僕とあのコはヒーローになりたい
秋乃楓
第1話 出会いと始まり
始まりは理不尽で唐突だった。
私の故郷であるフルール王国は代々国王である父が国を納め、そして母である王妃が共に寄り添う形で協力し更に良い国へ発展させるべく日々務めていた。
国民も王族や関係者の誰もがこの平和で豊かな暮らしが続くとずっとずっと思っていた。
そう…あの忌々しい出来事が起こるまでは。
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「あのリーナ様…式典の時位は鍛錬もお休みになられては如何です?」
王宮から離れた所にある鍛錬場。そこで木製の剣を振るう長い金色髪を後ろでひと纏めた少女とそれを心配そうに見つめている赤と白を基調とした軍服に身を包んだ茶髪の若い男性の姿があった。一方の少女の格好は紺色の半ズボンと上は白の半袖シャツだった。
「そうはいかない。いつ如何なる時も油断は禁物だと私に教えたのはクラウスだろう?」
「そ、そうですが…何かあれば殿下に合わせる顔が……。」
「案ずるな。数回程、素振りしたら止めるよ。本当は誰かに手合わせを頼みたかったがな?」
「姫様!!」
「ふふふッ、冗談だよ。」
軽く笑うと彼女は素振りを済ませてから2人は王宮へと戻って行った。式典というのはリーナが晴れてフルール王国の騎士として認められたという事を意味し、同時に国王からとあるモノを授与される。それは代々この国を守る者達に渡されるのだが全容は明かされていない。
リーナが部屋へ戻ったと同時に使用人達に囲まれ、軽い入浴を済ませた後に椅子へ座らされると身支度を整えられながら彼女は鏡を見つめていた。
「……ドレスは私には似合わない。」
ポツリと呟くと左横に居た黒髪のメイドが彼女へ話し掛けると髪を整えていく。
「いけません、今日は大切な式典の日。しっかりとした格好でなくては。」
「そうは言ってもだな…って化粧もするのか!?」
今度は右横に居た緑髪のメイドがリーナへ化粧を施していく。
「動かれるとズレてしまいますよ?ささ、目を閉じて…そうそうそのままで。」
そして更に橙色の髪をしたメイドが前からリーナに似合うドレスと靴を用意するとそれを彼女へ着せてサイズやら何やらを調整。そこには先程の様な何処か男らしい様な風貌とは打って変わって王族の女性らしい華やかな少女の姿があった。
金色の髪の毛は白いリボンでツインテールに結ばれ、その首から下は赤いドレス。足元も赤いヒール付きの靴を履いている。
「あ、歩きにくいぞ…!」
「とてもお似合いですわ!!歩き難いのは我慢なさって下さい。」
普段からヒールを履かない彼女からすれば慣れないのは仕方が無い事。メイド達に途中までエスコートして貰った後に式典会場である王宮の中庭を訪れると既に多くの関係者達で溢れていた。
リーナは騎士団の仲間達やこの日の為に訪れた外部の人間達と挨拶を交わし、それが済むと自身の座る席へ腰掛けた。様子を伺っていると少し経ってから式典の幕が開けて華やかなムードの中で式が進行していく。
そして勲章授与の瞬間が訪れるとリーナは父親である国王から名を呼ばれて返事をすると
壇上へ登壇し彼の目の前へ訪れてから一礼した。目の前に居るのは黒い髪と髭を持つ穏やかな人相をした年配の男性、彼はリーナへ語り掛ける様に話し始めた。
「我が娘リーナよ…お前は晴れてこの国の騎士となるのだ。お前の明るさ、そしてひたむきな懸命さは我がフルール王国には欠かせぬ。父としてこれ程、誇らしい事は無い。」
「お父様…私はこれからも、そしてこの先も
この国の為に尽くして参ります。貴女の娘として…騎士として日々の精進を怠らぬ様に。」
リーナの言葉の最後に彼から差し出されたのは菱形をした黄金色の石と白い腕輪の様な物だった。
「国王様、私は──ッ!?」
受け取ろうとしたその瞬間、何かが離れに落下した事で発生した大きな地響きによって周囲が揺れる。そして周囲でざわめきが起きたのも束の間、外壁が壊されるとゾロゾロと銀色の仮面を付けて黒いスーツに身を包んだ者達が銃を向けて来たのだ。その場に居た騎士達が一斉に身構え、リーナも国王を庇う様に前へ立つ。
「お父様…あの連中は?」
「そうか、とうとう来てしまったか…。」
「え…?」
「奴等はヴィランデール…国を次々と侵略しては我がモノとするならず者の集団…!!」
「ヴィラン…デール!?」
リーナが復唱した直後に悲鳴が上がる。
銀色の仮面達は次々と躊躇う事なく王族の関係者達を次々と襲い始め、騎士達とも戦闘を繰り広げばていく。穏やかな雰囲気に包まれていた式典はあっという間に張り詰めた空気で満ちた戦場へと変わり果ててしまった。
「お父様、一体コレは何なのですか?」
「我がフルール王国に伝わる伝説の戦士を目覚めさせる物らしい…もしお前がその適任ならばコレが目覚める。」
そう彼が話した直後、放たれた数発の銃弾に対しリーナが国王を庇って咄嗟に地面へ伏せさせた。起き上がった彼女は先程受け取ったそれを握り締めて立ち上がる。駆け付けたクラウスは2人の身を案じながら襲って来た連中を辛うじて払い除けていた。
「…クラウス!お父様を早く安全な所へ!!」
「ですが、リーナ様は!?」
「私にはやる事が有る…あの連中に思い知らせてやるのだ、我がフルールに土足で踏み入り…この地を穢した事がどれ程の大罪であるかを!!」
リーナは自ずと歩みを進め、菱形の石を腕輪へ嵌めて右手首を空へ掲げると叫んだ。
「国に伝わりし伝説の力よ、我が名はリーナ・フルール!!伝説が確かなモノであるのなら…我に応えよぉッ──!!」
そして彼女の元へ金色の光が降り注ぐと周囲の仮面達を弾き飛ばすと共にその姿が変わった。所々に赤い装飾が有る純白のドレスの様な衣装に身を包み、リボンも赤い物へと結び直されていた。一切に彼らはリーナへと照準を合わせると彼女は右手で光を振り払って彼等を睨む。
「全てを照らす光の騎士!トパーズ・ナイト、
降臨ッ!!我が光の前に闇は無力と思い知るがいい!!」
彼女はそう名乗ると傍らに落ちていた剣を拾って右手に握り締めると果敢に彼等へ立ち向かっていった。だがトパーズ・ナイトの奮闘も虚しく、強引に押し切られてしまうと同時に闇の存在は彼女と国王達を窮地へと追い込んだ。
事態を重く見た国王は自らの娘であるリーナへ1つの言葉と共に残る力を彼女へと託した。
-伝説の戦士は必ず、世界を救ってくれる。-
そして彼女は両親に見守られながら自らの故郷を手放し、王妃の力により別の次元へと飛んだ。それから程なくしてフルール王国はヴィランデールと呼ばれる組織の手に堕ちたのである。
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そんな事が起きているとは知らないもう1つの世界。そこは不思議な力等はなく、普段と変わらない穏やかな日々がそこには有った。
霞ヶ丘市に暮らしている中学2年生、
「やっぱり我ながら良いデザインだと思うんだけどなぁ、コレ。」
そこに書かれていたのは特撮ヒーロー物のオリジナルキャラ、絵のタイトルには電光刑事フラッシュマンと書かれていた。もう1冊のノートには女児向けヒロインのコスチュームデザインが書かれている。そして部屋の中に有るのは特撮物のグッズやポスター、玩具等。
何を隠そう翔太は立派な特撮オタクなのである。寝癖のある黒い髪を整えに洗面所へ向かい、顔を洗ってから朝食を済ませる。
家族構成は彼と両親の3人で他のきょうだいは居ない。食事を終えた後に今度は部屋で学校の制服に着替えてから鞄に教科書や筆記具と共に先程のノートを入れると玄関へ赴いて靴を履いてから「行ってきます」と一言声を掛けて外へと出て行った。通学路を歩いていると後ろから声を掛けられ、振り返ると小太りの少年と痩せた少年が手を振っていた。
2人は翔太の友達で小太りの方は
「なぁ翔太、この間の仮面バスター見たか?」
「勿論見たよ、いやぁアレは凄かったなぁ。そういや守と敦は追加戦士のベルトは買うの?」
「俺は買っても巻けねぇしなぁ。」
守が笑いながら話すと横に居た敦士が話し始める。
「小遣いがもうちょい足りたら買うかもな。ウチの家、ケチだし…そういうの欲しくても買えねぇんだよなー。」
そういった何気ない話を続け、学校へ着くと
守と翔太はクラスが同じ事から敦士と途中で別れて自分達のクラスへ。中へ入ると室内は転校生の話題で持ち切りだった。
翔太達のクラスではないが他のクラスに転校生が来るのだという。「羨ましい」だの「良いなぁ」とかそういった言葉が飛び交うが現実的に考えれば自分達には関係ない話。
守と翔太は自分達の席へ腰掛けた後、それから少し経って教師が入って来てホームルームと午前中の授業が始まった。
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そして昼休みを迎え、敦士と共に屋上へ向かうと地面へ座る。3人が円になる形で腰掛けてから各々が昼食を摂り始める。
そこで交わされるのはやはり特撮の話、翔太はノートを持って来ていて、自身が描いたオリジナルのヒーローの話もそこでしていた。盛り上がっていた所へ現れたのは茶髪の髪に対し制服を着崩したややガラの悪い生徒、それは翔太のクラスメイトでもある
「あのさぁ…お前らいい歳してまだそんなモン見てるワケ?いい加減卒業しろよな。」
「そーそー、ガキじゃねぇんだから。」
正夫がニヤニヤと笑いながら付け加え、翔太からノートを取り上げた。
「返してくれ、それは大事な──ッ!?」
彼が取り返そうとした所を利樹が阻んだ。
パラパラと健吾が捲ってから笑い出した。
「どれどれ…俺にも見せてくれよ。うーわダッセー!!お前まだこんなモン描いてんのか?お絵描きは小学校で卒業しなくちゃダメだろー、ショータくぅん?」
ページを開いて掲げると周囲の生徒にも聞こえる様に言いふらした。それは彼に対する辱めにも等しい。
「あ、そうだ。そういやお前…将来はヒーローになるんだって昔、作文に書いてたよな?」
「ッ…だ、だから何だよ…!!」
「お前みたいな弱っちぃ奴がヒーローなんかに成れるワケねぇだろ。少しは現実見ろよ、現実!まぁ、そこのデブとガリもお前と似てバカな夢抱いてるんだろうけどな!ギャハハハ!!」
健吾に嘲笑された翔太は俯いたまま、何も言い返せずその場に立ち尽くしていた。すると突然足音が聞こえて振り返ると見た事のない青髪の少女が2人の方へやって来て近くで立ち止まる。そして健吾の方を指差して叫んだ。
「ちょっとそこの貴方!人の夢を貶して笑うだなんて人として最低な行為ですよ!!」
「あ?何だお前、大体何処のどいつだ!?」
「私の名前は
そう名乗った彼女と健吾が対峙、取り巻きの2人も蒼空の方を見て威圧して来る。
「現実を見ねぇ奴に現実を教えてやったんだ、何が
「それが人に教える態度ですか?もしそうなら貴方は人としてどうかしています、ましてや大勢の前で晒すだなんて!!」
「うるせぇ!女の癖にベラベラと俺に説教しやがって!!」
ノートを正樹へ押し付け、舌打ちした健吾は
蒼空へ目掛けて拳を振り翳して殴り掛かった。だが彼女はそれを恐れずに左手で受け止めたのだ。
「なッ!? 」
「案外、弱っちぃパンチですね。男の子ならもっと本気で来たらどうですか?」
「んだと、てめぇえッ!! 」
挑発を皮切りに翔太の近くで始まったのは
女子と男子の喧嘩、だが蒼空と名乗った彼女の動きは何かを習っているのか身のこなしが洗練されていた。健吾が放ったパンチを顔を左右に動かす形で躱し、回し蹴りが来ようなら身体を後方へ逸らして躱してしまったのだ。
「くそッ、さっきからちょこまかしやがって!!このッ、このぉおッ!!」
「ふふふッ、そろそろ限界ですか?」
幾ら健吾が何をしても無駄なのは明白、ならばと正夫に合図し彼女を後ろから襲えと目線で指示を出す。そしてその言葉通りに蒼空の背後へ忍び寄って覆い被さる様に抑え込むと健吾は右ストレートを彼女の顔面へ向けて繰り出した。
「喰らえぇえええッ──!!」
「ッ…!!」
すると蒼空は正夫の右足を踵で踏み付けてから両腕と肘を張る様な姿勢で屈み、拘束から抜けて右へ避ける。蒼空へ放たれた筈の渾身の一撃は正夫の顔面へクリーンヒットしてしまうと彼は鼻血を出して背中から地面へ倒れてしまう。その間、僅か一瞬の出来事だった。
「まッ、正夫ぉッ!?」
「うわぁ…痛そう……大丈夫ですか?」
倒れている正夫を蒼空が心配している所に健吾は彼女へ再び詰め寄ろうとしたが、即座に振り返って来た蒼空を見て歩みを止めた。
「それよりも…そのノート、早く彼に返してあげて下さい。それとも…まだ続けますか?」
「く…くそッ!返せばいいんだろ!!返せば!!」
利樹からノートを奪うとそれを蒼空へ投げ付け、健吾と利樹は正夫を無理矢理起こして何処かへ行ってしまった。蒼空はノートを手にすると翔太の前へ来て差し出して来る。
「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとう…ございます。助かりました。」
「いえいえ、礼には及びません。ところでそのノートには何が描いてあるんですか?私が居た位置からだと中身とかよく見えなかったので…良かったら見せて頂けませんか?嫌なら嫌で構わないので!!」
「え、えーっと…。」
ずいっと蒼空に迫られると翔太はノートの中身を蒼空へ見せた。そこには彼が描いたオリジナルヒーローの絵が載っていて、どれも事細かに説明が記載されていた。彼女はパラパラと捲ってページを隅々まで事細かに読んでいる。
「わぁ…。」
「やっぱり変…ですよね?僕、実はこの歳で未だにヒーローになりたいだなんて持ってるんです…。でも喧嘩とか全く強くないし、足だって早くないし…頭だって良くない…それに自分でも解ってるんです……本当は──」
「成れますよ。」
「……え?」
ノートを閉じた蒼空は彼の方を真っ直ぐ見て微笑んでいた。
「だって私もキミと同じでヒーローになりたいって小さい時からずっとずっと思っていますから。」
何かの聞き間違いかもしれないが、目の前の少女は翔太へ向かってこう言った。
-自分もヒーローになりたい。-
それは同じ夢を持つ者同士が出会った瞬間であり、同時にとある王国を侵略した悪の組織が彼等の住む街へ侵攻を決めた瞬間でもあった。
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