【第5話】姿を見ないと思ったら

「……お前、ニネットか?」


 それは不意に顔を見せた少女の中の一人。


 私の同期にして私よりも先に巡礼に向かったはずの神使みつかい仲間たる少女、ニネットの顔を見た私の驚きであった。


「んん? あぁ、アイファか~。おひさ~」


「あ、ああ。久しぶり……って、お前ここで何をしているんだ?

 最初の巡礼に行って以来、

 一度も姿を見かけずに半年以上が経っていたと思うが……」


 巡礼とは廃種ポリュシアン廃獣ラビッシュ・ビーストの脅威にさらされた、力無き一般人を守るため、聖術マナライズという特別な力を持つことが許された神使みつかい神子みこが、そんな彼らの代わりに戦うため、その現場へと向かう旅路のこと。


 それ故に多くの神使みつかい神子みこたちが、そんな彼らのためにと流動的に巡礼を行う訳だが、正直いつ帰ってくるのかはわからない場合がほとんどだったりする。


 なにせ、我ら神使みつかいたちは、とりあえず目的地へと向かって馬車で進んでは行くが、道中あえて遠回りをして廃種ポリュシアン廃獣ラビッシュ・ビーストが居ないかを念入りに確かめたり、立ち寄った村や町の誰かに請われて予定していない事件解決を目指したりすることがあるからだ。ただ単に事件解決が長引いてしまった、ということだってあるし。


 しかも、中には出発地点から一番遠い地への巡礼のついでに、途中途中の町や村の巡礼をこなそうという者もおり、おかげで「4~5年ぶり~」と再会を喜ぶことだって、我ら神使みつかいたちにとっては日常茶飯事だったりする。


 なので、ニネットと半年ぶりというのも大したことではないが、そんな彼女との再会が、まるで廃種ポリュシアンの彼女と顔見知り――否、それ以上の仲とも思えるような言動をした中での再会だったと、驚きを禁じ得ないという訳だ。


 一方、そんな何がどうなっているのかわからない私を余所に、ニネットたちの顔を見た廃種ポリュシアンの彼女はといえば、優しい笑顔でこう語る。


「あらあら、ごめんね~。皆~。

 後で皆にもおっぱい、た~っぷり飲ませてあげますからね~♡」


「「「「「はーい♡ お姉ちゃん~♡」」」」」


 それは彼女の言葉に、メロメロといった表情で返事をしたニネットを含めた少女たちの返事で……って!


「本当に何があったんだ?!」


 お前はどっちかっていうとダウナー系だったろ!?


 それがどうなれば今のようになるんだ?!


「それはね……私たちが愛を知ったからだよ。お姉ちゃんの無償の愛を!」


「無償の愛?」


 それってやはり、母親に使う言葉ではないのか?

 ならばもう、母親でいいのではないのか?


「ダメよ。

 あくまでもお姉ちゃんは、お姉ちゃんとして皆を可愛がりたいんだから♡」


「「「「「お姉ちゃん~♡」」」」」


「そ、そうか……」


 そうして呆れる私を余所に、無心でおっぱいを吸うエスカ……は、どうでもいいか。


 ……いや、どうでもは良くないのだが、今のこいつに何を言っても無駄だろうと、「神子みこ時代に巡礼を経験したことのあるあなたならわかるでしょ?」と話を始めたニネットの言葉に私は耳を傾ける。


「私たちは常に命がけで戦っているということを。

 世界を守るために、人々を守るために……

 死ぬかもしれない危険を冒して戦っているんだってことを!」


「そ、そうだな……」


 そもそも、そのための戦乙女ワルキュリアなのだし。


「でも! でもだよ!?

 人知れず死んじゃう子もいる程のことを私たちはしているってのに……

 基本的に私たちは誰にも褒めてはもらえない!

 感謝されることはあるけれど……

 だけど! 私たちを甘やかしてくれる人なんて1人も居ない!

 怖い思いをしても、苦しい思いをしても、

 あなたみたいにそれは当たり前だと思われて、

 あのフォルグ様だって、評価ぐらいしかしてくださらないんだよ!?」


「ま、まぁ、そうだが……って、お前は何を望んで……」


「でも! お姉ちゃんは違う!!

 私のことを……私たちのことを全て受け入れてくれたんだ!!!

 悩み、苦しみ、嘆き、悲しみ……

 廃種ポリュシアン廃獣ラビッシュ・ビーストと戦う度に増す感情全てを包み込んでくれたんだよ……」


 それは廃種ポリュシアン廃獣ラビッシュ・ビーストという狩っても狩っても減っていかない未曾有の脅威に対する不安への抱擁。


 失敗したら殺される。

 逃げては批難される。

 怖いのに怖いとさえ言うことができない。


 そんな押し潰されそうになる重圧。

 撤退することすらはばかられるプレッシャー。……その他諸々。


 その全ての答えを彼女が与えてくれたのだと、どこか涙を流しそうになりながら語るニネットには、他の少女たちももらい泣きしそうになっている。


 一方で、そんな彼女たちを母親……じゃなくて、姉のような慈愛溢れる微笑みで見つめた彼女はこう語る。


「ふふっ。そんなの、お姉ちゃんとしては当然じゃない。

 お姉ちゃんは妹の全てを肯定し、そして受け入れるために生きてるんですもの♡

 だから……皆にも、そしてあなたにもハッキリ言ってあげる。


 ……あなたたちは、生きているだけで素晴らしいのだと♡


 頑張ってるあなたたちは皆、その時点で素敵な子たちなのだと♡

 お姉ちゃんが認めてあげる♡ 甘やかしてあげる♡♡♡」


「「「「「お、お姉ちゃん♡♡♡♡♡!!!!!」」」」」


「……」


 ま、まぁ、実際初めての巡礼で怪我などして、それを起因とした恐怖心から心を病んでしまう神子みこも居るという話だし、そういうことならニネットたちが絆されてしまったのにも理解はできる……が。


 パンツ丸見えの、まるで幼児が着るようなフワフワな服を身に着けながら、今も彼女の母乳に群がろうという姿には、まるで理解ができ……って、そもそもその恰好はなんなんだ?


「これはお姉ちゃんの妹である証♡

 お姉ちゃんに甘やかされたい私たちの心の形なんだよ♡」


「そ、そうか……」


 正直、言いたいことは山ほどあるが……これはきっと言わぬが花というやつだろう。


 そうして彼女らの姿を呆れて見ていた私に対し、一方でその服には予備があったとニネット。


「それじゃあ、ほらアイファ。これ、着てみて?」


「着るか!!!」


 何故今の流れで着させられると思った!!


「遠慮する必要は無いのよ?

 アイファちゃんもお姉ちゃんのおっぱい、い~っぱい飲みまちょうね~♡」


 そうして見せてくるエスカが飲んでいない方の胸。


 おかげでその慎ましいとは真逆を行くサイズの胸囲には、


「お姉ちゃん! 私も!!」

「私もおっぱいほちいよぉ!!」

「あたしもあたしも!!」

「おっぱい!! おっぱいぃぃぃぃぃ!!!」


 と、ニネットたちが血眼になって欲してしまう。


 ……って。

 以前のニネットからは想像できない姿だなぁ……


 ハッキリ言って引くレベルなんだが……私は目を閉じていた方がいいのではないのか?


「ええ、勿論。あとでた~っぷりあげますからね~♡

 でも、今はまず、新しい妹・・・・を迎い入れる方を手伝ってね~♡」


 おかげでどうしようかと迷う私を余所に、お姉ちゃんなる廃種ポリュシアンはそんなことを……って、ん? 新しい妹?


「「「「「は~い♡♡♡♡♡」」」」」


 すると、その言葉にニネットを含めた少女たちは、各々得意とする武器や聖術マナライズを行使して、笑顔のまま私に襲い掛かろうとする。……って怖っ!! 笑顔のままは怖っ!!


 おかげで『全員、戦乙女ワルキュリアだったのか』とか、『そういえば、わざわざここで待ち伏せしていたと言っていたな。ならば標的は戦乙女ワルキュリアで、ここに居るのが全員戦乙女ワルキュリアなのは当然だな』とか、色々頭を巡らせた私は、すぐさま臨戦態勢に入ろうとする……が。



「ちょ~っと待ったぁぁぁ!!!!」



 それは突然のエスカの声。


 その急過ぎる声には私を含めて、流石の襲い掛かろうとしてきたニネットたちまで視線を彼女に移す。


 すると……


「それ以上、アイファ先輩に手を出そうものなら……

 このお姉ちゃんがどうなるか、わかってるんだろうな?!」


 いつの間にかエスカとお姉ちゃんなる廃種ポリュシアンの形勢が逆転していたと、四つん這いにしていた彼女に覆いかぶさるように、エスカはその両手で胸を鷲掴みつつ、股間に取り付けた大きなソーセージを彼女の股間へ挿入しようt……



 って、こいつはこいつで何してるの?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年12月21日 11:59

世界を変えようと誘った後輩(♀)が、私(♀)とイチャつくことしか考えてない! 井の中に居過ぎた蛙 @frog_in_i

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画