロにされた蒼空はその場で苦しそうに

蹲っていた。自身の力が通じない悔しさ、そして虚しさを噛み締めながらそれに耐える事しか出来ない。


「うぅ…ッ……。」



「これで懲りたか?それともッ──!」



「な…うぐぅッ!?」


蒼空の首を右手で掴んで無理に立たせると力を込め、締め上げたのだ。両足を動かして苦しむ彼女の姿を見て目の前のコマンドソルジャーは嘲笑っている。


「ふははははは!!どうだ、大人しくあの小娘を渡す気になったか?それともまだ苦しみたいか…素直にハイと頷けばお前だけは助けてやるぞ?」



「ッ……!?」


迫られたのは2択の選択肢。

あの子を渡すか、それとも自分が犠牲になるか。渡せば自分は助かるがあの子の身の安全は保証されないだろう。だが蒼空の決断は最初から決まっている。彼女は黙って静かに首を横へ振った。


「わ、渡さ…ないッ……!!」



「そうか…ならこのまま…ッ!?」


直後にコマンドソルジャーの左肩へ何かが着弾し怯んだ。後方を振り返ると翔太がその手に見慣れない銃を手にしていた。守と敦士は彼の傍で少女を守る様に立っている。その彼の傍らには開かれた書物とペンが置かれていた。


「彼女を…天音さんを…離せぇッ!!」



「小僧、よくもぉッ…!!」


少女が何かを呟くと翔太が頷き、発砲。

続く2発目が蒼空へ当たるか否かギリギリの位置をすり抜けて着弾した。その隙に蒼空はソルジャーの胸元を思い切り蹴飛ばして拘束を逃れ、咳き込みながら呼吸を整えていた。


「たッ、小鳥遊君…ッ…一体何を…!?」


後退し彼の元へ駆け寄ると少女が蒼空の右手首を掴んで話し掛けて来る。


「…戦う覚悟は…有るか?」



「えッ…?」



「お前に…その覚悟が…有るのなら…あの程度の…障害は…跳ね除けられる…ッ…!!」



「戦うって…でもどうやって…!?」


少女が首から下げていたブローチを外して鍵へ変化させて箱を開くと何も無い中から白い腕輪の様な物を取り出し、それを蒼空へ手渡したのだ。


「これは…?」



「…お前に…その資格が有るなら…これは応えてくれるだろう…。例え相手が強くとも…立ち向かい、決めた事を成し遂げる勇気…それが…!」



「ヒーロー…!」


蒼空が思い出した様に復唱する、そして少女と共に頷き合うと振り返った。


「最後の相談は終わったか?弱い奴は大人しく、強い奴の言う事に黙って従ってればいいんだよ!!」



「私は絶対に負けない…例え相手が強くて、挫けそうになっても…絶対に最後の最後まで希望を捨てず、諦めない…それが私の目指すヒーローだぁッ!!」


思い切り叫ぶと直後に彼女の胸元から青く球体状の光が空高く解き放たれ、それを左手で掴み取る。見てみるとそれは宝石の様に青く光り輝いていた。


「これは…!?」



「それをさっきの…腕輪に…ッ!!」


少女が促すと蒼空はそれを右手首の白い腕輪へと嵌め込む。そしてそれを掲げて叫んだ。


「ジュエルストーン、コネクト!!チェンジ・サファイア!!」


その直後だった。蒼空の全身を青白い光が包み込むとその姿が変わり始めていく。

髪が足の脛付近まで伸び、右側へサイドテールで桃色のハートが付いた白いリボンで結ばれると今度は制服から青と白を基調とした魔法少女を彷彿とさせる様な衣装へ変化し、両手首から先を覆う様に左右の指先が空いた一体型の白いオープンフィンガーグローブが、両足も太腿の中程迄を覆う様に白いタイツと共に足元は銀色の靴へ変化したのだ。

最後に胸元へ青い宝石の付いた白いリボンが結ばれると変身が完了する。右手を振り抜くと同時に光が解き放たれ、そこに現れたのは蒼空と似た何者かだった。


「青く輝く勇気の騎士、サファイア・ナイト!!」



「な、何だぁッ!?何が起きてやがる…ッ!!」


サファイア・ナイトと名乗った彼女を見た

先程のソルジャーが叫び、その場に居た7人のソルジャー達が一斉にサファイア・ナイトへ向けて襲い掛かって来た。


「うわわぁッ!?」


1人目が振り下ろして来た武器を後ろに飛び退いて躱し、咄嗟に相手の身体へ左手で掌底を打ち込むと直後に凄まじい勢いで吹き飛ばされて離れへ落下し倒れた。

どう見てもこれは自身の力にしては強過ぎる。


「こ、これが…私の…!!」



「たかが見た目が変わった位で大袈裟な!!囲め、囲んで袋叩きにしてやれッ!!」


ゾロゾロとソルジャー達がサファイア・ナイトを取り囲むが彼女は臆せずに深呼吸し身構えた。


「どこからでも…おいでなさいッ!!」


彼女の挑発と共に駆け出したソルジャー達だったが、圧倒的な力の前に為す術がない。

繰り出された刺突を紙一重で身体を左に逸らして躱すと今度は身体を右に捻ってから拳を思い切り突き出して右ストレートを繰り出すとそれが命中、ソルジャーが吹き飛ばされる。

後ろから来ようなら素早く振り返って手刀を腹部へ打ち込んで怯ませてから頭部へ再び手刀を打ち込む等して1人、また1人と制圧してしまった。


「な、何だよ…何が起きてるんだ!?」



「はぁあああッ──!!」


繰り出された正拳突きがソルジャーへ命中、

吹き飛ばされ、自身を襲ったコマンドソルジャーの付近に有る木へ激突し地面へ崩れ落ちた。


「う、嘘だろ…まさか全員やられちまったのか!?」



「残るは貴方だけです!さぁ、覚悟!!」



「ぐッ…くそぉおおッ!!」


コマンドソルジャーは腰に下げていた武器を構え、雄叫びと共に突撃するとライフル形態に切り替えてレーザー弾を発砲する。直後にサファイア・ナイトは左右手の拳を握り締め、身体を右側へ捻る様な構えの後に今度はレーザーをすり抜けて一気に加速する。そして間合いが詰まる瞬間、右手を握り締めると思い切り正面へ突き出した。


「サファイア!ブレイブ・パーーーンチ!!」


青い光に包まれた右手の拳がコマンドソルジャーの腹部へ思い切りめり込む。そして振り払った直後に吹き飛ぶと木々を幾つか薙ぎ倒した末に彼は倒れてしまう。そして彼を含んだソルジャーは全滅した。着地したサファイア・ナイトは呼吸を整え、深呼吸すると変身が解けた。


「か…勝っちゃった……。」


振り返ると守と敦士に支えられた少女が歩いて来る、翔太も彼女に付き添っていた。


「サファイア・ナイト…青き勇気の騎士…か。」



「あ…ッ、ダメですよ動いたら!!」



「この位平気だ…それよりも何処か休める場所が欲しい…そこで私が知っている事を話そう……この星は今、狙われている……悪の侵略者、ヴィランデールに。」



「ヴィラン…デール……?」


聞き覚えのない単語に一同が首を横へ傾げるが

取り敢えず5人はその場を離れる事に決めた。

だがまだ戦いは終わった訳ではない。

これからが始まりなのだ。

天音蒼空/サファイア・ナイトの戦いの幕が

たった今、切って落とされた瞬間だった。


そして人通りの少ない場所を進む5人の後方を見つめている姿が有る事を彼等はまだ知らない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕とあのコはヒーローになりたい 秋乃楓 @Kaede-Akino

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画